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第三章 ホオズキの街
第83話 パナシーアタケをもって街に帰ってきました①
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「それじゃあ、ザウラクさんはここで警備をしていて下さい」
「はい。わかりました」
頭にキノコを生やしピンク色のバスローブを羽織ったザウラクを街の中に入れるのは、色んな意味で危険だと判断した僕達は、ザウラクに街の外の警備をお願いした。
門番はやる気がないようだし、マニピュレイトタケを食べ、僕の管理下にあるザウラクさんなら門番として裏切る心配もなく適任だ。
ザウラクさんに街の外の警備をお願いしホオズキの街に入ると、デネブがお出迎えしてくれた。
「おお、お帰りなさいませ。それで、パナシーアタケは取れましたかな?」
どうやら、デネブ。僕達がパナシーアタケを持って帰ってくるのを心待ちにしていたようだ。
「はい。こんなに取ることができました」
籠一杯に入ったパナシーアタケを見せると、デネブは満面の笑顔を浮かべた。
「ほう。大量ですね。これだけあれば、十分です。すぐに煮詰めて万能薬を作りましょう」
「えっ? 万能薬ってパナシーアタケを煮詰めるだけでできるんですか?」
そう問いかけると、デネブは少しだけ焦った表情を浮かべる。
「おっと、安心感からか口が滑ってしまいました。万能薬の作り方は内密にお願いしますよ」
「はい。もちろんです」
しかし、よかった。
街の人全員に行き渡るか不安だったけど、この様子なら問題なさそうだ。
「折角の機会です。万能薬の作成過程を見たいとは思いませんか?」
「ええっ? いいんですか?」
「はい。もちろんです。このパナシーアタケはあなた方が森に入り命懸けで手にしたもの。疫病に苦しむ街の者にも、あなた方が必ずパナシーアタケを手にして戻ってくると、そう伝えてあります」
街の人達に態々伝えなくてもよかったのに……なんだか気恥ずかしくてこそば痒い。
「そうなんですか、それでは、折角なのでよろしくお願いします」
でもそれとこれとは話が別だ。
パナシーアタケを煮詰めるだけといっても、なにかコツのようなものや、特殊な機材を利用して作るのかもしれない。
パナシーアタケがあれば、自前で万能薬を作ることもできる。
なんで機密そうな情報を教えてくれるのかは謎だけど、教えてくれるというのであれば、教えてもらおう。
「そうですか、そうですか! それでは皆さん、こちらへどうぞ。調理場に案内致します」
「えっ? 調理場?」
まさかとは思うけど、本当にパナシーアタケを切って寸胴鍋で煮込むだけなんてことはないよね?
そんなことを考えながら、みんなで調理場に向かうと、デネブは、大きな寸胴鍋を三つ取り出し、僕達に包丁を渡してきた。
デネブに視線を向けると、いつの間にかマスクと手袋を着用している。
「それでは皆さん。パナシーアタケを一口サイズにカットして鍋の中に入れて下さい。あとはそれを煮込むだけで万能薬ができあがります」
「わかりました」
僕がそう言うと、アメリアさんがデネブに先ほどから気になっている点について質問した。
「えっと、質問してもよろしいでしょうか?」
「はい。なんでしょう?」
「先ほどから気になっていたのですが、デネブ様が着けているそのマスクと手袋は一体……」
アメリアさんからの質問にデネブは素知らぬ顔を浮かべこう言う。
「ああ、実は私、キノコアレルギーなんですよ。直にキノコに触ったり匂いを嗅いだり、口にしただけでアレルギー反応を起こしてしまうのです。ああ、もしかして、あなた方の中にもキノコアレルギーの方がいるのですか? もしそうであれば申し訳ございません。すぐにマスクと手袋を用意させましょう」
どうやらデネブはキノコアレルギーだったようだ。納得の理由である。
あれ?
でも、それじゃあ、デネブはパナシーアタケを原料としている万能薬を飲むことができないことになるけど……まあいいか。
万能薬というのだから、キノコアレルギーにも効くのだろう。
とりあえず、そう思うことにした。
「い、いえ、大丈夫です」
「そうですか? それでは始めましょう」
一瞬、デネブが安心したような表情を浮かべたような……まあ気のせいだろう。
デネブはパナシーアタケを一口サイズにカットすると、鍋の中に入れていく。
「このようにパナシーアタケを一口サイズにカットして鍋の中に入れ、最後にまとめて煮詰めます。さあ、皆さん。病魔に苦しむ街の人達のためにどんどん作業に移りましょう」
「はい」
もしかして、デネブはこの作業を手伝わせたかっただけなんじゃないかという考えが一瞬、頭の中を過ったが、そんなはずがないと首を振り雑念を払っていく。
「デネブ様。これを鍋の中に入れればよろしいのですか?」
「まあ、少し大きく切り過ぎだとは思いますが……まあ良いでしょう。鍋の中に投入して下さい」
「わかりました」
アメリアさんは几帳面そうな正確に見えて意外と大雑把なようだ。
「ノース様。見て下さい。パナシーアタケを綺麗に切ることができました」
「おお、クロユリさんは手先が器用だね」
「えへへ、そういって貰えると嬉しいです」
どうやらクロユリさんはアメリアさんと違い手先が器用なようだ。
パナシーアタケを綺麗に切ると、鍋の中に入れていく。
「さて、もういいでしょう。それでは、そろそろパナシーアタケを煮詰めますよ」
そう言うと、デネブは寸胴鍋に水を注ぎ、火にかけていく。
調理過程を見るに、本当に水を注いで火にかけるだけのようだ。
これで本当に万能薬ができるのだろうか。
寸胴鍋でパナシーアタケを煮詰めること三十分。
「完成です。皆様のお陰で万能薬を作成することができました。折角です。感染症予防にもなりますし、皆さんも、出来立ての万能薬を飲んでみませんか?」
そう言うと、デネブはコップに万能薬を注ぎ、僕達に渡してきた。
--------------------------------------------
デネブはノース達の持ってきたパナシーアタケを、スエヒロタケと勘違いしています。
「はい。わかりました」
頭にキノコを生やしピンク色のバスローブを羽織ったザウラクを街の中に入れるのは、色んな意味で危険だと判断した僕達は、ザウラクに街の外の警備をお願いした。
門番はやる気がないようだし、マニピュレイトタケを食べ、僕の管理下にあるザウラクさんなら門番として裏切る心配もなく適任だ。
ザウラクさんに街の外の警備をお願いしホオズキの街に入ると、デネブがお出迎えしてくれた。
「おお、お帰りなさいませ。それで、パナシーアタケは取れましたかな?」
どうやら、デネブ。僕達がパナシーアタケを持って帰ってくるのを心待ちにしていたようだ。
「はい。こんなに取ることができました」
籠一杯に入ったパナシーアタケを見せると、デネブは満面の笑顔を浮かべた。
「ほう。大量ですね。これだけあれば、十分です。すぐに煮詰めて万能薬を作りましょう」
「えっ? 万能薬ってパナシーアタケを煮詰めるだけでできるんですか?」
そう問いかけると、デネブは少しだけ焦った表情を浮かべる。
「おっと、安心感からか口が滑ってしまいました。万能薬の作り方は内密にお願いしますよ」
「はい。もちろんです」
しかし、よかった。
街の人全員に行き渡るか不安だったけど、この様子なら問題なさそうだ。
「折角の機会です。万能薬の作成過程を見たいとは思いませんか?」
「ええっ? いいんですか?」
「はい。もちろんです。このパナシーアタケはあなた方が森に入り命懸けで手にしたもの。疫病に苦しむ街の者にも、あなた方が必ずパナシーアタケを手にして戻ってくると、そう伝えてあります」
街の人達に態々伝えなくてもよかったのに……なんだか気恥ずかしくてこそば痒い。
「そうなんですか、それでは、折角なのでよろしくお願いします」
でもそれとこれとは話が別だ。
パナシーアタケを煮詰めるだけといっても、なにかコツのようなものや、特殊な機材を利用して作るのかもしれない。
パナシーアタケがあれば、自前で万能薬を作ることもできる。
なんで機密そうな情報を教えてくれるのかは謎だけど、教えてくれるというのであれば、教えてもらおう。
「そうですか、そうですか! それでは皆さん、こちらへどうぞ。調理場に案内致します」
「えっ? 調理場?」
まさかとは思うけど、本当にパナシーアタケを切って寸胴鍋で煮込むだけなんてことはないよね?
そんなことを考えながら、みんなで調理場に向かうと、デネブは、大きな寸胴鍋を三つ取り出し、僕達に包丁を渡してきた。
デネブに視線を向けると、いつの間にかマスクと手袋を着用している。
「それでは皆さん。パナシーアタケを一口サイズにカットして鍋の中に入れて下さい。あとはそれを煮込むだけで万能薬ができあがります」
「わかりました」
僕がそう言うと、アメリアさんがデネブに先ほどから気になっている点について質問した。
「えっと、質問してもよろしいでしょうか?」
「はい。なんでしょう?」
「先ほどから気になっていたのですが、デネブ様が着けているそのマスクと手袋は一体……」
アメリアさんからの質問にデネブは素知らぬ顔を浮かべこう言う。
「ああ、実は私、キノコアレルギーなんですよ。直にキノコに触ったり匂いを嗅いだり、口にしただけでアレルギー反応を起こしてしまうのです。ああ、もしかして、あなた方の中にもキノコアレルギーの方がいるのですか? もしそうであれば申し訳ございません。すぐにマスクと手袋を用意させましょう」
どうやらデネブはキノコアレルギーだったようだ。納得の理由である。
あれ?
でも、それじゃあ、デネブはパナシーアタケを原料としている万能薬を飲むことができないことになるけど……まあいいか。
万能薬というのだから、キノコアレルギーにも効くのだろう。
とりあえず、そう思うことにした。
「い、いえ、大丈夫です」
「そうですか? それでは始めましょう」
一瞬、デネブが安心したような表情を浮かべたような……まあ気のせいだろう。
デネブはパナシーアタケを一口サイズにカットすると、鍋の中に入れていく。
「このようにパナシーアタケを一口サイズにカットして鍋の中に入れ、最後にまとめて煮詰めます。さあ、皆さん。病魔に苦しむ街の人達のためにどんどん作業に移りましょう」
「はい」
もしかして、デネブはこの作業を手伝わせたかっただけなんじゃないかという考えが一瞬、頭の中を過ったが、そんなはずがないと首を振り雑念を払っていく。
「デネブ様。これを鍋の中に入れればよろしいのですか?」
「まあ、少し大きく切り過ぎだとは思いますが……まあ良いでしょう。鍋の中に投入して下さい」
「わかりました」
アメリアさんは几帳面そうな正確に見えて意外と大雑把なようだ。
「ノース様。見て下さい。パナシーアタケを綺麗に切ることができました」
「おお、クロユリさんは手先が器用だね」
「えへへ、そういって貰えると嬉しいです」
どうやらクロユリさんはアメリアさんと違い手先が器用なようだ。
パナシーアタケを綺麗に切ると、鍋の中に入れていく。
「さて、もういいでしょう。それでは、そろそろパナシーアタケを煮詰めますよ」
そう言うと、デネブは寸胴鍋に水を注ぎ、火にかけていく。
調理過程を見るに、本当に水を注いで火にかけるだけのようだ。
これで本当に万能薬ができるのだろうか。
寸胴鍋でパナシーアタケを煮詰めること三十分。
「完成です。皆様のお陰で万能薬を作成することができました。折角です。感染症予防にもなりますし、皆さんも、出来立ての万能薬を飲んでみませんか?」
そう言うと、デネブはコップに万能薬を注ぎ、僕達に渡してきた。
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デネブはノース達の持ってきたパナシーアタケを、スエヒロタケと勘違いしています。
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