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第三章 ホオズキの街
第79話 万能薬の原料『パナシーアタケ』(その裏で)
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「それじゃあ、デネブさん。行ってきます!」
「はい。この街の運命はあなた方に託します。必ず万能薬の原料となる『パナシーアタケ』を採取してきて下さいね!」
「はい! 任せて下さい!」
アメリア達は森に『パナシーアタケ』を探しに向かって行った。
私は、奴等の姿が見えなくなるまで手を振ると、ニヤリと口を歪める。
「それにしても、デネブさんも人が悪いな。なんだよ? 万能薬の原料となるパナシーアタケって(笑)」
「そうそう、あれはパナシーアタケじゃなくて、スエヒロタケだろ?」
「万能薬の原料どころかスエヒロタケ感染症を引き起こすヤベーキノコじゃねーか(笑)」
「おいおい、あいつらにも手伝わせる気かよ? この街の支配をよ?」
「人聞きの悪いことを言うんじゃない。これは我が祖国のために必要なことだよ。それに嘘は言っていないさ。万能薬の原料となるパナシーアタケは存在している。ただし、こんな森で取ることは絶対にできはしないがね」
そう。先ほどガラスケースに入れて見せたキノコは、この街を襲った病の元となるキノコだ。
私は長い月日をかけてこの街の人達の信頼を勝ち取り、万病に効く薬と称してスエヒロタケを街に住む者達に飲ませることに成功した。
スエヒロタケ感染症は、肺にスエヒロタケの菌糸が気管支の中に住み着くことで発症する。これを治すためには、我が祖国に伝わる秘薬を飲むか、それこそ万能薬を飲むしか方法はない。
「それにしても、まさかこのタイミングで、オーダー辺境伯からの偵察がやってくるとは思いもしなかったよ。フォーリッシュの奴も早い所、我が祖国の支配を受け入れ楽になればいいものを……」
「まあまあ、いいじゃありませんか。この街はもうおしまいです。どの道、明日になれば、この領土を奪うために軍がやってくるんでしょう?」
「ああ、その通りだ。それまでの間、生かさず殺さずの状態を保ちますよ? 彼等に死なれては折角の労働力が失われてしまいますからねぇ?」
「はははっ! 違いねぇ! あいつ等、俺達が隣国の兵士だと知ったらどんな顔するかなぁ?」
「いいねぇ。早くその瞬間が見たいものだぜ!」
「時期が来れば見れますよ。彼等の絶望する瞬間がね。馬鹿な領民は病から解放されて感謝してくるかもしれませんが……」
それはそれで面白い。
私が発症させたスエヒロタケ感染症。
それを我が祖国が派遣してくれる予定の兵士達が秘薬を持って治し、なし崩し的にこの街を実効支配する。
オーダー辺境伯が未知のギフトを持っていたとしても、領民という人質を取られれば、領主という立場上、無碍にはできないだろう。
なにも知らない領民は、スエヒロタケ感染症に苦しんでいる際、なにもしてくれなかった領主を恨み、反対に領民を助けた私達を称賛する。
もしかしたら、こんな領主の下で暮らすよりも、我が祖国の支配下に入ることを迎合するかも知れない。
「領主というのは大変だな。デネブさんが故意に流出させた未知の感染症にも完璧に対応して見せないといけないなんてよ」
「まったくだ。大変だねえ、領主様は……」
「……同感だな。民衆は常に減点方式。領主がどんなにいい施策をしようが、そんなことは領主としてやって当たり前のことだと言い張り、納める税が重くなれば領主のことを批判する。それは未知の感染症が広まってしまっても同じこと。領主なんてマゾがやる仕事だよ」
「まあまあ、その言い方では、この街を良くしようと無駄な努力をしているフォーリッシュ様が可哀想ですよ。彼はただ相手が悪かっただけです。さて、そんな哀れなこの街の領主であるフォーリッシュ様の様子でも見に行きましょうか。あんな人間でも死なれては困るのでね」
私達は高笑いを浮かべると、街の中に入っていった。
「しかし、この街。スタンピードが起こったらおしまいですね。防壁がこんなにもボロボロじゃあ、どうしようもない。一体なんでこんなことをさせたんですか?」
門番の一人が私にそう問いかけてくる。
「そんなこと、決まっているでしょう? この街を立ち行かなくさせるためですよ。我々の助けなくしてね……」
名目としては救援目的だが、仮にも他国の軍がこの街に押しかけてくるのだ。
多少の混乱が予想される。
しかし、こうもわかりやすく防壁が壊されていることがわかれば話は別だ。
せっかく、病から解放されたというのに、街を護るための防壁が壊されていては安心して生活を送ることはできない。
結果として、領民達は否応もなしに軍の駐留を認めることになる。
いや、認めざる負えなくなるはずだ。
「へえ、そうなんですか」
「ええ、とても簡単な話でしょう?」
扉を開け館に入ると、ベッドで寝込むフォーリッシュに視線を向ける。
「この男が最初から頷いてくれれば、こんなことにはならなかったのですけどね」
そこには、過呼吸を起こし、足に手足からキノコを生やしたフォーリッシュの姿があった。
「まだ、死んではなりませんよ? フォーリッシュ様」
そう呟くと、私は深い笑みを浮かべた。
「はい。この街の運命はあなた方に託します。必ず万能薬の原料となる『パナシーアタケ』を採取してきて下さいね!」
「はい! 任せて下さい!」
アメリア達は森に『パナシーアタケ』を探しに向かって行った。
私は、奴等の姿が見えなくなるまで手を振ると、ニヤリと口を歪める。
「それにしても、デネブさんも人が悪いな。なんだよ? 万能薬の原料となるパナシーアタケって(笑)」
「そうそう、あれはパナシーアタケじゃなくて、スエヒロタケだろ?」
「万能薬の原料どころかスエヒロタケ感染症を引き起こすヤベーキノコじゃねーか(笑)」
「おいおい、あいつらにも手伝わせる気かよ? この街の支配をよ?」
「人聞きの悪いことを言うんじゃない。これは我が祖国のために必要なことだよ。それに嘘は言っていないさ。万能薬の原料となるパナシーアタケは存在している。ただし、こんな森で取ることは絶対にできはしないがね」
そう。先ほどガラスケースに入れて見せたキノコは、この街を襲った病の元となるキノコだ。
私は長い月日をかけてこの街の人達の信頼を勝ち取り、万病に効く薬と称してスエヒロタケを街に住む者達に飲ませることに成功した。
スエヒロタケ感染症は、肺にスエヒロタケの菌糸が気管支の中に住み着くことで発症する。これを治すためには、我が祖国に伝わる秘薬を飲むか、それこそ万能薬を飲むしか方法はない。
「それにしても、まさかこのタイミングで、オーダー辺境伯からの偵察がやってくるとは思いもしなかったよ。フォーリッシュの奴も早い所、我が祖国の支配を受け入れ楽になればいいものを……」
「まあまあ、いいじゃありませんか。この街はもうおしまいです。どの道、明日になれば、この領土を奪うために軍がやってくるんでしょう?」
「ああ、その通りだ。それまでの間、生かさず殺さずの状態を保ちますよ? 彼等に死なれては折角の労働力が失われてしまいますからねぇ?」
「はははっ! 違いねぇ! あいつ等、俺達が隣国の兵士だと知ったらどんな顔するかなぁ?」
「いいねぇ。早くその瞬間が見たいものだぜ!」
「時期が来れば見れますよ。彼等の絶望する瞬間がね。馬鹿な領民は病から解放されて感謝してくるかもしれませんが……」
それはそれで面白い。
私が発症させたスエヒロタケ感染症。
それを我が祖国が派遣してくれる予定の兵士達が秘薬を持って治し、なし崩し的にこの街を実効支配する。
オーダー辺境伯が未知のギフトを持っていたとしても、領民という人質を取られれば、領主という立場上、無碍にはできないだろう。
なにも知らない領民は、スエヒロタケ感染症に苦しんでいる際、なにもしてくれなかった領主を恨み、反対に領民を助けた私達を称賛する。
もしかしたら、こんな領主の下で暮らすよりも、我が祖国の支配下に入ることを迎合するかも知れない。
「領主というのは大変だな。デネブさんが故意に流出させた未知の感染症にも完璧に対応して見せないといけないなんてよ」
「まったくだ。大変だねえ、領主様は……」
「……同感だな。民衆は常に減点方式。領主がどんなにいい施策をしようが、そんなことは領主としてやって当たり前のことだと言い張り、納める税が重くなれば領主のことを批判する。それは未知の感染症が広まってしまっても同じこと。領主なんてマゾがやる仕事だよ」
「まあまあ、その言い方では、この街を良くしようと無駄な努力をしているフォーリッシュ様が可哀想ですよ。彼はただ相手が悪かっただけです。さて、そんな哀れなこの街の領主であるフォーリッシュ様の様子でも見に行きましょうか。あんな人間でも死なれては困るのでね」
私達は高笑いを浮かべると、街の中に入っていった。
「しかし、この街。スタンピードが起こったらおしまいですね。防壁がこんなにもボロボロじゃあ、どうしようもない。一体なんでこんなことをさせたんですか?」
門番の一人が私にそう問いかけてくる。
「そんなこと、決まっているでしょう? この街を立ち行かなくさせるためですよ。我々の助けなくしてね……」
名目としては救援目的だが、仮にも他国の軍がこの街に押しかけてくるのだ。
多少の混乱が予想される。
しかし、こうもわかりやすく防壁が壊されていることがわかれば話は別だ。
せっかく、病から解放されたというのに、街を護るための防壁が壊されていては安心して生活を送ることはできない。
結果として、領民達は否応もなしに軍の駐留を認めることになる。
いや、認めざる負えなくなるはずだ。
「へえ、そうなんですか」
「ええ、とても簡単な話でしょう?」
扉を開け館に入ると、ベッドで寝込むフォーリッシュに視線を向ける。
「この男が最初から頷いてくれれば、こんなことにはならなかったのですけどね」
そこには、過呼吸を起こし、足に手足からキノコを生やしたフォーリッシュの姿があった。
「まだ、死んではなりませんよ? フォーリッシュ様」
そう呟くと、私は深い笑みを浮かべた。
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