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第三章 ホオズキの街
第77話 ホオズキの街②
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「い、いや、俺達はただ……」
老人の一喝に門番達はびくりと肩を震わせると、おどおどしながら振り返る。
「まったく、お前達は……」
老人はヤレヤレと言わんばかりに首を振ると、アメリアさんの前に歩み寄り頭を下げた。
「申し訳ございません。私の教育が至らず、不快な目に遭わせてしまいました」
「い、いえ。そんなことはありません。どうぞ、頭を上げて下さい」
「そう言って頂けると幸いです。ああ、自己紹介がまだでしたな」
アメリアさんがそう言うと、老人は頭を上げる。
「申し遅れました。私はフォーリッシュ様に仕える家臣、デネブ・カイトスと申します。遠路はるばるホオズキの街へようこそ」
「え、ええ、ご丁寧なあいさつ痛み入ります。私はこの付近一帯を治める領主、オーダー辺境伯の使い、アメリアと申します。デネブ様、どうぞ、よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願い致します。それで、領主様の使いの者が、この街になんのご用でしょうか?」
「ええ、私達はオーダー辺境伯の命令でホオズキの街の視察に伺いました。こちらの方は、辺境伯のご子息、ノース様です。デネブ様は、フォーリッシュ様に仕えているとのこと、フォーリッシュ様の下まで案内して頂けますか?」
「ふむっ、フォーリッシュ様の下に……ですか」
デネブは、馬車に視線を向けると、馬車に刻まれた辺境伯の紋章を確認し頷いた。
「……いいでしょう。しかし、フォーリッシュ様はいま、病に伏せっております。病状が回復しないことには、会話することすら難しい状態にありますが、それでもよろしいですか?」
「フォーリッシュ兄様が病に!?」
そんなことは聞いていない。
お父さんからは領地経営が上手くいっているとだけ聞いている。
まさか、そんな状態にあるなんて……。
僕が心配そうな表情を浮かべると、デネブが首を縦に振りながらこう言った。
「ええ、それだけではございません。ホオズキの街に住む者達にも病が蔓延しております。既に三度、この辺り一帯の領主であるオーダー辺境伯へと助けを求めるために使者や文を送ったのですが……領主様からなにか聞いておりませんか?」
デネブが悲しそうな表情を浮かべながらそう言う。
既に三度、アベコベの街に住むお父さんに向けて助けを求める文を出していたらしい。
そんな話は聞いていない。聞いていた話と随分乖離があるようだ。
「いえ、そんな話はありませんでした。フォーリッシュ様の手紙では領地経営が上手くいっていると……」
そう言うと、デネブが頬に両手を当て嘆き始める。
「ああ、なんということでしょうか……」
「ど、どうされたのですか?」
本当に一体どうしたというのだろうか?
急に嘆き始めるなんて情緒不安定が過ぎる気がする。
デネブの急な嘆きに、アメリアさんも困惑とした表情を浮かべている。
「……それは、フォーリッシュ様が病に伏せる前に書いた手紙です。大変言いにくいことではありますが、街の住民達は皆、オーダー辺境伯に捨てられたと思い込んでおります」
「な、なんですって! なんでそんなことになっているんですか!?」
デネブの話を聞き、アメリアさんが驚愕の表情を浮かべた。
「この街の現状を確認すれば、すぐに分かることです。さきほどお話いたしましたがホオズキの街には、病が蔓延しております。病が蔓延する状況下、オーダー辺境伯へ助けを求める使者を再三にわたり送りましたが、使者が帰ってくることはありませんでした……いまでは、病に伏せっているフォーリッシュ様も領主様に疑心を募らせております」
「し、しかし、オーダー様の元に使者は訪れて……」
「ええ、いましがた、この街の現状を理解されたことは重々承知しております。しかし、病が蔓延する街に取り残された住民達の気持ちを考えて上げて下さい。助けを求めても、領主様は取り合ってくれなかった。それがいまの住民達の持つ共通認識です」
「そ、そんな……」
アメリアさんが悲痛な声を上げる。
「まあ、遠路はるばるここまで訪ねてきたのです。街にお入り下さい。まずはご自身の目で街の現状を確認した方がいいでしょう」
「……はい。そうさせて頂きたいと思います」
呟くようにそう言うと、先ほど飲んだくれていた門番達がホオズキの街の門を開いていく。
「それでは、改めまして、ようこそ、ホオズキの街へ。まずはフォーリッシュ様の下へご案内致しましょう。馬車から降りて、私について来て下さい」
「わ、わかりました……」
あの門番達に馬車を預けるのは不安だ。
アメリアさんもそう思っているのだろう。門番達にキツイ視線を向けている。
ナビさん。なんとかならない?
脳内でナビさんに問いかけると、ナビさんは視界に文字を浮かべてきた。
<まったく、仕方がありませんね。ノース様につけている護衛から一体、マッシュルーム・アサシンを監視に当たらせます。念のため、マニピュレイトタケを持たせますがよろしいですね?>
食べた者をキノコマスターの意のままに操る凶悪なキノコ、マニピュレイトタケを?
まあいいか。
<わかりました。それでは、そのように手配致します>
うん。よろしく。
「それでは、こちらの馬車は我々が大切に保管させて頂きます」
「ええ、よろしく……」
デネブが出てきたことで、門番達の口調がもの凄く丁寧になっている。
アメリアさんは嫌々ながら馬車を引き渡すと、デネブに向かって視線を向けた。
「さて、それでは参りましょう。フォーリッシュ様も、領主様からの使者が到着したと知れば元気なお姿を見せて下さるかも知れません」
デネブはそう言うと、フォーリッシュ兄様のいる家に向かって歩き始めた。
老人の一喝に門番達はびくりと肩を震わせると、おどおどしながら振り返る。
「まったく、お前達は……」
老人はヤレヤレと言わんばかりに首を振ると、アメリアさんの前に歩み寄り頭を下げた。
「申し訳ございません。私の教育が至らず、不快な目に遭わせてしまいました」
「い、いえ。そんなことはありません。どうぞ、頭を上げて下さい」
「そう言って頂けると幸いです。ああ、自己紹介がまだでしたな」
アメリアさんがそう言うと、老人は頭を上げる。
「申し遅れました。私はフォーリッシュ様に仕える家臣、デネブ・カイトスと申します。遠路はるばるホオズキの街へようこそ」
「え、ええ、ご丁寧なあいさつ痛み入ります。私はこの付近一帯を治める領主、オーダー辺境伯の使い、アメリアと申します。デネブ様、どうぞ、よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願い致します。それで、領主様の使いの者が、この街になんのご用でしょうか?」
「ええ、私達はオーダー辺境伯の命令でホオズキの街の視察に伺いました。こちらの方は、辺境伯のご子息、ノース様です。デネブ様は、フォーリッシュ様に仕えているとのこと、フォーリッシュ様の下まで案内して頂けますか?」
「ふむっ、フォーリッシュ様の下に……ですか」
デネブは、馬車に視線を向けると、馬車に刻まれた辺境伯の紋章を確認し頷いた。
「……いいでしょう。しかし、フォーリッシュ様はいま、病に伏せっております。病状が回復しないことには、会話することすら難しい状態にありますが、それでもよろしいですか?」
「フォーリッシュ兄様が病に!?」
そんなことは聞いていない。
お父さんからは領地経営が上手くいっているとだけ聞いている。
まさか、そんな状態にあるなんて……。
僕が心配そうな表情を浮かべると、デネブが首を縦に振りながらこう言った。
「ええ、それだけではございません。ホオズキの街に住む者達にも病が蔓延しております。既に三度、この辺り一帯の領主であるオーダー辺境伯へと助けを求めるために使者や文を送ったのですが……領主様からなにか聞いておりませんか?」
デネブが悲しそうな表情を浮かべながらそう言う。
既に三度、アベコベの街に住むお父さんに向けて助けを求める文を出していたらしい。
そんな話は聞いていない。聞いていた話と随分乖離があるようだ。
「いえ、そんな話はありませんでした。フォーリッシュ様の手紙では領地経営が上手くいっていると……」
そう言うと、デネブが頬に両手を当て嘆き始める。
「ああ、なんということでしょうか……」
「ど、どうされたのですか?」
本当に一体どうしたというのだろうか?
急に嘆き始めるなんて情緒不安定が過ぎる気がする。
デネブの急な嘆きに、アメリアさんも困惑とした表情を浮かべている。
「……それは、フォーリッシュ様が病に伏せる前に書いた手紙です。大変言いにくいことではありますが、街の住民達は皆、オーダー辺境伯に捨てられたと思い込んでおります」
「な、なんですって! なんでそんなことになっているんですか!?」
デネブの話を聞き、アメリアさんが驚愕の表情を浮かべた。
「この街の現状を確認すれば、すぐに分かることです。さきほどお話いたしましたがホオズキの街には、病が蔓延しております。病が蔓延する状況下、オーダー辺境伯へ助けを求める使者を再三にわたり送りましたが、使者が帰ってくることはありませんでした……いまでは、病に伏せっているフォーリッシュ様も領主様に疑心を募らせております」
「し、しかし、オーダー様の元に使者は訪れて……」
「ええ、いましがた、この街の現状を理解されたことは重々承知しております。しかし、病が蔓延する街に取り残された住民達の気持ちを考えて上げて下さい。助けを求めても、領主様は取り合ってくれなかった。それがいまの住民達の持つ共通認識です」
「そ、そんな……」
アメリアさんが悲痛な声を上げる。
「まあ、遠路はるばるここまで訪ねてきたのです。街にお入り下さい。まずはご自身の目で街の現状を確認した方がいいでしょう」
「……はい。そうさせて頂きたいと思います」
呟くようにそう言うと、先ほど飲んだくれていた門番達がホオズキの街の門を開いていく。
「それでは、改めまして、ようこそ、ホオズキの街へ。まずはフォーリッシュ様の下へご案内致しましょう。馬車から降りて、私について来て下さい」
「わ、わかりました……」
あの門番達に馬車を預けるのは不安だ。
アメリアさんもそう思っているのだろう。門番達にキツイ視線を向けている。
ナビさん。なんとかならない?
脳内でナビさんに問いかけると、ナビさんは視界に文字を浮かべてきた。
<まったく、仕方がありませんね。ノース様につけている護衛から一体、マッシュルーム・アサシンを監視に当たらせます。念のため、マニピュレイトタケを持たせますがよろしいですね?>
食べた者をキノコマスターの意のままに操る凶悪なキノコ、マニピュレイトタケを?
まあいいか。
<わかりました。それでは、そのように手配致します>
うん。よろしく。
「それでは、こちらの馬車は我々が大切に保管させて頂きます」
「ええ、よろしく……」
デネブが出てきたことで、門番達の口調がもの凄く丁寧になっている。
アメリアさんは嫌々ながら馬車を引き渡すと、デネブに向かって視線を向けた。
「さて、それでは参りましょう。フォーリッシュ様も、領主様からの使者が到着したと知れば元気なお姿を見せて下さるかも知れません」
デネブはそう言うと、フォーリッシュ兄様のいる家に向かって歩き始めた。
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