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第三章 ホオズキの街
第76話 ホオズキの街①
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「それでしたら、私にお任せ下さい!」
「えっ?」
そう言うと、クロユリさんの肩に森の精霊ドライアドが姿を現した。
リスのような姿に『ピヨッ』という鳴き声が相変わらず愛らしい。
「それじゃあ、ドラちゃん。あれの処理をよろしくね♪」
『ピヨッ!』
あれと言うのは、ゴブリンキングを指しているのだろうか?
クロユリさんがそう言うと、ドライアドが可愛らしい鳴き声を上げる。
すると、ドライアドが放った光が周囲の樹々を明るく照らしていく。
ドライアドの放った光により活性化した蔦が、顔面を陥没させお亡くなりになったゴブリンキングを絡め取り、森の中に放り投げた。
ゴブリンキングもまさかこんな最後を迎えるとは思っていなかっただろう。
僕はゴブリンキングに視線を向けると、心の中で合掌する。
「クロユリさん、ありがとう」
流石は森の精霊ドライアド。
正直、ゴブリンキングの巨体を森の中に放り投げるなんてことができるとは思いもしなかった。
そんなことを考えていると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<いや、最初からノース様の『次元収納』にゴブリンキングを収めればよかったのではありませんか?>
確かに……ナビさんの言う通りだ。
完全に失念していた。
しかし、いまさらゴブリンキングを『次元収納』に収めるのも格好悪い。
ゴブリンキングのことはこの際、諦めよう。
ゴブリンキングのことを諦めようと前を向くと、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<いえ、折角なので、ゴブリンキングの魔石だけ頂いて帰りましょう>
えっ? そんなことできるの?
<ええ、その位簡単なことです>
ナビさんがそう視界に文字を浮かべる。
森の精霊ドライアドにより馬車道の端に弾かれたゴブリンキングに視線を向けると、ゴブリンキングの心臓部分が急に萎んだ。
おそらくナビさんがゴブリンキングの体内にある魔石を抜き取ったのだろう。
心の中でナビさんにお礼を言うと、アメリアさんから声がかかる。
「ノース様にクロユリ様、ゴブリンキングの討伐お疲れ様でした。これより馬車を動かします。どうぞ席にお戻り下さい」
アメリアさんに言われた通り、席に着くとホオズキの街に向けて馬車が走り始めた。
「お疲れ様です。ホオズキの街に到着しました」
ゴブリンキング討伐から数十分。
馬車を走らせると、ホオズキの街に到着した。
馬車からホオズキの街を眺めるも随分と荒廃しているようだ。
アベコベの街とは大違いである。
「……これは酷いですね」
「ええ、まったくです。それでは、街の中に入りましょう」
「はい」
アメリアさんがホオズキの街に入るための門に向けて馬車を走らせる。
門に近付くにつれてアメリアさんの表情が強張っていくのが見てとれた。
「ア、アメリアさん? あれは……大丈夫なんですか? な、なんというか……街を護るはずの門番が、門番としての職務を果たしているようには見えないんですけど……」
「き、奇遇ですね。私もそう思っていた所です。オーダー様の支配下にあるはずなのに、まさか、こんなことになっているとは…… フォーリッシュ様は一体なにを……」
視線を向けると、そこには門の前で酒を呑みながら笑い声を上げている門番の姿が目に映る。街を囲う防壁もボロボロで、スタンピードが発生すれば立ち所に滅んでしまいそうな面持ちだ。
あっ、モンスターが一匹壁に空いた穴から街の中に入っていった。
この街、本当に大丈夫だろうか……。
門の前に馬車をつけると酒に酔った兵士がこちらに向かってくる。
「おい、そこの馬車! なんの用でこの街に立ち寄ったぁ!?」
もはや門番としての体を成していない。
完全に出来上がっているようだ。
酒に酔った人間は一種の狂人。
アルコールが入ると気が大きくなるばかりか、理性は失われ、まともに話をすることもできなくなる。
しかも、酔っている当の本人は、自分のことをまともだと思っている節があり非常に質が悪い。
「おいおい! 怒鳴り散らしてやるなよ!」
「ああ、そうだ。そうだ!」
「うん? 馬車を操縦しているのは女か?」
「おいおい、これは珍しい! ハーフエルフもいるぜ! 今日の夜は楽しむことができそうだなぁ!」
門番達の言葉に唖然とした表情を浮かべていると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<酒に酔った門番達の内、少なくとも一人はロリコンのようですね。ロリコンは重篤な脳の病気です。社会倫理的に完全にアウトです。とりあえず、脳にアルコールが回っている間に、彼等のお粗末さんを去勢すると致しましょう>
いや、なに怖いこと言ってるのっ!?
下半身がヒュンとした。
ナビさんと脳内会話していると、門番が酒瓶片手に馬車に近付いてくる。
「この兵士。やはり、ストレリチア王国の……」
「えっ?」
「いえ、なんでもありません。ここは穏便に街の中に入ると致しましょう」
そう言うと、アメリアさんは馬車を降り門番の前に立ち塞がった。
「私達は領主オーダー・インベーション様の命令により、フォーリッシュ様と面会に参りました。その門を通して頂けますか?」
すると、アメリアさんの言葉を聞いた門番達が笑い出す。
「おいおい、聞いたか? オーダー様だってよ!?」
「フォーリッシュ様とも言っていたぜ?」
一体なにがおかしいのだろうか?
事の推移を見守っていると、門番の一人が空になった酒瓶を放り、アメリアさんに近付く。
「これだからガーベラ王国の連中は……いいか? いまこの街を支配しているのはなぁ……」
門番がアメリアさんに向かってなにかを言おうとした時、大きな声が周囲に響き渡った。
「お前達っ! なにをやっている!」
声の方向に視線を向けると、恰幅のいい六十前後の老人がいた。
「えっ?」
そう言うと、クロユリさんの肩に森の精霊ドライアドが姿を現した。
リスのような姿に『ピヨッ』という鳴き声が相変わらず愛らしい。
「それじゃあ、ドラちゃん。あれの処理をよろしくね♪」
『ピヨッ!』
あれと言うのは、ゴブリンキングを指しているのだろうか?
クロユリさんがそう言うと、ドライアドが可愛らしい鳴き声を上げる。
すると、ドライアドが放った光が周囲の樹々を明るく照らしていく。
ドライアドの放った光により活性化した蔦が、顔面を陥没させお亡くなりになったゴブリンキングを絡め取り、森の中に放り投げた。
ゴブリンキングもまさかこんな最後を迎えるとは思っていなかっただろう。
僕はゴブリンキングに視線を向けると、心の中で合掌する。
「クロユリさん、ありがとう」
流石は森の精霊ドライアド。
正直、ゴブリンキングの巨体を森の中に放り投げるなんてことができるとは思いもしなかった。
そんなことを考えていると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<いや、最初からノース様の『次元収納』にゴブリンキングを収めればよかったのではありませんか?>
確かに……ナビさんの言う通りだ。
完全に失念していた。
しかし、いまさらゴブリンキングを『次元収納』に収めるのも格好悪い。
ゴブリンキングのことはこの際、諦めよう。
ゴブリンキングのことを諦めようと前を向くと、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<いえ、折角なので、ゴブリンキングの魔石だけ頂いて帰りましょう>
えっ? そんなことできるの?
<ええ、その位簡単なことです>
ナビさんがそう視界に文字を浮かべる。
森の精霊ドライアドにより馬車道の端に弾かれたゴブリンキングに視線を向けると、ゴブリンキングの心臓部分が急に萎んだ。
おそらくナビさんがゴブリンキングの体内にある魔石を抜き取ったのだろう。
心の中でナビさんにお礼を言うと、アメリアさんから声がかかる。
「ノース様にクロユリ様、ゴブリンキングの討伐お疲れ様でした。これより馬車を動かします。どうぞ席にお戻り下さい」
アメリアさんに言われた通り、席に着くとホオズキの街に向けて馬車が走り始めた。
「お疲れ様です。ホオズキの街に到着しました」
ゴブリンキング討伐から数十分。
馬車を走らせると、ホオズキの街に到着した。
馬車からホオズキの街を眺めるも随分と荒廃しているようだ。
アベコベの街とは大違いである。
「……これは酷いですね」
「ええ、まったくです。それでは、街の中に入りましょう」
「はい」
アメリアさんがホオズキの街に入るための門に向けて馬車を走らせる。
門に近付くにつれてアメリアさんの表情が強張っていくのが見てとれた。
「ア、アメリアさん? あれは……大丈夫なんですか? な、なんというか……街を護るはずの門番が、門番としての職務を果たしているようには見えないんですけど……」
「き、奇遇ですね。私もそう思っていた所です。オーダー様の支配下にあるはずなのに、まさか、こんなことになっているとは…… フォーリッシュ様は一体なにを……」
視線を向けると、そこには門の前で酒を呑みながら笑い声を上げている門番の姿が目に映る。街を囲う防壁もボロボロで、スタンピードが発生すれば立ち所に滅んでしまいそうな面持ちだ。
あっ、モンスターが一匹壁に空いた穴から街の中に入っていった。
この街、本当に大丈夫だろうか……。
門の前に馬車をつけると酒に酔った兵士がこちらに向かってくる。
「おい、そこの馬車! なんの用でこの街に立ち寄ったぁ!?」
もはや門番としての体を成していない。
完全に出来上がっているようだ。
酒に酔った人間は一種の狂人。
アルコールが入ると気が大きくなるばかりか、理性は失われ、まともに話をすることもできなくなる。
しかも、酔っている当の本人は、自分のことをまともだと思っている節があり非常に質が悪い。
「おいおい! 怒鳴り散らしてやるなよ!」
「ああ、そうだ。そうだ!」
「うん? 馬車を操縦しているのは女か?」
「おいおい、これは珍しい! ハーフエルフもいるぜ! 今日の夜は楽しむことができそうだなぁ!」
門番達の言葉に唖然とした表情を浮かべていると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<酒に酔った門番達の内、少なくとも一人はロリコンのようですね。ロリコンは重篤な脳の病気です。社会倫理的に完全にアウトです。とりあえず、脳にアルコールが回っている間に、彼等のお粗末さんを去勢すると致しましょう>
いや、なに怖いこと言ってるのっ!?
下半身がヒュンとした。
ナビさんと脳内会話していると、門番が酒瓶片手に馬車に近付いてくる。
「この兵士。やはり、ストレリチア王国の……」
「えっ?」
「いえ、なんでもありません。ここは穏便に街の中に入ると致しましょう」
そう言うと、アメリアさんは馬車を降り門番の前に立ち塞がった。
「私達は領主オーダー・インベーション様の命令により、フォーリッシュ様と面会に参りました。その門を通して頂けますか?」
すると、アメリアさんの言葉を聞いた門番達が笑い出す。
「おいおい、聞いたか? オーダー様だってよ!?」
「フォーリッシュ様とも言っていたぜ?」
一体なにがおかしいのだろうか?
事の推移を見守っていると、門番の一人が空になった酒瓶を放り、アメリアさんに近付く。
「これだからガーベラ王国の連中は……いいか? いまこの街を支配しているのはなぁ……」
門番がアメリアさんに向かってなにかを言おうとした時、大きな声が周囲に響き渡った。
「お前達っ! なにをやっている!」
声の方向に視線を向けると、恰幅のいい六十前後の老人がいた。
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