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第三章 ホオズキの街

第73話 ホオズキの街道中②

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「ホオズキの街ですか?」
「……ああ、実は、この国、ガーベラ王国との国境に沿って隣国であるストレリチア王国の南側へと降りて行ったところに、ホオズキという街があるんだ。ここも私の領地内にある街なんだが……少し離れていてね。街の統治は、私の息子フォーリッシュ君に任せているのだよ」

 お父さんは透明なボードを目の前に浮かべると、そこにこの辺り一帯の地図を表示させる。
 確かに、ここから少々距離が開いた所に街がある。
 でもこの街、なんとなく、ストレリチア王国側にあるような……。

「この街もアベコベの街と同様にストレリチア王国との国境沿いにあってね。五年前に支配したばかりのとても重要な拠点の一つなんだ。手紙によると、領地経営も上手くいっているらしい。そこでノース君には、フォーリッシュ君の治める領地の視察に向かって貰いたいんだ。もちろん、街に改善点があれば口出ししてくれてもいい。この私がそれを保証しよう」
「領地の視察ですか……」

 流石はお父さん。辺境伯だけあって領地経営に余念がない。
 おそらく将来のことを考えて僕に経験を積ませようとしているのだろう……。

「本当であれば、私が向かうべき所ではあるのだけれども、私の息子フォーリッシュ君との顔合わせにも丁度いいからね。もちろん無理強いするつもりはないから、断ってくれても構わないよ」

 そんなことを言いつつも、お父さんは、行って貰わないと困るといった表情を浮かべている。これはお父さんの息子として頑張るべき所だろう。
 それにやることと言えば、フォーリッシュ兄様と面会し、街の様子を確認するだけ。全然問題ないはずだ。

「わかりました。僕に任せて下さい。ホオズキの街に行ってフォーリッシュ兄様と顔合わせをし、街の様子を確認してくればいいんですよね?」

「ああ、本当に助かるよ。できた息子を持って私は本当に幸せだ」

 そう言われると、とても照れる。お父さんを直視できない。
 照れ隠しに、地図に視線を向けると、ホオズキの街から少し行った所に巨大な塔のような物が表示されていた。

「お父さん、ここに表示されているのはなんですか?」

「うん? ああ、そこは国境沿いにある謎の巨塔だよ。ダンジョンではないかとも噂されている塔でね。一度、冒険者協会に調査を依頼しようと考えていたのだが、興味があれば行って見るといい。私もノース君が調査してくれるのであれば安心だ」

「謎の巨塔ですか……わかりました! お父さんの期待に添えるよう精一杯頑張ります!」

 塔型のダンジョンか……。
 ダンジョンには『初級ダンジョン:スライムの洞窟』そして『中級ダンジョン:魔狼の巣窟』にしか入ったことがないけど、マッシュルーム・アサシンが護衛に就いてくれているし、まあ大丈夫だろう。

「まあ、そこまで気を張らなくても大丈夫だからね? 私が言った手前、少し言いづらいんだけど……何事もほどほどが一番だよ?」
「はい。安心して下さい! もし危険そうなダンジョンであれば深入りはせず、すぐに戻ってきますから!」

「そ、そうかい? それなら別に構わないが……」

 お父さんは一呼吸置くと、席から立ち上がる。

「それでは、君達にはこのまま『ホオズキの街』に向かって貰おうかな」
「ええっ!? いまからですかっ?」

 そういえば、お父さんは馬車の行き先を指定していなかった。
 なんとなく街の外に馬車を走らせていたからおかしいなとは思っていたんだ。

「ああ、善は急げとも言うしね。それに私は、ノース君。君に期待している。ホオズキの街の視察とフォーリッシュ君との面会、よろしく頼むよ」
「はい! 任せて下さい!」
「ああ、それからもう一つ、フォーリッシュ君は、私の息子であることをまだ知らないからね。もしかしたら、傲慢な態度で迫ってくることもあるかも知れない。その場合は、遠慮なく黙らせてやってくれて構わないからね?」
「そうなんですか。フォーリッシュ兄様って随分とお茶目な性格をしているんですね」
「そうなんだよ。とてもお茶目な性格をしているんだ。でも、もし殺しにかかってきたら遠慮なく反撃するんだよ? その場合、私の名を出しても問題ないからね?」
「はい!」

 そう呟くと、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。

 <いやいやいやいや、なにを言っているんですか、ノース様! この人お茶目なんて言葉じゃ言い表せない位、クレイジーなことを言っていますよ!?>

 ナビさん、仮にも僕のお兄様だぞ。失礼な文字を浮かべるんじゃない。
 お父さんも僕にもお茶目な所位ある。多分、それがより強く遺伝しただけだ。
 僕はそう信じている。

 <そ、そうですか……(これはナビがしっかりしないとヤバそうですね……ノース様とハーフエルフのお守り、頑張らねばなりませんね)>

 うん。きっとそうだよ。

「それでは、私はこれで失礼するよ。君達には、ホオズキの街までのガイド役として、私の側近であるアメリア君を就ける。それじゃあ、後のことは頼んだよ。アメリア君?」
「は、はい。かしこまりました」

 どうやら、馬車の御者をしていたのは、アメリアさんだったようだ。
 いま気付いた。
 アメリアさんは馬車を止めると、お父さんを降ろし、馬に鞭を打つ。

「それじゃあ、気を付けて行ってくるんだよ!」
「はい! わかりました! 行ってきます。お父さん!」

 馬車から身を乗り出すと、お父さんに向かって手を振った。
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