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第三章 ホオズキの街
第72話 ホオズキの街道中①
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ここはキノコ・キャッスル。
お父さんと側近のアメリアさんを街に送り届けた翌日、僕ははしゃぎ声を上げていた。
僕の視界にナビさんが文字を浮かべてくる。
<それで、本当によろしかったんですか?>
「うん。もちろんだよ! お父さんだよ。お父さん! 孤児院に預けられて十年。ようやく僕のお父さんが見つかったんだ!」
僕のお父さんこと、オーダー・インベーションは、なんと『アベコベの街』を初めとしたこの辺り一帯の領地を治める辺境伯様だった。
僕のお父さんがそんな偉い人だったなんて初めて知った。
……まあ、僕のことを産んだ直後、お母さんが亡くなってしまっていたことを聞いた時はとても悲しい気分となったが、お父さんが僕のことを迎えに来てくれただけで十分だ。
ちなみに、オーダーさん……いや、お父さんが言うには、お母さんの名前は『ファルスフッド・インベーション』というらしい。
なんだか不思議なイントネーションの名前だが、僕のお母さんだ。心に刻んでおこう。
なんでも、辺境伯であるお父さんと、平民であるお母さんが大恋愛の末、できた子供が僕らしい。
ちなみに、お父さんには、息子が二人と娘が一人いる。
お母さんが亡くなり、僕の所在が分からなくなった後、再婚したようだ。
つまり、僕はお父さんの三人目の息子になる。
なんだか時系列がおかしい気がしないでもないけど、息子二人と娘一人は正確にはお父さんの子供ではなく、お義母さんの連れ子とのことだ。
つまりお父さんの息子達とは義兄弟ということになる。
しかし、このことは話してはいけないらしい。
僕も無用な諍いなんて起こしたくはない。
だからこそ、そのことを口にするのは止めておこうと思っている。
「それじゃあ、お父さんの下に向かおうか! クロユリさんはどうする?」
「わ、私も連れて行って貰えるんですか!?」
僕の迂闊な一言によりクロユリさんの背後に花が咲く。
し、しまった。
気分が高揚し過ぎて、思ってもないことを口にしてしまった。
し、しかし、一度口にした言葉を取り消す訳にはいかない。
というより、そんなことをすればどうなるか……。
「う、うん……」
そう呟くと、クロユリさんが満面の笑顔を浮かべ、僕の手を取ってきた。
「ああ、ああっ! 私、とっても感激です! これからはノース様と一緒に生活することができるのですね! やはり、私とノース様は一緒になる運命……。正直、朝から夕方までの間、私のことをキノコ・キャッスルに取り残し外に出るなんて、ノース様は私のことを一体なんだと思っているのかと、そんなことを考えておりましたが、ちゃんと、私の気持ちも考えて下さっていたのですね!」
知らなかった。
そんなことを思っていたのか……。
「う、うん……もちろんだよ!」
そう言いながら、僕もクロユリさんの手を握り返す。
すると、クロユリさんは満面の笑みを浮かべた。
「それじゃあ、一緒にお父さんの下に行こうか!」
「はいっ!」
必要な物はすべて『次元収納』に収めてある。
問題はないはずだ。
すると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<ノース様、キノコ・キャッスルはどういたしますか?>
えっ? キノコ・キャッスル?
う~ん。このままでいいんじゃないかな? この場所は隣国との国境沿いにある訳だし、この場所は、どちらの国の領土という訳でもないんでしょ?
<はい。それでは、マッシュルーム・バトラーに管理を任せこのままにしておきましょう>
うん。助かるよ!
お父さんが住んでいる家、もしかしたら、トイレが汲み取り式でお風呂がないかもしれない。それにキノコ・キャッスルがここにあれば、隣国に対するけん制にもなる。
そんなことをお父さんが言っていた。
「それじゃあ、改めてお父さんの下に向かおうか!」
そう言うと、クロユリさんの手を取り『空間転移』を発動させる。
『空間転移』する場所。それは、ダンジョン近くに宛がわれた家だ。
なんでも、お父さんが家まで迎えに来てくれるらしい。
『空間転移』でアベコベの街にある家に転移し、外に出ると家の前に馬車が着けてあった。
「やあ、ノース君。待っていたよ。おや? クロユリ君も連れて来たのかい?」
「はい! クロユリさんは僕にとって大切な人ですから!」
よくわからないが、ナビさん曰く、クロユリさんの機嫌を取る時は『僕にとって大切な人』という言葉を付けるといいらしい。
その効果は抜群で、クロユリさんは終始満面の笑みを浮かべている。
「ほう。その年でガールフレンドを作るとは、ノース君は将来有望な領主になりそうだね。流石は私の息子だ。まあ、まずは馬車に乗りたまえ、ゆっくり話をしようじゃないか」
「はい!」
お父さんにそう返事をすると、クロユリさんと馬車に乗り込んでいく。
「それじゃあ、御者君。馬車を走らせてくれ」
「はい。オーダー様」
御者さんがそう返事をすると、馬車がゆっくり走り出した。
馬車に備え付けられているクッションに座ると、お父さんが口を開く。
「さて、実はノース君に頼みがあるのだけれども、話を聞いてくれないかい?」
「頼みですか? 一体なんでしょう」
そう呟くと、お父さんは黒い笑みを浮かべながら話始めた。
お父さんと側近のアメリアさんを街に送り届けた翌日、僕ははしゃぎ声を上げていた。
僕の視界にナビさんが文字を浮かべてくる。
<それで、本当によろしかったんですか?>
「うん。もちろんだよ! お父さんだよ。お父さん! 孤児院に預けられて十年。ようやく僕のお父さんが見つかったんだ!」
僕のお父さんこと、オーダー・インベーションは、なんと『アベコベの街』を初めとしたこの辺り一帯の領地を治める辺境伯様だった。
僕のお父さんがそんな偉い人だったなんて初めて知った。
……まあ、僕のことを産んだ直後、お母さんが亡くなってしまっていたことを聞いた時はとても悲しい気分となったが、お父さんが僕のことを迎えに来てくれただけで十分だ。
ちなみに、オーダーさん……いや、お父さんが言うには、お母さんの名前は『ファルスフッド・インベーション』というらしい。
なんだか不思議なイントネーションの名前だが、僕のお母さんだ。心に刻んでおこう。
なんでも、辺境伯であるお父さんと、平民であるお母さんが大恋愛の末、できた子供が僕らしい。
ちなみに、お父さんには、息子が二人と娘が一人いる。
お母さんが亡くなり、僕の所在が分からなくなった後、再婚したようだ。
つまり、僕はお父さんの三人目の息子になる。
なんだか時系列がおかしい気がしないでもないけど、息子二人と娘一人は正確にはお父さんの子供ではなく、お義母さんの連れ子とのことだ。
つまりお父さんの息子達とは義兄弟ということになる。
しかし、このことは話してはいけないらしい。
僕も無用な諍いなんて起こしたくはない。
だからこそ、そのことを口にするのは止めておこうと思っている。
「それじゃあ、お父さんの下に向かおうか! クロユリさんはどうする?」
「わ、私も連れて行って貰えるんですか!?」
僕の迂闊な一言によりクロユリさんの背後に花が咲く。
し、しまった。
気分が高揚し過ぎて、思ってもないことを口にしてしまった。
し、しかし、一度口にした言葉を取り消す訳にはいかない。
というより、そんなことをすればどうなるか……。
「う、うん……」
そう呟くと、クロユリさんが満面の笑顔を浮かべ、僕の手を取ってきた。
「ああ、ああっ! 私、とっても感激です! これからはノース様と一緒に生活することができるのですね! やはり、私とノース様は一緒になる運命……。正直、朝から夕方までの間、私のことをキノコ・キャッスルに取り残し外に出るなんて、ノース様は私のことを一体なんだと思っているのかと、そんなことを考えておりましたが、ちゃんと、私の気持ちも考えて下さっていたのですね!」
知らなかった。
そんなことを思っていたのか……。
「う、うん……もちろんだよ!」
そう言いながら、僕もクロユリさんの手を握り返す。
すると、クロユリさんは満面の笑みを浮かべた。
「それじゃあ、一緒にお父さんの下に行こうか!」
「はいっ!」
必要な物はすべて『次元収納』に収めてある。
問題はないはずだ。
すると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<ノース様、キノコ・キャッスルはどういたしますか?>
えっ? キノコ・キャッスル?
う~ん。このままでいいんじゃないかな? この場所は隣国との国境沿いにある訳だし、この場所は、どちらの国の領土という訳でもないんでしょ?
<はい。それでは、マッシュルーム・バトラーに管理を任せこのままにしておきましょう>
うん。助かるよ!
お父さんが住んでいる家、もしかしたら、トイレが汲み取り式でお風呂がないかもしれない。それにキノコ・キャッスルがここにあれば、隣国に対するけん制にもなる。
そんなことをお父さんが言っていた。
「それじゃあ、改めてお父さんの下に向かおうか!」
そう言うと、クロユリさんの手を取り『空間転移』を発動させる。
『空間転移』する場所。それは、ダンジョン近くに宛がわれた家だ。
なんでも、お父さんが家まで迎えに来てくれるらしい。
『空間転移』でアベコベの街にある家に転移し、外に出ると家の前に馬車が着けてあった。
「やあ、ノース君。待っていたよ。おや? クロユリ君も連れて来たのかい?」
「はい! クロユリさんは僕にとって大切な人ですから!」
よくわからないが、ナビさん曰く、クロユリさんの機嫌を取る時は『僕にとって大切な人』という言葉を付けるといいらしい。
その効果は抜群で、クロユリさんは終始満面の笑みを浮かべている。
「ほう。その年でガールフレンドを作るとは、ノース君は将来有望な領主になりそうだね。流石は私の息子だ。まあ、まずは馬車に乗りたまえ、ゆっくり話をしようじゃないか」
「はい!」
お父さんにそう返事をすると、クロユリさんと馬車に乗り込んでいく。
「それじゃあ、御者君。馬車を走らせてくれ」
「はい。オーダー様」
御者さんがそう返事をすると、馬車がゆっくり走り出した。
馬車に備え付けられているクッションに座ると、お父さんが口を開く。
「さて、実はノース君に頼みがあるのだけれども、話を聞いてくれないかい?」
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そう呟くと、お父さんは黒い笑みを浮かべながら話始めた。
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