71 / 121
第三章 ホオズキの街
第71話 悩むアベコベの街の領主
しおりを挟む
「ああ、私はどうしたらいいんだ……」
この辺り一帯を治める領主である私ことオーダー・インベーションは、キノコ・キャッスルから戻ってくると苦悩の表情を浮かべていた。
ノース君を確保したまではよかった。
しかし、その後が問題だった。
まさか『キノコマスター』の力があれほどのものとは思わなかったのだ。
マキシマム・マッシュルーム・カイザー。
あれは駄目だろう。流石にあれは駄目だろう。
それになんだ、キノコ界の決戦兵器って?
詳しく話を聞けば、マッシュルーム・エクスカリバーという聖剣とマッシュルーム・イージスという聖盾を持った大量殺戮兵器であることがわかった。
しかも、キノコ・キャッスルの建つ場所には、この街にいる兵士や冒険者達よりも強く練度の高いマッシュルーム兵がわんさかいる。
「王国に届けは提出しておりません。いまならまだ間に合いますが……」
「ノース君を私の息子として迎え入れることをやめろと? そんなこと、できる訳がないだろう」
万が一、ノース君が隣国に渡ったらどうする。
ノース君の力が隣国ストレリチア王国に渡れば、ガーベラ王国は滅亡するかもしれないんだぞ?
少なくとも、マキシマム・マッシュルーム・カイザーに立ち向かうことのできる戦力を私は知らない。
かと言って、放置することもできない。
しかし、そんな強大な力を持つノース君が、私の治めるアベコベの街にいては、スローライフが台無しだ。
気が休まる暇もない。
ノース君をこの私から遠ざけつつ、ギフトの力を最大限利用し、国のために……牽いては私のために尽くさせるには一体どうすれば……。
頭を抱えていると、アメリア君が一枚の手紙をテーブルに置いた。
「オーダー様、ホオズキの街を治めるフォーリッシュ様よりこれが……」
「うん?」
なんだ?
また金の融通をしろという手紙か?
フォーリッシュ・インベーション。
ホオズキの街を治めさせている私の息子だ。
社会勉強のため教育を施した後、ストレリチア王国から切り取った領地経営を任せているが、中々、上手くいっていないと聞いている。
しかし、それは領地経営を始めてすぐの出来事。
手紙の内容を見る限り、最近では随分と羽振りがいいようだ。
お金の融通をしてくる所か、手紙には領地経営が軌道に乗っているので、暫くの間、様子を見て下さいと書いてある。
それなら融通した金を返してほしい。
「っ!? そうだ。閃いたぞ! フォーリッシュ君の領地経営がそんなに上手くいっているというのであれば、それを利用しない手はない。少なくとも、領地経営をアメリア君達、名ばかり貴族に任せて遊び呆けている私よりかは……」
「オーダー様。考えていることが口から出ています」
アメリア君が呆れた表情を浮かべそう言う。
「ああ、そうか。それは失礼したね」
アメリア君は可愛げがあるが、少し真面目すぎるきらいがあるな、そういう所は直した方がいいと思う。
まあ、その話は置いておこう。
私は襟を正すとアメリア君に視線を向ける。
「さて、アメリア君。ノース君は正式に私の息子として迎え入れるとして、君にやって欲しいことがある」
そう言うと、アメリア君は露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
一体どうしたというのだろうか?
昔の素直で私のことを尊敬した表情で見てくれていたアメリア君の顔が懐かしく思えてくる。
「……なんでしょうか」
アメリア君は嫌々そうに言う。
辛うじて話を聞いてくれる意思はあるようだ。
思い付きで物事をいうことが多いから、またなにか面倒事を頼まれるのかもしれないと考えたのかもしれない。
まあ、その通りなんだがね!
私はこの辺り一帯を治める辺境伯だ。
辺境において辺境伯様の言うことは絶対。
庶民の中で流行っている辺境伯様ゲームのようなノリで、部下に気軽に無茶な命令ができるのも辺境伯という立場あってのことだ。
辺境伯が部下に命令してなにが悪い。
そう。なにも悪くない。辺境伯が部下に命令することは当たり前のことだ。
「君には一時的にアベコベの街を離れ、ノース君と共にホオズキの街に向かって欲しい。用向きはそうだね。フォーリッシュ君との顔合わせ、そして、フォーリッシュ君の治める街の様子の視察ということにしておこう。お願いできるかな?」
「はい。オーダー様の命令とあれば当然のことです」
「それはよかった。それでは、早速、準備をしよう。ノース君には、明日の朝、家まで迎えに行くと言ってしまったからね」
そうとなれば、話は早い。
早速、準備を進めることにしよう。
「ああ、そうだ。アメリア君には一時的に、ホオズキの街における私と同等の権限を与えることとする。ホオズキの街は、アベコベの街と同じく隣国に近いからね。万が一ということもある。それに君も知っての通り、フォーリッシュ君はこの私が甘やかして育ててきた。もしかしたら分別の利かないことを言ってくるかもしれない。その時は遠慮なく武力行使してくれて構わないからね?」
そう言うと、アメリア君はますます嫌そうな表情を浮かべた。
「ふふふっ、これで暫くの間、ゆっくり過ごすことができそうだ。その間に、ノース君のことをどうするか、考えておこう」
口うるさいアメリア君もいなくなるし、これで一ヶ月間はゆっくりすることができそうだ。
私は椅子に腰かけると、アメリア君の煎れてくれたアールグレイの香りを楽しみながらティーカップを傾けた。
この辺り一帯を治める領主である私ことオーダー・インベーションは、キノコ・キャッスルから戻ってくると苦悩の表情を浮かべていた。
ノース君を確保したまではよかった。
しかし、その後が問題だった。
まさか『キノコマスター』の力があれほどのものとは思わなかったのだ。
マキシマム・マッシュルーム・カイザー。
あれは駄目だろう。流石にあれは駄目だろう。
それになんだ、キノコ界の決戦兵器って?
詳しく話を聞けば、マッシュルーム・エクスカリバーという聖剣とマッシュルーム・イージスという聖盾を持った大量殺戮兵器であることがわかった。
しかも、キノコ・キャッスルの建つ場所には、この街にいる兵士や冒険者達よりも強く練度の高いマッシュルーム兵がわんさかいる。
「王国に届けは提出しておりません。いまならまだ間に合いますが……」
「ノース君を私の息子として迎え入れることをやめろと? そんなこと、できる訳がないだろう」
万が一、ノース君が隣国に渡ったらどうする。
ノース君の力が隣国ストレリチア王国に渡れば、ガーベラ王国は滅亡するかもしれないんだぞ?
少なくとも、マキシマム・マッシュルーム・カイザーに立ち向かうことのできる戦力を私は知らない。
かと言って、放置することもできない。
しかし、そんな強大な力を持つノース君が、私の治めるアベコベの街にいては、スローライフが台無しだ。
気が休まる暇もない。
ノース君をこの私から遠ざけつつ、ギフトの力を最大限利用し、国のために……牽いては私のために尽くさせるには一体どうすれば……。
頭を抱えていると、アメリア君が一枚の手紙をテーブルに置いた。
「オーダー様、ホオズキの街を治めるフォーリッシュ様よりこれが……」
「うん?」
なんだ?
また金の融通をしろという手紙か?
フォーリッシュ・インベーション。
ホオズキの街を治めさせている私の息子だ。
社会勉強のため教育を施した後、ストレリチア王国から切り取った領地経営を任せているが、中々、上手くいっていないと聞いている。
しかし、それは領地経営を始めてすぐの出来事。
手紙の内容を見る限り、最近では随分と羽振りがいいようだ。
お金の融通をしてくる所か、手紙には領地経営が軌道に乗っているので、暫くの間、様子を見て下さいと書いてある。
それなら融通した金を返してほしい。
「っ!? そうだ。閃いたぞ! フォーリッシュ君の領地経営がそんなに上手くいっているというのであれば、それを利用しない手はない。少なくとも、領地経営をアメリア君達、名ばかり貴族に任せて遊び呆けている私よりかは……」
「オーダー様。考えていることが口から出ています」
アメリア君が呆れた表情を浮かべそう言う。
「ああ、そうか。それは失礼したね」
アメリア君は可愛げがあるが、少し真面目すぎるきらいがあるな、そういう所は直した方がいいと思う。
まあ、その話は置いておこう。
私は襟を正すとアメリア君に視線を向ける。
「さて、アメリア君。ノース君は正式に私の息子として迎え入れるとして、君にやって欲しいことがある」
そう言うと、アメリア君は露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
一体どうしたというのだろうか?
昔の素直で私のことを尊敬した表情で見てくれていたアメリア君の顔が懐かしく思えてくる。
「……なんでしょうか」
アメリア君は嫌々そうに言う。
辛うじて話を聞いてくれる意思はあるようだ。
思い付きで物事をいうことが多いから、またなにか面倒事を頼まれるのかもしれないと考えたのかもしれない。
まあ、その通りなんだがね!
私はこの辺り一帯を治める辺境伯だ。
辺境において辺境伯様の言うことは絶対。
庶民の中で流行っている辺境伯様ゲームのようなノリで、部下に気軽に無茶な命令ができるのも辺境伯という立場あってのことだ。
辺境伯が部下に命令してなにが悪い。
そう。なにも悪くない。辺境伯が部下に命令することは当たり前のことだ。
「君には一時的にアベコベの街を離れ、ノース君と共にホオズキの街に向かって欲しい。用向きはそうだね。フォーリッシュ君との顔合わせ、そして、フォーリッシュ君の治める街の様子の視察ということにしておこう。お願いできるかな?」
「はい。オーダー様の命令とあれば当然のことです」
「それはよかった。それでは、早速、準備をしよう。ノース君には、明日の朝、家まで迎えに行くと言ってしまったからね」
そうとなれば、話は早い。
早速、準備を進めることにしよう。
「ああ、そうだ。アメリア君には一時的に、ホオズキの街における私と同等の権限を与えることとする。ホオズキの街は、アベコベの街と同じく隣国に近いからね。万が一ということもある。それに君も知っての通り、フォーリッシュ君はこの私が甘やかして育ててきた。もしかしたら分別の利かないことを言ってくるかもしれない。その時は遠慮なく武力行使してくれて構わないからね?」
そう言うと、アメリア君はますます嫌そうな表情を浮かべた。
「ふふふっ、これで暫くの間、ゆっくり過ごすことができそうだ。その間に、ノース君のことをどうするか、考えておこう」
口うるさいアメリア君もいなくなるし、これで一ヶ月間はゆっくりすることができそうだ。
私は椅子に腰かけると、アメリア君の煎れてくれたアールグレイの香りを楽しみながらティーカップを傾けた。
0
お気に入りに追加
1,053
あなたにおすすめの小説

もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

聖剣を錬成した宮廷錬金術師。国王にコストカットで追放されてしまう~お前の作ったアイテムが必要だから戻ってこいと言われても、もう遅い!
つくも
ファンタジー
錬金術士学院を首席で卒業し、念願であった宮廷錬金術師になったエルクはコストカットで王国を追放されてしまう。
しかし国王は知らなかった。王国に代々伝わる聖剣が偽物で、エルクがこっそりと本物の聖剣を錬成してすり替えていたという事に。
宮廷から追放され、途方に暮れていたエルクに声を掛けてきたのは、冒険者学校で講師をしていた時のかつての教え子達であった。
「————先生。私達と一緒に冒険者になりませんか?」
悩んでいたエルクは教え子である彼女等の手を取り、冒険者になった。
————これは、不当な評価を受けていた世界最強錬金術師の冒険譚。錬金術師として規格外の力を持つ彼の実力は次第に世界中に轟く事になる————。

どうでもいいですけどね
志位斗 茂家波
恋愛
「ミラージュ令嬢!!貴女との婚約を破棄する!!」
‥‥と、かつての婚約者に婚約破棄されてから数年が経ちました。
まぁ、あの方がどうなったのかは別にどうでもいいですけれどね。過去は過去ですから、変えようがないです。
思いついたよくある婚約破棄テンプレ(?)もの。気になる方は是非どうぞ。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる