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第三章 ホオズキの街

第71話 悩むアベコベの街の領主

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「ああ、私はどうしたらいいんだ……」

 この辺り一帯を治める領主である私ことオーダー・インベーションは、キノコ・キャッスルから戻ってくると苦悩の表情を浮かべていた。

 ノース君を確保したまではよかった。
 しかし、その後が問題だった。

 まさか『キノコマスター』の力があれほどのものとは思わなかったのだ。

 マキシマム・マッシュルーム・カイザー。
 あれは駄目だろう。流石にあれは駄目だろう。
 それになんだ、キノコ界の決戦兵器って?

 詳しく話を聞けば、マッシュルーム・エクスカリバーという聖剣とマッシュルーム・イージスという聖盾を持った大量殺戮兵器であることがわかった。
 しかも、キノコ・キャッスルの建つ場所には、この街にいる兵士や冒険者達よりも強く練度の高いマッシュルーム兵がわんさかいる。

「王国に届けは提出しておりません。いまならまだ間に合いますが……」
「ノース君を私の息子として迎え入れることをやめろと? そんなこと、できる訳がないだろう」

 万が一、ノース君が隣国に渡ったらどうする。
 ノース君の力が隣国ストレリチア王国に渡れば、ガーベラ王国は滅亡するかもしれないんだぞ?

 少なくとも、マキシマム・マッシュルーム・カイザーに立ち向かうことのできる戦力を私は知らない。

 かと言って、放置することもできない。
 しかし、そんな強大な力を持つノース君が、私の治めるアベコベの街にいては、スローライフが台無しだ。

 気が休まる暇もない。

 ノース君をこの私から遠ざけつつ、ギフトの力を最大限利用し、国のために……牽いては私のために尽くさせるには一体どうすれば……。

 頭を抱えていると、アメリア君が一枚の手紙をテーブルに置いた。

「オーダー様、ホオズキの街を治めるフォーリッシュ様よりこれが……」
「うん?」

 なんだ?
 また金の融通をしろという手紙か?

 フォーリッシュ・インベーション。
 ホオズキの街を治めさせている私の息子だ。
 社会勉強のため教育を施した後、ストレリチア王国から切り取った領地経営を任せているが、中々、上手くいっていないと聞いている。

 しかし、それは領地経営を始めてすぐの出来事。
 手紙の内容を見る限り、最近では随分と羽振りがいいようだ。

 お金の融通をしてくる所か、手紙には領地経営が軌道に乗っているので、暫くの間、様子を見て下さいと書いてある。
 それなら融通した金を返してほしい。

「っ!? そうだ。閃いたぞ! フォーリッシュ君の領地経営がそんなに上手くいっているというのであれば、それを利用しない手はない。少なくとも、領地経営をアメリア君達、名ばかり貴族に任せて遊び呆けている私よりかは……」

「オーダー様。考えていることが口から出ています」

 アメリア君が呆れた表情を浮かべそう言う。

「ああ、そうか。それは失礼したね」

 アメリア君は可愛げがあるが、少し真面目すぎるきらいがあるな、そういう所は直した方がいいと思う。
 まあ、その話は置いておこう。

 私は襟を正すとアメリア君に視線を向ける。

「さて、アメリア君。ノース君は正式に私の息子として迎え入れるとして、君にやって欲しいことがある」

 そう言うと、アメリア君は露骨に嫌そうな表情を浮かべた。

 一体どうしたというのだろうか?
 昔の素直で私のことを尊敬した表情で見てくれていたアメリア君の顔が懐かしく思えてくる。

「……なんでしょうか」

 アメリア君は嫌々そうに言う。
 辛うじて話を聞いてくれる意思はあるようだ。

 思い付きで物事をいうことが多いから、またなにか面倒事を頼まれるのかもしれないと考えたのかもしれない。
 まあ、その通りなんだがね!

 私はこの辺り一帯を治める辺境伯だ。
 辺境において辺境伯様の言うことは絶対。

 庶民の中で流行っている辺境伯様ゲームのようなノリで、部下に気軽に無茶な命令ができるのも辺境伯という立場あってのことだ。

 辺境伯が部下に命令してなにが悪い。
 そう。なにも悪くない。辺境伯が部下に命令することは当たり前のことだ。

「君には一時的にアベコベの街を離れ、ノース君と共にホオズキの街に向かって欲しい。用向きはそうだね。フォーリッシュ君との顔合わせ、そして、フォーリッシュ君の治める街の様子の視察ということにしておこう。お願いできるかな?」

「はい。オーダー様の命令とあれば当然のことです」
「それはよかった。それでは、早速、準備をしよう。ノース君には、明日の朝、家まで迎えに行くと言ってしまったからね」

 そうとなれば、話は早い。
 早速、準備を進めることにしよう。

「ああ、そうだ。アメリア君には一時的に、ホオズキの街における私と同等の権限を与えることとする。ホオズキの街は、アベコベの街と同じく隣国に近いからね。万が一ということもある。それに君も知っての通り、フォーリッシュ君はこの私が甘やかして育ててきた。もしかしたら分別の利かないことを言ってくるかもしれない。その時は遠慮なく武力行使してくれて構わないからね?」

 そう言うと、アメリア君はますます嫌そうな表情を浮かべた。

「ふふふっ、これで暫くの間、ゆっくり過ごすことができそうだ。その間に、ノース君のことをどうするか、考えておこう」

 口うるさいアメリア君もいなくなるし、これで一ヶ月間はゆっくりすることができそうだ。
 私は椅子に腰かけると、アメリア君の煎れてくれたアールグレイの香りを楽しみながらティーカップを傾けた。
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