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第二章 アベコベの街

第70話 驚愕する領主②

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 マキシマムさんマッシュルーム・カイザーを唖然とした表情を浮かべながら眺めていると、ノース君が私の袖を引いてくる。

「お父さん、どうかしたんですか?」

 うん。とても純粋な眼差しで私のことを心配しているように見える。
 しかし、知らない世界の決戦兵器を目の当たりにして困惑しているんだよ? とは言えない。

「いや、少しだけ驚いただけだよ。それにしてもこのマキシマム・マッシュルーム・カイザーは凄いね……」

 マキシマム・マッシュルーム・カイザー単体で、街一つ簡単に滅ぼすことができそうだ。
 領外とはいえ、こんな物騒な兵器が近くにあったとは……隣国の領主もこんな物騒なものが近くにあっては気が気ではないだろう。

「君のギフト『キノコマスター』は他にどんなことができるんだい?」
「そうですね……雨の日限定で指定の範囲をキノコ塗れにすることができます」
「へ、へえ……そんなこともできるんだ……」

 指定の範囲をキノコ塗れってなんだ?
 しかも、雨の日限定。意味がわからない。
 しかし、この辺り一帯を治める領主としてノース君の力を確認しておかなければならない。

「ノース君さえよければ、雨が降った日にその力を見せてくれないかい?」
「はい! あっ、丁度、雨が降ってきましたね」

 空を見上げると、辺りが曇り出し、パラパラと雨が降ってきた。
 ノース君はそこらに生えている大きな葉を毟ると雨よけ代わりに渡してくる。

「それじゃあ、僕に着いてきて下さい。これから近くにあるゴブリンの集落に向かいます」
「あ、ああっ……」

 アメリア君と共にノース君に着いて行くと、二十分程歩いた先にゴブリンの集落があった。

「ノース君? ゴブリンの集落に来てなにをしようというんだい?」
「えっと、いまからこのゴブリンの集落をキノコ塗れにして殲滅したいと思います」
「ゴ、ゴブリンの集落をキノコ塗れにして殲滅?」

 ゴブリン単体ならいざ知らず、ゴブリンの集落を殲滅する?
 しかもキノコ塗れにして??
 頭に疑問符を浮かべていると、赤く光る線が天から降り注ぎ、ゴブリンの集落を取り囲んでいく。
 突然の状況に、驚きの表情を浮かべていると、赤く光る線の内側の至るところから、ニョキニョキとキノコが生え始めた。
 赤く光る線の内側に降る雨の一粒一粒が急激にキノコに変わり、ゴブリンの集落がキノコ塗れになっていく。

「な、なんだこれは……」

 信じられない状況に唖然とした表情を浮かべることしかできない。

 外にいるゴブリンに至っては、身体や口の中から大量のキノコが生えだし、大変なことになっている。

 そして赤く光る線が途切れると、ゴブリンの集落があった場所には大量のキノコの山ができ上がっていた。

「こ、これが、キノコマスターの力……!?」

 な、なんて恐ろしい力なんだ。
 雨の日限定の力とはいえ、街でこれをやられたら抵抗する間もなく殲滅されてしまう。

 ふと後ろを振り向くと、アメリア君が白目になっていた。
 その気持ちは凄く理解できる。

 思考放棄できて羨ましいぞ、アメリア君。
 できることなら私もアメリア君のように思考放棄したい。

「お父さん、いかがでしたか?」
「あ、ああっ……とても素晴らしいギフトだね。流石は私の息子だ」

 そう言うと、ノース君は笑顔を浮かべる。

 いや、本当に……他の者の所に行かれる前に確保することができて本当によかった。
 アメリア君はノース君の取り込みに否定的のようだが、これほどの力を持っていることがわかったいま、逃す手はない。というより、逃すことができない。

「そうですか!? ありがとうございます。それでは、キノコ・キャッスルに戻りましょう」
「あ、ああっ……」

 ノース君がそう言うと、天候が晴れてきた。
 まるで、ノース君の力を私に見せつけるかのような天候の変化だ。
 もしやキノコマスターには、天候をも自由に操る力があるのだろうか?

 すると、ズシン、ズシンと音を立てて、マキシマム・マッシュルーム・カイザーがこちらに向かってくる。
 おそらくノース君が呼んだのだろう。
 マキシマム・マッシュルームがノース君に傅くとキノコ・キャッスルに変わっていく。

「…………」

 もうなにも言うまい。
 ツッコミを入れたら負けだ。
 マキシマム・マッシュルーム・カイザー。あれは家だ。兵器兼家だ。
 そういうものだと、思い込もう。

「それじゃあ、お父さん。ああ、アメリアさんもこちらにどうぞ」
「ああ、アメリア君も現実に帰ってきたまえ、いくら思考放棄した所で結果は変わらないよ」

 そう問いかけると、アメリア君がビクリと震える。

「……ハ、ハイ。ワカリマシタ。オーダー様」

 思考放棄の次は、現実逃避か。
 完全に目が死んでしまっているが、羨ましいぞ、アメリア君。
 私の目もとっくに死んだ魚のような目をしている。そんな気がする。

「さあ、ノース君に着いて行こう」

 アメリア君の肩にそっと手を当てると、私の袖を引っ張りながら案内しようとするノース君に作り笑顔を向けながら着いて行く。

 そこから先の記憶はあまりなかった。
 次々と紹介されるキノコ型モンスター……もとい、マッシュルーム兵。
 様々な種類のキノコ。そして、キノコ・キャッスルに住むハーフエルフ。
 私の記憶領域のほとんどはキノコで一杯だ。

「どうでしたか? お父さん!」
「う、うん……。とても素晴らしかったよ。流石は私の息子だな。あははははっ……」

 最後に記憶しているのは、満面の笑みを浮かべるノース君と、死んだ目をしたアメリア君の表情だけだった。
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