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第二章 アベコベの街
第68話 ノース引取のその裏で
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「オーダー様……よろしかったのですか?」
「うん? なんの話だい?」
なにかアメリア君に心配をかけるようなことをしただろうか?
ちょっとなにを言っているかわからない。
そんな表情を浮かべると、アメリア君が目元に手をやり天井を仰いだ。
本日、三度目の天井仰ぎ。アメリア君は余程ストレスが溜まっているようだ。
「なんの話だい。ではありません! もっとご自身の立場をお考え下さい! 辺境伯であらせられるオーダー様が孤児院出身のノース様を息子として迎い入れるなんて前代未聞です! それに先程の作り話はなんですか!?」
「まあまあ、まずは落ち着きたまえよアメリア君……別に問題ないだろう? ストーリーとしてはありきたりのものかも知れないが、ノース君も満更ではなさそうだ。それに書類上、既にそうなっている。消息不明となっていた私の息子が、十年の時を経て私の下に戻ってきてくれた。純粋無垢ないい子じゃないか。良くも悪くもね」
「て、ですが……それではあまりにも……」
「ノース君のことを騙しているようで悪いとでも言いたいのかな?」
私がそう言うとアメリア君は黙って下を向いてしまう。
「確かに、私に消息不明の息子なんて存在しない。しかし、これはこの街のために必要なことなのだよ」
「必要なこと……ですか?」
「ああ、見てみたまえ……」
そう言うと、ギフトの力で目の前に透明なボードを浮かべる。そして、ボードにこの辺り一帯の地図とノース君が生み出したであろうキノコ型モンスターを赤く表示させた。
「こ、これは……」
「ああ、街の至る所にキノコ型モンスターが配置されている。これは由々しき事態だよ」
「確かに由々しき事態ですね。しかし、オーダー様のギフトがあれば……」
「それができれば良かったんだがね。なぜかはわからないがノース君自身に私のギフトは効かないみたいなんだ」
先程は私のギフトで、キノコ型モンスターを行動不能に追い込んだ。
しかし、このキノコ型モンスターは、どうやら私のギフト『領主』と相性が悪いようだ。なるべく平静を装ったが、結局の所、力技で対処するしか方法がなかった。
そしてノース君に、私のギフトは通用しない。
ノース君のギフトが発現してから一ヶ月と経っていないはず。
こんな危険人物に対する選択は二択。消すか、こちら側に引き込むかしかない。
しかし、消す選択肢をするにしても、街全体に散らばるキノコ型モンスターが障害となる。この街を危険に晒すことのできない私としては最初から選択肢が一つしかなかったのである。
「なるほど、それでノース様を息子として迎え入れることにしたのですか……」
「ああ、その通りだよ。養子として迎い入れることも検討したが、両親の記憶がなく。孤児院出身という経緯があるのであれば、いっそのこと実の子として迎い入れた方がいい。書類上のことなど、どうとでもなるからね」
それに養子として受け入れるよりも、血縁関係の繋がりがあるように見せかけた方がいい。血は水よりも濃い。ノース君を引き込むための楔は打った。
「おや、ノース君が戻ってきたようだね」
ノース君はオレンジジュースの飲み過ぎで、少しの間、席を外していた。
「すいません。席を外してしまって……」
「いやいや、そんなこと気にする必要はないよ。なにせ、君は私の実の息子なのだからね」
「は、はい!」
どうやらノース君は緊張しているらしい。
これからのこともあるし、どうにか緊張をほぐして欲しいのだが……。
そうだ。折角、親子となったんだ。
これまで、どのような生活を送っていたのか聞く振りをして、街の外にある巨大なキノコについて探りを入れて見よう。
「そうだ。この十年間君がどこでどんな生き方をしてきたのか。なにが楽しくて、どんな驚きがあったのか、教えてくれないかい?」
私がそう言うと、ノース君は「はい!」と呟き、笑顔を浮かべる。
ふふふっ、血縁関係はないにしても息子との会話は久しぶりだ。
私の息子達は十五歳を超えた辺りで、私の支配する街の領主として送り込んだ。
最近まったく連絡がないが、元気にしているだろうか。
ここ数年連絡を取っていない息子達に思い馳せていると、ノース君がとんでもないことを言った。
「それじゃあ、オーダーさんを……いや、お父さんをあのキノコ・キャッスルに案内しますね!」
「うん? キノコ・キャッスル??」
ノース君の言葉が飲み込めず、呆然とした表情を浮かべていると、ノース君が私とアメリア君の手を取った。
「えっと、このお店のお会計はもう終わっていますか?」
「うん? ああ、この店の会計は既に済ませてある。しかし、それがどうしたと……」
「それじゃあ、問題ないですね。ここは個室ですし……」
「うん? 一体なにを……」
ノース君がそう言うと、空間に亀裂が入っていく。
そして、瞬く間に、周りの景色が移り変わった。
「こ、ここは一体……私達は先ほどまで、『食事処りーずなぶる』の個室にいたはずだが……」
突然の出来事に思わず目を丸くする。
「ここはキノコ・キャッスル。僕が普段暮らしている家です!」
どうやらここは、街の外にある巨大なキノコの中らしい。
「うん? なんの話だい?」
なにかアメリア君に心配をかけるようなことをしただろうか?
ちょっとなにを言っているかわからない。
そんな表情を浮かべると、アメリア君が目元に手をやり天井を仰いだ。
本日、三度目の天井仰ぎ。アメリア君は余程ストレスが溜まっているようだ。
「なんの話だい。ではありません! もっとご自身の立場をお考え下さい! 辺境伯であらせられるオーダー様が孤児院出身のノース様を息子として迎い入れるなんて前代未聞です! それに先程の作り話はなんですか!?」
「まあまあ、まずは落ち着きたまえよアメリア君……別に問題ないだろう? ストーリーとしてはありきたりのものかも知れないが、ノース君も満更ではなさそうだ。それに書類上、既にそうなっている。消息不明となっていた私の息子が、十年の時を経て私の下に戻ってきてくれた。純粋無垢ないい子じゃないか。良くも悪くもね」
「て、ですが……それではあまりにも……」
「ノース君のことを騙しているようで悪いとでも言いたいのかな?」
私がそう言うとアメリア君は黙って下を向いてしまう。
「確かに、私に消息不明の息子なんて存在しない。しかし、これはこの街のために必要なことなのだよ」
「必要なこと……ですか?」
「ああ、見てみたまえ……」
そう言うと、ギフトの力で目の前に透明なボードを浮かべる。そして、ボードにこの辺り一帯の地図とノース君が生み出したであろうキノコ型モンスターを赤く表示させた。
「こ、これは……」
「ああ、街の至る所にキノコ型モンスターが配置されている。これは由々しき事態だよ」
「確かに由々しき事態ですね。しかし、オーダー様のギフトがあれば……」
「それができれば良かったんだがね。なぜかはわからないがノース君自身に私のギフトは効かないみたいなんだ」
先程は私のギフトで、キノコ型モンスターを行動不能に追い込んだ。
しかし、このキノコ型モンスターは、どうやら私のギフト『領主』と相性が悪いようだ。なるべく平静を装ったが、結局の所、力技で対処するしか方法がなかった。
そしてノース君に、私のギフトは通用しない。
ノース君のギフトが発現してから一ヶ月と経っていないはず。
こんな危険人物に対する選択は二択。消すか、こちら側に引き込むかしかない。
しかし、消す選択肢をするにしても、街全体に散らばるキノコ型モンスターが障害となる。この街を危険に晒すことのできない私としては最初から選択肢が一つしかなかったのである。
「なるほど、それでノース様を息子として迎え入れることにしたのですか……」
「ああ、その通りだよ。養子として迎い入れることも検討したが、両親の記憶がなく。孤児院出身という経緯があるのであれば、いっそのこと実の子として迎い入れた方がいい。書類上のことなど、どうとでもなるからね」
それに養子として受け入れるよりも、血縁関係の繋がりがあるように見せかけた方がいい。血は水よりも濃い。ノース君を引き込むための楔は打った。
「おや、ノース君が戻ってきたようだね」
ノース君はオレンジジュースの飲み過ぎで、少しの間、席を外していた。
「すいません。席を外してしまって……」
「いやいや、そんなこと気にする必要はないよ。なにせ、君は私の実の息子なのだからね」
「は、はい!」
どうやらノース君は緊張しているらしい。
これからのこともあるし、どうにか緊張をほぐして欲しいのだが……。
そうだ。折角、親子となったんだ。
これまで、どのような生活を送っていたのか聞く振りをして、街の外にある巨大なキノコについて探りを入れて見よう。
「そうだ。この十年間君がどこでどんな生き方をしてきたのか。なにが楽しくて、どんな驚きがあったのか、教えてくれないかい?」
私がそう言うと、ノース君は「はい!」と呟き、笑顔を浮かべる。
ふふふっ、血縁関係はないにしても息子との会話は久しぶりだ。
私の息子達は十五歳を超えた辺りで、私の支配する街の領主として送り込んだ。
最近まったく連絡がないが、元気にしているだろうか。
ここ数年連絡を取っていない息子達に思い馳せていると、ノース君がとんでもないことを言った。
「それじゃあ、オーダーさんを……いや、お父さんをあのキノコ・キャッスルに案内しますね!」
「うん? キノコ・キャッスル??」
ノース君の言葉が飲み込めず、呆然とした表情を浮かべていると、ノース君が私とアメリア君の手を取った。
「えっと、このお店のお会計はもう終わっていますか?」
「うん? ああ、この店の会計は既に済ませてある。しかし、それがどうしたと……」
「それじゃあ、問題ないですね。ここは個室ですし……」
「うん? 一体なにを……」
ノース君がそう言うと、空間に亀裂が入っていく。
そして、瞬く間に、周りの景色が移り変わった。
「こ、ここは一体……私達は先ほどまで、『食事処りーずなぶる』の個室にいたはずだが……」
突然の出来事に思わず目を丸くする。
「ここはキノコ・キャッスル。僕が普段暮らしている家です!」
どうやらここは、街の外にある巨大なキノコの中らしい。
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