66 / 121
第二章 アベコベの街
第66話 アベコベの街の支配者オーダー・インベーション①
しおりを挟む
「ち、ちょっと待って!」
僕が席を立とうとすると、アメリアさんが必死な表情を浮かべ声をかけてきた。
「はい。なんでしょう?」
「ど、どの条件がお気に召さなかったのでしょうか?」
アメリアさん、必死だな。
破格の条件を提示し、ノコノコ着いてきた所を捕らえて奴隷商人に売り捌く作戦が不発に終わり焦っているのだろう。
表情を見ると、なんでこの条件で頷かないのかわからないといった表情を浮かべている。
アメリアさんの表情が真に迫っていて、ナビさんが付いていなければ騙されていたかも知れない。
しかし、これが罠であることに気付いてしまったからには、仕方のないことだ。
先程の条件はあくまでブラフ。架空の条件を提示するだけなら誰でもできる。
「申し訳ございませんが、選考基準をお伝えすることはできません」
毅然とした態度でそう言うと、アメリアさんがふらついた。
だ、大丈夫だろうか?
まあアメリアさんにも生活がある。
もしかしたら借金があるのかもしれない。
だからこそ、こういった後ろ暗いことに手を染めているのだろう。
「そ、それではこれでどうです!」
アメリアさんはそう言うと、羊皮紙に傍線を引き、再度条件を提示してきた。
その上で、一千万コルを僕の前まで持ってくる。
爵位:名ばかり貴族(辺境伯)
職務:街の治安維持・領主への忠誠
給与:月額五千万コル
休暇:週休六日
貸与:宮殿の一フロアすべて
勤務時間:自由
契約金:一千万コル
追加された条件は月額五千万コル、週休六日。契約金一千万コル。
月に四日働くだけで五千万コルが入ってくる計算だ。
目の前に置かれた一千万コル。これも本物だろう。
まさか、こんな大金を持ってきているとは思わなかった。
しかし、僕は騙されない。
おそらくこれは見せ金。
僕を捕らえて奴隷市場にドナドナする際、回収するつもりのお金なんでしょ?
「とてもありがたい提案ではありますが、辞退させて頂きたいと思います」
そう断りの言葉を告げると、アメリアさんは目元に手を当て、天井を仰いだ。
すると、笑顔を浮かべた男性が個室に入ってくる。
「諦めたまえよ、アメリア君」
「オ、オーダー様……」
あれ?
この人、どこかで見たような……。
<ああ、冒険者協会に案内してくれた人ですね>
ああ、あの人か……。
しかし、なんでここにいるんだろう?
まさか、この人もアメリアさんとグルになって僕のことを奴隷市場にドナドナしようとしているのかな?
「アメリア君は退席してくれないかい? ここからは私自らノース君と話をしよう」
「で、ですがオーダー様っ!」
「まあまあ、落ち着きなさい。アメリア君の心配性にも困ったものだね。ふむ、それでは、アメリア君を含めて話をするとしよう。ノース君、もう一度話を聞いてはくれないかい?」
「話を聞くだけなら……」
そう呟くと、オーダーさんは笑顔を浮かべる。
「そうか! ありがとう。それでは、私もノース君と同じものを注文しようかな。ウエイトレス君、私とノース君にオレンジジュースを追加で、ああ、アメリア君には紅茶を頼むよ。シュガーとミルクを忘れずにね」
オーダーさんが近くのウエイトレスさんにそう注文すると、一分と立たずオレンジジュースと紅茶が運ばれてくる。
「それでは、ごゆっくりお過ごし下さい」
「ああ、ありがとう」
そしてウエイトレスさんが退出したのを確認すると、短剣を取り出しテーブルの上に置く。
なんで短剣をテーブルの上に置いたのか意図が読めず、首を傾げていると、オーダーさんが話しかけてくる。
「さて、ノース君。これがなんだかわかるかい?」
柄にクラウンの紋章が描かれた短剣。
これが一体なんだと言うのだろうか?
そんなことを考えていると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<あー。やってしまいましたね。この紋章冠は辺境伯の爵位を示すものです>
へー。そうなんだ。辺境伯を表す紋章冠なんだー。
「…………」
って!? 辺境伯っ!?
ほ、本当だっ! この紋章冠見たことがあるっ!
驚きのあまり短剣を二度見する。
<ええ、どうやらこの人、本物の貴族のようですね。ということは、先ほどの条件は詐欺や罠の類ではなかったということです……かね?>
えっ……と、ということは僕は……。
<ええ、仕官するチャンスを逃してしまったようですね>
のおおおお!
折角巡ってきた仕官のチャンスがぁぁぁぁ!
本物の辺境伯様を前に僕が一番初めにやったこと、それは平伏だった。
両手をつき、頭を垂れてテーブルにつくばう。
しかし、『辞退』というセリフを吐いた後での挽回は難しかった。
「ノース君、ここは食事処。そう平伏しなくてもいいよ。まずは顔を上げて……ああ、そうだ。ちゃんとした自己紹介を行っていなかったね。私の名前は、オーダー・インベーション。この辺り一帯と街を治める領主にして辺境伯さ。よろしくね」
そう言うとオーダーさんが手を差し伸べてくる。
「よ、よろしくお願いします……」
軽く握手を交わすと、オーダーさんは微笑を浮かべた。
「それにしても、あの条件を突っぱねるなんて流石だね」
「い、いえ……」
あまりに旨い話過ぎて、新手の詐欺か僕を奴隷にするための罠だと思ってました……。
僕が席を立とうとすると、アメリアさんが必死な表情を浮かべ声をかけてきた。
「はい。なんでしょう?」
「ど、どの条件がお気に召さなかったのでしょうか?」
アメリアさん、必死だな。
破格の条件を提示し、ノコノコ着いてきた所を捕らえて奴隷商人に売り捌く作戦が不発に終わり焦っているのだろう。
表情を見ると、なんでこの条件で頷かないのかわからないといった表情を浮かべている。
アメリアさんの表情が真に迫っていて、ナビさんが付いていなければ騙されていたかも知れない。
しかし、これが罠であることに気付いてしまったからには、仕方のないことだ。
先程の条件はあくまでブラフ。架空の条件を提示するだけなら誰でもできる。
「申し訳ございませんが、選考基準をお伝えすることはできません」
毅然とした態度でそう言うと、アメリアさんがふらついた。
だ、大丈夫だろうか?
まあアメリアさんにも生活がある。
もしかしたら借金があるのかもしれない。
だからこそ、こういった後ろ暗いことに手を染めているのだろう。
「そ、それではこれでどうです!」
アメリアさんはそう言うと、羊皮紙に傍線を引き、再度条件を提示してきた。
その上で、一千万コルを僕の前まで持ってくる。
爵位:名ばかり貴族(辺境伯)
職務:街の治安維持・領主への忠誠
給与:月額五千万コル
休暇:週休六日
貸与:宮殿の一フロアすべて
勤務時間:自由
契約金:一千万コル
追加された条件は月額五千万コル、週休六日。契約金一千万コル。
月に四日働くだけで五千万コルが入ってくる計算だ。
目の前に置かれた一千万コル。これも本物だろう。
まさか、こんな大金を持ってきているとは思わなかった。
しかし、僕は騙されない。
おそらくこれは見せ金。
僕を捕らえて奴隷市場にドナドナする際、回収するつもりのお金なんでしょ?
「とてもありがたい提案ではありますが、辞退させて頂きたいと思います」
そう断りの言葉を告げると、アメリアさんは目元に手を当て、天井を仰いだ。
すると、笑顔を浮かべた男性が個室に入ってくる。
「諦めたまえよ、アメリア君」
「オ、オーダー様……」
あれ?
この人、どこかで見たような……。
<ああ、冒険者協会に案内してくれた人ですね>
ああ、あの人か……。
しかし、なんでここにいるんだろう?
まさか、この人もアメリアさんとグルになって僕のことを奴隷市場にドナドナしようとしているのかな?
「アメリア君は退席してくれないかい? ここからは私自らノース君と話をしよう」
「で、ですがオーダー様っ!」
「まあまあ、落ち着きなさい。アメリア君の心配性にも困ったものだね。ふむ、それでは、アメリア君を含めて話をするとしよう。ノース君、もう一度話を聞いてはくれないかい?」
「話を聞くだけなら……」
そう呟くと、オーダーさんは笑顔を浮かべる。
「そうか! ありがとう。それでは、私もノース君と同じものを注文しようかな。ウエイトレス君、私とノース君にオレンジジュースを追加で、ああ、アメリア君には紅茶を頼むよ。シュガーとミルクを忘れずにね」
オーダーさんが近くのウエイトレスさんにそう注文すると、一分と立たずオレンジジュースと紅茶が運ばれてくる。
「それでは、ごゆっくりお過ごし下さい」
「ああ、ありがとう」
そしてウエイトレスさんが退出したのを確認すると、短剣を取り出しテーブルの上に置く。
なんで短剣をテーブルの上に置いたのか意図が読めず、首を傾げていると、オーダーさんが話しかけてくる。
「さて、ノース君。これがなんだかわかるかい?」
柄にクラウンの紋章が描かれた短剣。
これが一体なんだと言うのだろうか?
そんなことを考えていると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<あー。やってしまいましたね。この紋章冠は辺境伯の爵位を示すものです>
へー。そうなんだ。辺境伯を表す紋章冠なんだー。
「…………」
って!? 辺境伯っ!?
ほ、本当だっ! この紋章冠見たことがあるっ!
驚きのあまり短剣を二度見する。
<ええ、どうやらこの人、本物の貴族のようですね。ということは、先ほどの条件は詐欺や罠の類ではなかったということです……かね?>
えっ……と、ということは僕は……。
<ええ、仕官するチャンスを逃してしまったようですね>
のおおおお!
折角巡ってきた仕官のチャンスがぁぁぁぁ!
本物の辺境伯様を前に僕が一番初めにやったこと、それは平伏だった。
両手をつき、頭を垂れてテーブルにつくばう。
しかし、『辞退』というセリフを吐いた後での挽回は難しかった。
「ノース君、ここは食事処。そう平伏しなくてもいいよ。まずは顔を上げて……ああ、そうだ。ちゃんとした自己紹介を行っていなかったね。私の名前は、オーダー・インベーション。この辺り一帯と街を治める領主にして辺境伯さ。よろしくね」
そう言うとオーダーさんが手を差し伸べてくる。
「よ、よろしくお願いします……」
軽く握手を交わすと、オーダーさんは微笑を浮かべた。
「それにしても、あの条件を突っぱねるなんて流石だね」
「い、いえ……」
あまりに旨い話過ぎて、新手の詐欺か僕を奴隷にするための罠だと思ってました……。
0
お気に入りに追加
1,051
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
その聖女は身分を捨てた
メカ喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。
その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。
そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。
魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。
こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。
これは、平和を取り戻した後のお話である。
辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです
くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は……
※息抜きに書いてみたものです※
※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる