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第二章 アベコベの街
第62話 『剣聖』ウエスト再び
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ブレイブからポーターの依頼を受けた翌日、依頼達成証を提出するため冒険者協会向かった。
冒険者協会の中は相変わらず、冒険者で一杯だ。
僕は三十五番の番号札を発行してもらうと、受付員に呼ばれるまでの間、椅子に座って待つことにした。
椅子に座って待っていると、個室からブレイブの怒鳴り声が聞こえてくる。
「だから、あの建築物は、巨大なオブジェに変形するただの巨大なキノコだったと言っているじゃないか! この報告のどこに不審な点があるというんだ!」
「い、いえ、ですから……」
「私は『勇者』だぞ! この私の言うことが信じられないというのか!」
「で、ですので、もう一度だけ……」
「もういい! お前じゃ話にもならない! 責任者を呼んでくれっ!」
「え、ええっ……」
耳を澄まして聞いて見ると、相当憤慨しているようである。
対応する受付員も可哀相だ。
ブレイブと受付員の会話に聞き耳を立てていると、受付員から三十五番を呼ぶアナウンスが流れる。
番号札を片手に立ち上がると、受付に向かった。
「大変お待たせ致しました。三十五番の番号札を回収させて頂きます」
「あ、はい」
そういって番号札を提出すると、受付員が笑顔を浮かべる。
受付の女の胸元にあるネームプレートをチラリと見ると、そこには『冒険者協会受付員 リンドウ』と書かれていた。
「ようこそ冒険者協会へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「今日は依頼達成証の提出に伺いました」
依頼達成証をテーブルに乗せると、受付員のリンドウさんが困ったかのような表情を浮かべる。
一体、どうかしたのだろうか?
「ノース様。申し訳ございません。現在、こちらの依頼達成証を受理することはできません」
「えっ!? なんでですか?」
そう尋ねると、リンドウさんはブレイブのいる個室に視線を向けた。
「実は先日、森に突然出現した建築物の調査依頼をかけていたのですが、調査を行った冒険者がよくわからない調査報告を上げてきまして……」
「ああ、そういうことですか……」
それならば仕方がない。
「はい。この依頼はこの街の領主様からの依頼となっておりますので、しっかりとした調査報告が上がらないことには、こちらの依頼達成証を受理することができないのです。申し訳ございません」
「い、いえ、そういった理由であれば仕方がありません」
「依頼達成証をお預かりすることならできますが、いかが致しますか?」
「あ、それでは、それでお願いします」
そういって依頼達成証を預けると、僕は受付を後にした。
依頼ボードを眺めていると、懐かしい人物が声をかけてくる。
「おい、もしかしてお前、ノースか?」
「えっ?」
振り返ると、そこには孤児院のルームメイト、ウエストの姿があった。
「ウ、ウエスト?」
「よお! 久しぶりだな!」
そう言うと、ウエストは笑顔を浮かべ、バシバシと背中を叩いてくる。
「うん。久しぶり! 元気にしてた?」
「ああ、当たり前だ。お前こそ、いまはなにをやっているんだ?」
「僕はウエスト達みたいにスカウトされなかったからね。いまは冒険者をしているよ」
すると、ウエストがクスリと笑う。
「ああ、そういえば、お前は『キノコマスター』とかいう訳の分からないギフトを貰ったんだったな」
「う、うん……そうだね」
そう言うと、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<ノース様。この嫌味ったらしいモブキャラは一体誰ですか?>
いや、ウエストは嫌味ったらしいモブキャラじゃないから!
ウエストは、少し言葉遣いが悪いだけだから!
自分を中心に世界が回っていると思っているだけだからっ!
<その言い方……ノース様、実はウエストのことが嫌いなのではないですか?>
「いや、そんなことないからっ!?」
「お、おう。どうした、そんなに大きな声を上げて……まあいい。実は俺、いま宮殿に住んでいるんだ」
「宮殿に!?」
す、凄い!
流石はウエスト、優遇ギフトの『剣聖』を授かっただけのことはある。
さぞいい暮らしを送っているのだろう。
「ああ、宮殿の暮らしはいいぞ? 毎日、温かいお湯で身体を拭くこともできるし、食事は贅を尽くしたものが多い。最近、俺が食べた物の中で一番美味しかった物を教えてやろうか?」
別に好んで聞こうとは思わないけど……。
僕はとりあえず相槌を打つ。
「えっ、うん……それじゃあ、教えて貰おうかな?」
「ああ、それはな……黒パンだよ……」
く、黒パン!?
あの孤児院で生活していた時に食べていたパサパサのっ?
き、聞き間違いだろうか?
「……しかも、厚切りにした黒パンだ。それに焼いて食べると絶品……お前にも食べさせてやりたいくらいだぜ!」
ええっ!
あの厚切りの黒パンを焼きたてでっ!?
た、確かに! 薄切りにして食べても、食べ応え十分なのに、焼いた時の香ばしさも加わるとなると、その味は絶品……。
た、食べてみたい……。
そんなことを思っていると、ナビさんが呆れたかのような顔文字を視界に文字を浮かべてくる。
<( ̄ω ̄;)エートォ…えっ? 本気でそんなことを思っているんですか? いまの話を聞いてそんなことを思うのは多分、ノース様だけですよ?>
ええっ?
ナビさんはウエストの話を聞いて美味しそうだと思わなかったの?
黒パンを厚切りにして焼いて食べる。
酸味のある黒パンに香ばしさが加われば美味しいこと間違いなしだ。
食べたくて、口の中から唾液が滲み出てくる。
<いえ、まったく思いません>
一刀両断である。
げ、解せない……。
ナビさんと脳内会話していると、ウエストが受付に視線を向けた。
「まあ黒パン談義はここまでにしておこう。今日はこれから用事があるからな……そうだ。お前、冒険者になったんだよな? 今度、お前のことをポーターとして雇ってやるよ。イーストとサウスを誘って一緒にダンジョンに行こうぜ。初級ダンジョン:スライムの洞窟で『蒼い宝石:ブルースライム』が採れるらしいしな」
「う、うん……」
どうやらウエストは、初級ダンジョン:スライムの洞窟の現状を知らないようだ。
「なんだよ。歯切れが悪いな……まあいい。それじゃあ、またな!」
そう言うと、ウエストは受付に向かった。
その瞬間、数人の冒険者が怨嗟の声を上げる。
どうやらウエスト、これから受付員のリンドウさんとデートに行くらしい。
僕はどうしようかな……。
この街にきて一週間。
まだこの街のことをなにも知らない。
とりあえず、冒険者協会を出た僕は街の散策をすることに決めた。
冒険者協会の中は相変わらず、冒険者で一杯だ。
僕は三十五番の番号札を発行してもらうと、受付員に呼ばれるまでの間、椅子に座って待つことにした。
椅子に座って待っていると、個室からブレイブの怒鳴り声が聞こえてくる。
「だから、あの建築物は、巨大なオブジェに変形するただの巨大なキノコだったと言っているじゃないか! この報告のどこに不審な点があるというんだ!」
「い、いえ、ですから……」
「私は『勇者』だぞ! この私の言うことが信じられないというのか!」
「で、ですので、もう一度だけ……」
「もういい! お前じゃ話にもならない! 責任者を呼んでくれっ!」
「え、ええっ……」
耳を澄まして聞いて見ると、相当憤慨しているようである。
対応する受付員も可哀相だ。
ブレイブと受付員の会話に聞き耳を立てていると、受付員から三十五番を呼ぶアナウンスが流れる。
番号札を片手に立ち上がると、受付に向かった。
「大変お待たせ致しました。三十五番の番号札を回収させて頂きます」
「あ、はい」
そういって番号札を提出すると、受付員が笑顔を浮かべる。
受付の女の胸元にあるネームプレートをチラリと見ると、そこには『冒険者協会受付員 リンドウ』と書かれていた。
「ようこそ冒険者協会へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「今日は依頼達成証の提出に伺いました」
依頼達成証をテーブルに乗せると、受付員のリンドウさんが困ったかのような表情を浮かべる。
一体、どうかしたのだろうか?
「ノース様。申し訳ございません。現在、こちらの依頼達成証を受理することはできません」
「えっ!? なんでですか?」
そう尋ねると、リンドウさんはブレイブのいる個室に視線を向けた。
「実は先日、森に突然出現した建築物の調査依頼をかけていたのですが、調査を行った冒険者がよくわからない調査報告を上げてきまして……」
「ああ、そういうことですか……」
それならば仕方がない。
「はい。この依頼はこの街の領主様からの依頼となっておりますので、しっかりとした調査報告が上がらないことには、こちらの依頼達成証を受理することができないのです。申し訳ございません」
「い、いえ、そういった理由であれば仕方がありません」
「依頼達成証をお預かりすることならできますが、いかが致しますか?」
「あ、それでは、それでお願いします」
そういって依頼達成証を預けると、僕は受付を後にした。
依頼ボードを眺めていると、懐かしい人物が声をかけてくる。
「おい、もしかしてお前、ノースか?」
「えっ?」
振り返ると、そこには孤児院のルームメイト、ウエストの姿があった。
「ウ、ウエスト?」
「よお! 久しぶりだな!」
そう言うと、ウエストは笑顔を浮かべ、バシバシと背中を叩いてくる。
「うん。久しぶり! 元気にしてた?」
「ああ、当たり前だ。お前こそ、いまはなにをやっているんだ?」
「僕はウエスト達みたいにスカウトされなかったからね。いまは冒険者をしているよ」
すると、ウエストがクスリと笑う。
「ああ、そういえば、お前は『キノコマスター』とかいう訳の分からないギフトを貰ったんだったな」
「う、うん……そうだね」
そう言うと、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<ノース様。この嫌味ったらしいモブキャラは一体誰ですか?>
いや、ウエストは嫌味ったらしいモブキャラじゃないから!
ウエストは、少し言葉遣いが悪いだけだから!
自分を中心に世界が回っていると思っているだけだからっ!
<その言い方……ノース様、実はウエストのことが嫌いなのではないですか?>
「いや、そんなことないからっ!?」
「お、おう。どうした、そんなに大きな声を上げて……まあいい。実は俺、いま宮殿に住んでいるんだ」
「宮殿に!?」
す、凄い!
流石はウエスト、優遇ギフトの『剣聖』を授かっただけのことはある。
さぞいい暮らしを送っているのだろう。
「ああ、宮殿の暮らしはいいぞ? 毎日、温かいお湯で身体を拭くこともできるし、食事は贅を尽くしたものが多い。最近、俺が食べた物の中で一番美味しかった物を教えてやろうか?」
別に好んで聞こうとは思わないけど……。
僕はとりあえず相槌を打つ。
「えっ、うん……それじゃあ、教えて貰おうかな?」
「ああ、それはな……黒パンだよ……」
く、黒パン!?
あの孤児院で生活していた時に食べていたパサパサのっ?
き、聞き間違いだろうか?
「……しかも、厚切りにした黒パンだ。それに焼いて食べると絶品……お前にも食べさせてやりたいくらいだぜ!」
ええっ!
あの厚切りの黒パンを焼きたてでっ!?
た、確かに! 薄切りにして食べても、食べ応え十分なのに、焼いた時の香ばしさも加わるとなると、その味は絶品……。
た、食べてみたい……。
そんなことを思っていると、ナビさんが呆れたかのような顔文字を視界に文字を浮かべてくる。
<( ̄ω ̄;)エートォ…えっ? 本気でそんなことを思っているんですか? いまの話を聞いてそんなことを思うのは多分、ノース様だけですよ?>
ええっ?
ナビさんはウエストの話を聞いて美味しそうだと思わなかったの?
黒パンを厚切りにして焼いて食べる。
酸味のある黒パンに香ばしさが加われば美味しいこと間違いなしだ。
食べたくて、口の中から唾液が滲み出てくる。
<いえ、まったく思いません>
一刀両断である。
げ、解せない……。
ナビさんと脳内会話していると、ウエストが受付に視線を向けた。
「まあ黒パン談義はここまでにしておこう。今日はこれから用事があるからな……そうだ。お前、冒険者になったんだよな? 今度、お前のことをポーターとして雇ってやるよ。イーストとサウスを誘って一緒にダンジョンに行こうぜ。初級ダンジョン:スライムの洞窟で『蒼い宝石:ブルースライム』が採れるらしいしな」
「う、うん……」
どうやらウエストは、初級ダンジョン:スライムの洞窟の現状を知らないようだ。
「なんだよ。歯切れが悪いな……まあいい。それじゃあ、またな!」
そう言うと、ウエストは受付に向かった。
その瞬間、数人の冒険者が怨嗟の声を上げる。
どうやらウエスト、これから受付員のリンドウさんとデートに行くらしい。
僕はどうしようかな……。
この街にきて一週間。
まだこの街のことをなにも知らない。
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