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第二章 アベコベの街

第60話 『勇者』ブレイブ④

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「な、なななななっ! なんだこの化け物はぁぁぁぁ!?」

 目の前に突然現れたマキシマム・マッシュルーム・カイザーにビビるブレイブ。
 人として当然の反応である。
 そして、ナビさんも威張り散らしながら、僕の視界に文字を浮かべてきた。

 <ふふふっ、『キノコマスター』であるノース様と、『勇者』であるブレイブとの格の違いを見せつけるために出し惜しみなし全力全開で叩き潰させて頂きます!>

 体長差おおよそ、五十メートル……格の違いを見せつけるためとはいえ、あまりに大人気なさすぎるのではないだろうか?

 昆虫が人間と対峙するようなものだ。

「くっ、まさか本当にモンスターだったなんてね……。しかし、私は『勇者』! この勝負、受けてやろう!」

 いや、馬鹿か!
 体長五十メートルを超えるマキシマム・マッシュルーム・カイザーを前にして勝負を受けるなんて……ここはまず退却するべきだろう。
 それに、ブレイブはナビさんが改造したゴブリンにすら虚仮にされていた。
 どう考えても勝ち目はない。

 すると、ナビさんが調子に乗った文字を視界に浮かべてくる。

 <ふふふっ、ほんの少しだけはしゃぎ過ぎてしまった感はありますが、流石は『勇者』……。いいでしょう! ギフトポイントを追加し、更なる絶望を与えてさし上げましょう!>

 ナビさんはそう文字を浮かべると、追加で更なる文字を浮かべてきた。

 <それでは、ギフトポイント1010消費し、マッシュルーム・ソルジャー五十体と、マッシュルーム・エクスカリバー五十本、マニピュレイトタケ一本を作成します。よろしいですか?>

 キノコマスターの力を開放する時以外、そんなこと聞いてこないのにナビさんがそんな文字を浮かべてきた

 ここでノーを突きつけたらどうなるのだろうか?
 興味はあるが、この勝負とやらでブレイブに勝たれても困る。

 心の中で、イエスと呟くと、ブレイブを取り囲むようにしてマッシュルーム・エクスカリバーを手にしたマッシュルーム・ソルジャーが現れた。

「な、なにっ!?」

 周囲を囲むマッシュルーム・ソルジャーと、目の前のマキシマム・マッシュルーム・カイザー。
 どう考えてもブレイブに勝ち目はない。

 唖然とした表情を浮かべながらことの推移を見守っていると、ブレイブがマキシマム・マッシュルーム・カイザーに向かって走り出した。

「くっ! こんな所で、負ける訳にはいかないんだよぉぉぉぉ!」

 そう叫び声を上げると、ブレイブはマキシマム・マッシュルーム・カイザーに向かって跳躍し、手に持った剣で斬り付ける。

「や、やったかっ!?」

 攻撃が通ったことが相当嬉しかったのだろう。声がうわづいている。
 ブレイブが攻撃をした部分に視線を向けると、攻撃された部分がどんどん修復されていくのが見て取れた。

「な、なにっ!?」

 ブレイブが驚くのもよくわかる。
 なにせ、渾身の一撃を決めたかと思えば、一瞬にして傷が回復してしまったのだ。

 <ふっ……まだまだですね。この『勇者』。マキシマム・マッシュルーム・カイザー相手に本気で勝てるとでも思っていたのでしょうか?>

 い、言われてみればその通りだ。
 しかし、ブレイブにはまだ秘策があるように見える。
 苦境に立たされながらも、笑みを浮かべていた。

「ふ、ふふふっ! こんなに追い詰められたのは初めてだよ! いいだろう! 『勇者』の力を開放してやろうではないか!」

 ブレイブがそう言うと、ブレイブの身体が光り輝いていく。
 そんな力があるなら、なぜゴブリン相手に使わなかったのか問いたい。

「あはははっ! 『勇者』ギフトを開放することで、私の力は五倍となる! 人外の存在となったこの私に勝てるかな?」

 よくは分らないが、力が五倍になったらしい。
 しかし、それであのマキシマム・マッシュルーム・カイザーに勝てるのだろうか?

 そんなことを考えていると、『勇者』ブレイブがマキシマム・マッシュルーム・カイザーに向かって剣を振う。

「な、なにぃ!」

 しかし、ブレイブの斬撃はマキシマム・マッシュルーム・カイザーのマッシュルーム・イージスにより軽々と防がれてしまった。

 <まだまだですね>

 マキシマム・マッシュルーム・カイザーは、マッシュルーム・イージスでブレイブを上空に向かって弾いていく。

「ぐ、ぐおおおおっ!」

 マッシュルーム・イージスに弾かれたブレイブは叫び声を上げながら上空に打ち上げられていく。
 そして、マキシマム・マッシュルーム・カイザーがブレイブに照準を構えると、容赦なくマッシュルーム・エクスカリバーを振り下ろした。

「えっ!? ちょっと待ってっ! ブレイブさんを殺す気っ!?」

 <いえ、死なない程度にマッシュルーム・エクスカリバーを掠め気絶させるだけに留めます>

「えっ、あっ、そう……そ、それならいいのかな?」

 <はい。まったく問題ありません>

 マッシュルーム・エクスカリバーが『勇者』ブレイブの肩を掠めると、盛大な音と共にブレイブが吹っ飛んでいく。
 そのまま地面に激突すると、そこには人型の大きな穴が開いていた。

 ほ、本当に大丈夫だろうか?

「ぐぺっ……」

 <気絶したようですね。それでは、最後の仕上げです>

 ナビさんがそう視界に文字を浮かべると、マッシュルーム・ソルジャーが絶賛気絶中のブレイブに近付いていく。
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