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第二章 アベコベの街
第59話 『勇者』ブレイブ③
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「ぐああああっ!?」
「ブ、ブレイブさーん!」
ゴブリンの棍棒が左頬にクリーンヒットしたブレイブは「ぐああああっ」と言いながら横に倒れ込んだ。
だ、だから撤退しようと言ったのに!
やはり、ゴブリンは強い。ナビさんの浮かべた文字は正しかったようだ。
「ブ、ブレイブさん! だ、大丈夫ですか!?」
そう言うと、ブレイブは剣を杖代わりに立ち上がる。
「ぐっ、い、一体なにが……このゴブリン、変異種か?」
ブレイブの足が震えている……まるで産まれたてのバンビのようだ。
「逃げましょう。ブレイブさん!」
そう声を上げると、ブレイブが鋭い視線を向けてくる。
「ふ、ふざけるな! 私は『勇者』だぞ! いまのは偶々、いい棍棒をもらっただけだ!」
「い、いや、そんな、いまのは偶々、いいパンチをもらっただけだみたいな言い方をされても……」
ブレイブさんの頬にヒットしたのは棍棒ですよ?
しかし、僕一人逃げる訳にはいかない。
どうしようか逡巡していると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<ほう。ゴブリンの棍棒を受けてまだ立つことができますか……流石は勇者。ナビが改造したゴブリン相手にどの程度戦うことができるか見ものですね>
「えっ、それはどういう……?」
僕は視界に浮かべてきたナビさんの言葉を凝視しながらそう呟く。
ゴブリンに視線を向けると、頭にキノコが生えていた。
<……なんでもありません。いまのは見なかったことにして下さい>
ナビさんが明確な回答を避け、見なかったことにして下さいと文字を浮かべた。
とんでもない輩だ。
どうやらこのゴブリン。ナビさんがけしかけたらしい。
「うおぉぉぉぉ! この私がゴブリン如きに負ける訳がないんだよぉぉぉぉ!」
ナビさんが嗾けたであろう改造ゴブリンに対し、ブレイブが果敢に攻撃を仕掛けていく。
「ぐぺぇ!」
しかし、ナビさんが嗾けた改造ゴブリンの力は強く。逆に『勇者』ブレイブの身体に棍棒を喰らわせ蹂躙していく。
『勇者』であるブレイブがゴブリンの繰り出す棍棒攻撃に蹂躙されるさまを見ていることしかできないこの現状。僕は一体どうしたらいいのだろうか……。
すると、ナビさんがアドバイスという名の文字を視界に浮かべてくる。
<安心して下さい。ある程度、ボコボコにしたら開放します。最後は、マキシマム・マッシュルーム・カイザーの眼前まで持っていく予定ですので、それまで傍観していて下さい>
いや、鬼か!
改造ゴブリンにボコボコにされた後、マキシマム・マッシュルーム・カイザーの眼前に持って行くって……!
改造ゴブリンは、ある程度ボコボコにするとブレイブに唾を吐きかけ『もう二度とでしゃばるんじゃねーぞ』と言わんばかりに「ゴブッ」と呟くと森の中に帰っていく。
ゴブリンに唾を吐きかけられたブレイブに視線を向けると、呪詛のような言葉を呟いていた。
「ゴブリンぶっ殺す。ゴブリンぶっ殺す。ゴブリンぶっ殺す。ゴブリンぶっ殺す。ゴブリンぶっ殺す……」
なんだかよくわからないが、滅茶苦茶怖い。
もう帰りたい気持ちで一杯だ。
ゴブリンに対して呪詛の言葉を呟く『勇者』ブレイブ。
ひとしきり、呪詛の言葉を吐き終わるとブレイブは『ヒール』と呟き、身体の傷を癒していく。
<おお、ヒールですか>
「ヒール?」
ナビさんが視界に浮かべた言葉を反復する。
<はい。ヒールとは、魔力で身体を活性化させ、傷を癒したり、疲労を回復させるスキルです。その効果は強く、心の傷にまで影響を及ぼすと聞いたことがあります>
「心の傷……」
すると、ハートブレイクしてゴブリンに呪詛の言葉を吐きまくっていたのが嘘のように尊大な態度を取り戻す。
「……ふっ、どうやらあのゴブリン、真の力を発揮しようとした私を恐れ、逃げ出したようだね」
凄い。ヒールには、記憶を改竄する効果まであるようだ。
自分にとって都合のいいブレイブストーリーを並べ立てている。
「なにをボサボサしているんだい? さあ、あの建造物の下に向かうよ」
「あ、はい」
流石は『勇者』。とても勇ましいめげない男である。
キノコ・キャッスルにたどり着くまでの間、三回ほど改造ゴブリンと遭遇した。
しかし、ヒールがあるお陰か、どんなにボコボコにされてもまったくめげる様子はない。
「さあ、ようやく見えてきたね」
「え、ええっ、そうですね……」
『勇者』ブレイブの装備は度重なる改造ゴブリンとの遭遇によりボロボロだ。
こんな装備でキノコ・キャッスル……いや、マキシマム・マッシュルーム・カイザーに挑もうというのだろうか?
「これは……キノコかな?」
「ええ、そうみたいですね……」
キノコ・キャッスルは巨大なキノコ型の建物。
それ以上でもそれ以下でもない。
「ふ~ん。まあいいか。それでは、調査に移るとしよう……うん? なんだ?」
ブレイブがそう呟くと、地面が揺れていることに気付く。
「えっ? なにこれ……地震?」
すると、視界の端に小さく文字が浮かんでいることに気付く。
<ギフトポイント100を消費し、キノコマスター、レベル10の力を開放します>
どうやらナビさん。
本気でマキシマム・マッシュルーム・カイザーと戦わせたいらしい。
キノコ・キャッスルが、マキシマム・マッシュルーム・カイザーに変貌していく。
巨大なマキシマム・マッシュルーム・カイザーを目の前に苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「ブ、ブレイブさーん!」
ゴブリンの棍棒が左頬にクリーンヒットしたブレイブは「ぐああああっ」と言いながら横に倒れ込んだ。
だ、だから撤退しようと言ったのに!
やはり、ゴブリンは強い。ナビさんの浮かべた文字は正しかったようだ。
「ブ、ブレイブさん! だ、大丈夫ですか!?」
そう言うと、ブレイブは剣を杖代わりに立ち上がる。
「ぐっ、い、一体なにが……このゴブリン、変異種か?」
ブレイブの足が震えている……まるで産まれたてのバンビのようだ。
「逃げましょう。ブレイブさん!」
そう声を上げると、ブレイブが鋭い視線を向けてくる。
「ふ、ふざけるな! 私は『勇者』だぞ! いまのは偶々、いい棍棒をもらっただけだ!」
「い、いや、そんな、いまのは偶々、いいパンチをもらっただけだみたいな言い方をされても……」
ブレイブさんの頬にヒットしたのは棍棒ですよ?
しかし、僕一人逃げる訳にはいかない。
どうしようか逡巡していると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。
<ほう。ゴブリンの棍棒を受けてまだ立つことができますか……流石は勇者。ナビが改造したゴブリン相手にどの程度戦うことができるか見ものですね>
「えっ、それはどういう……?」
僕は視界に浮かべてきたナビさんの言葉を凝視しながらそう呟く。
ゴブリンに視線を向けると、頭にキノコが生えていた。
<……なんでもありません。いまのは見なかったことにして下さい>
ナビさんが明確な回答を避け、見なかったことにして下さいと文字を浮かべた。
とんでもない輩だ。
どうやらこのゴブリン。ナビさんがけしかけたらしい。
「うおぉぉぉぉ! この私がゴブリン如きに負ける訳がないんだよぉぉぉぉ!」
ナビさんが嗾けたであろう改造ゴブリンに対し、ブレイブが果敢に攻撃を仕掛けていく。
「ぐぺぇ!」
しかし、ナビさんが嗾けた改造ゴブリンの力は強く。逆に『勇者』ブレイブの身体に棍棒を喰らわせ蹂躙していく。
『勇者』であるブレイブがゴブリンの繰り出す棍棒攻撃に蹂躙されるさまを見ていることしかできないこの現状。僕は一体どうしたらいいのだろうか……。
すると、ナビさんがアドバイスという名の文字を視界に浮かべてくる。
<安心して下さい。ある程度、ボコボコにしたら開放します。最後は、マキシマム・マッシュルーム・カイザーの眼前まで持っていく予定ですので、それまで傍観していて下さい>
いや、鬼か!
改造ゴブリンにボコボコにされた後、マキシマム・マッシュルーム・カイザーの眼前に持って行くって……!
改造ゴブリンは、ある程度ボコボコにするとブレイブに唾を吐きかけ『もう二度とでしゃばるんじゃねーぞ』と言わんばかりに「ゴブッ」と呟くと森の中に帰っていく。
ゴブリンに唾を吐きかけられたブレイブに視線を向けると、呪詛のような言葉を呟いていた。
「ゴブリンぶっ殺す。ゴブリンぶっ殺す。ゴブリンぶっ殺す。ゴブリンぶっ殺す。ゴブリンぶっ殺す……」
なんだかよくわからないが、滅茶苦茶怖い。
もう帰りたい気持ちで一杯だ。
ゴブリンに対して呪詛の言葉を呟く『勇者』ブレイブ。
ひとしきり、呪詛の言葉を吐き終わるとブレイブは『ヒール』と呟き、身体の傷を癒していく。
<おお、ヒールですか>
「ヒール?」
ナビさんが視界に浮かべた言葉を反復する。
<はい。ヒールとは、魔力で身体を活性化させ、傷を癒したり、疲労を回復させるスキルです。その効果は強く、心の傷にまで影響を及ぼすと聞いたことがあります>
「心の傷……」
すると、ハートブレイクしてゴブリンに呪詛の言葉を吐きまくっていたのが嘘のように尊大な態度を取り戻す。
「……ふっ、どうやらあのゴブリン、真の力を発揮しようとした私を恐れ、逃げ出したようだね」
凄い。ヒールには、記憶を改竄する効果まであるようだ。
自分にとって都合のいいブレイブストーリーを並べ立てている。
「なにをボサボサしているんだい? さあ、あの建造物の下に向かうよ」
「あ、はい」
流石は『勇者』。とても勇ましいめげない男である。
キノコ・キャッスルにたどり着くまでの間、三回ほど改造ゴブリンと遭遇した。
しかし、ヒールがあるお陰か、どんなにボコボコにされてもまったくめげる様子はない。
「さあ、ようやく見えてきたね」
「え、ええっ、そうですね……」
『勇者』ブレイブの装備は度重なる改造ゴブリンとの遭遇によりボロボロだ。
こんな装備でキノコ・キャッスル……いや、マキシマム・マッシュルーム・カイザーに挑もうというのだろうか?
「これは……キノコかな?」
「ええ、そうみたいですね……」
キノコ・キャッスルは巨大なキノコ型の建物。
それ以上でもそれ以下でもない。
「ふ~ん。まあいいか。それでは、調査に移るとしよう……うん? なんだ?」
ブレイブがそう呟くと、地面が揺れていることに気付く。
「えっ? なにこれ……地震?」
すると、視界の端に小さく文字が浮かんでいることに気付く。
<ギフトポイント100を消費し、キノコマスター、レベル10の力を開放します>
どうやらナビさん。
本気でマキシマム・マッシュルーム・カイザーと戦わせたいらしい。
キノコ・キャッスルが、マキシマム・マッシュルーム・カイザーに変貌していく。
巨大なマキシマム・マッシュルーム・カイザーを目の前に苦笑いを浮かべることしかできなかった。
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