上 下
55 / 121
第二章 アベコベの街

第55話 ぼったくられる奴隷商人②

しおりを挟む
「支払えばいいんだろ!」

 そう言って協会証を取り出すと、店主に向かって放り投げる。
 店主は私が放り投げた協会証を器用に受け取ると、やれやれと言わんばかりに首を振った。

「お客様。当店では、協会証でのお支払いは受け付けておりません。現金一括支払いか、価値のある現物でのお支払いでお願い致します」
「な、なにっ!? 協会証支払いができないだとっ!?」

 その協会証は商業協会の協会証だぞ?
 商いをしている以上、商業協会に属しているはずだ。
 なぜ商業協会に所属している店で協会証支払いができない!?

「はい。当店はニコニコ現金支払いをモットーに営業しております。協会証支払いですと、商業協会に数パーセントの手数料を支払わなくてはなりませんからね」
「そ、そんなの知ったことかぁぁぁぁ!」

 それは店側の問題だろう。
 折角、支払ってやると言っているのにこの野郎……。

 思わず眉間に青筋が浮かんでいく。

「そう言われましても困りますね。それでどう致しますか?」
「ぐぬぬぬぬっ……」 

 兵士がいる以上、ここから逃げることはまず不可能。金はあるのに、いま手元にないからといって兵士に捕まるのも困る。
 なにより私には時間がないのだ。
 納品期日も決まっている。
 はやく『蒼い宝石:ブルースライム』を手に入れ隣国に戻らなければならないのだ。

 私が唸っていると、店主が手をついた。

「もしかして、商業協会に行けば金はあるのにとお考えですか?」
「ああ、もちろんだ……」
「そうでしたか、それならはやく言ってくださればよかったのに……」

 うん?
 なんだ。協会証での支払いができるのか?

「よくいらっしゃるんですよね。現金を持ち歩かず商業協会にお金を預けている方……そんな方のために当店では、両替サービスを行なっております。両替金額の十パーセントを手数料として頂きますが、いかが致しますか?」

 いかが致しますかもなにも、そもそも選択肢がないだろうがぁぁぁぁ!

「ぐぬぬぬぬっ……それでいい。さっさとしてくれ……」
「はい。かしこまりました。それでは一千万コルに手数料の十パーセントを上乗せした一千百万コルを引かせて頂きますね」

 店主はそう言うと、協会証を専用の機械に乗せ、協会証から一千百万コルを差し引いていく。
 そして、その協会証を私に返すと笑顔を浮かべた。

「ご宿泊頂きありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
「こんな宿もう二度と来るかっ!! おい。お前達! すぐにダンジョンに向かうぞ! 兵士共そこを退け!」

 まさか、たった一泊しただけで一千百万コルもの大金が飛んでいくとは思いもしなかった。
 ぐっ……あまりにも痛い損失だ。

 私は苦渋に満ちた表情を浮かべると、馬車に乗り込んだ。

「御者! ダンジョンに向かってくれ!」
「は、はい!」

 私が御者に声をかけると、御者は初級ダンジョン、スライムの洞窟に向かって馬車を走らせる。

 一千百万コルの出費はかなり痛かった。
 しかし、終わってしまったことは仕方がない。
 いまは『蒼い宝石:ブルースライム』をドロップすると言われているキングスライムを倒すことだけに集中しよう。

 といっても、キングスライムを倒すのは護衛達だが……。

 チラリと荷台に視線を向けると、荷台では護衛達がキングスライムを倒すための準備をしていた。頼もしい限りである。

 キングスライムは初級ダンジョン、スライムの洞窟の地下三階層にいるらしい。
 どの位の量のブルースライムをドロップするのかはわからないが、できれば一度で十キログラムの量を確保したいものだ。

 そうこうしている内に、初級ダンジョン、スライムの洞窟が見えてきた。

「よし。それでは、地下三階にいるキングスライムを倒しに行くぞ!」
「「「はいっ!」」」

 御者にはスライムの洞窟前で待つように伝え、護衛三人と共にスライムの洞窟の中に入っていく。

「ふむ。スライムが出てこないな……」
「はい。そのようですね……」

 ここはダンジョン。
 しかもスライムの洞窟と呼ばれるダンジョンだ。
 まだ地下一階層だとはいえ、モンスターが出てこないのはおかしい。

「まあ、その方が体力を温存できるし、良いことではあるのだが……」

 なんだか非常に嫌な予感がする。
 ここは初級ダンジョン……もしや、他の冒険者がダンジョンを攻略しているなんてことは……!?

 いや……『蒼い宝石:ブルースライム』が取れなくなってしまったいま、初級ダンジョンに旨みはないはずだ。

「とりあえず、先を急ごう……」
「「「はい」」」

 護衛に護られながら、地下二階層を進むもモンスターは一向に出てこない。
 そして、キングスライムのいる地下三階層。

「どうやらここで行き止まりのようですね……」
「いや、行き止まりのようですねじゃないだろうがっ! キングスライムはどうした! キングスライムがいなくてはブルースライムを手に入れることができないではないかっ!」

 護衛一人の胸ぐらを掴むと、鼻息荒く大きな声を上げる。

「ど、どうやら、誰かに先を越されてしまったみたいです……」
「ふ、ふざけるなぁぁぁぁ! お前が『キングスライムは逃げませんし、スライムの洞窟に再挑戦するのは、宿を取ってからに致しませんか?』と言うから後回しにしたんじゃないか! それを『どうやら、誰かに先を越されてしまったみたいです』だぁ!? どうするんだコレ! 次はいつキングスライムが出現する! 私のブルースライムはどうなるっ!」
「く、苦しい……落ち着いて下さい。スレイブ様っ……」
「私は落ち着いているわっ! それより、これからどうするかを聞いているんだよ!」

 私達が初級ダンジョン、スライムの洞窟に入って地下三階層に到着した時には既にキングスライムが討伐されていた。
 キングスライムからドロップする『蒼い宝石:ブルースライム』目当てでここまで来たというのに、完全に無駄足を踏んでしまった。

「キ、キングスライムは大凡、一日で復活します。キングスライムが復活するのはおそらく、明日……その頃にまたここを訪れましょう……」
「み、明日だとぉぉぉぉ! それまでどうする! どこに泊まるんだっ!」
「こ、今度は先に宿泊費を確認してから宿泊するように致しましょう……も、もうそれしか方法が……」
「ぐっ……くそぉぉぉぉ!」

 護衛を開放すると、私は一人スライムの洞窟で叫び声を上げた。
しおりを挟む
感想 371

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

姫軍師メイリーン戦記〜無実の罪を着せられた公女

水戸尚輝
ファンタジー
「お前を追放する!」無実の罪で断罪された公爵令嬢メイリーン。実は戦いに長けた彼女、「追放されるのは想定済み」と計画通りの反撃開始。慌てふためく追放する側の面々。用意周到すぎる主人公のファンタジー反逆記をお楽しみください。 【作品タイプ説明】 イライラ期間短く、スカッと早いタイプの短期作品です。主人公は先手必勝主義でバトルシーンは短めです。強い男性たちも出てきますが恋愛要素は薄めです。 【ご注意ください】 随時、(タイトル含め)手直ししていますので、作品の内容が(結構)変わることがあります。また、この作品は「小説家になろう」様「カクヨム」様でも掲載しています。最後まで閲覧ありがとうございますm(_ _)m

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する

清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。 たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。 神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。 悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。

護国の鳥

凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!! サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。 周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。 首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。 同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。 外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。 ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。 校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

辺境伯令嬢は婚約破棄されたようです

くまのこ
ファンタジー
身に覚えのない罪を着せられ、王子から婚約破棄された辺境伯令嬢は…… ※息抜きに書いてみたものです※ ※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています※

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

処理中です...