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第二章 アベコベの街
第55話 ぼったくられる奴隷商人②
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「支払えばいいんだろ!」
そう言って協会証を取り出すと、店主に向かって放り投げる。
店主は私が放り投げた協会証を器用に受け取ると、やれやれと言わんばかりに首を振った。
「お客様。当店では、協会証でのお支払いは受け付けておりません。現金一括支払いか、価値のある現物でのお支払いでお願い致します」
「な、なにっ!? 協会証支払いができないだとっ!?」
その協会証は商業協会の協会証だぞ?
商いをしている以上、商業協会に属しているはずだ。
なぜ商業協会に所属している店で協会証支払いができない!?
「はい。当店はニコニコ現金支払いをモットーに営業しております。協会証支払いですと、商業協会に数パーセントの手数料を支払わなくてはなりませんからね」
「そ、そんなの知ったことかぁぁぁぁ!」
それは店側の問題だろう。
折角、支払ってやると言っているのにこの野郎……。
思わず眉間に青筋が浮かんでいく。
「そう言われましても困りますね。それでどう致しますか?」
「ぐぬぬぬぬっ……」
兵士がいる以上、ここから逃げることはまず不可能。金はあるのに、いま手元にないからといって兵士に捕まるのも困る。
なにより私には時間がないのだ。
納品期日も決まっている。
はやく『蒼い宝石:ブルースライム』を手に入れ隣国に戻らなければならないのだ。
私が唸っていると、店主が手をついた。
「もしかして、商業協会に行けば金はあるのにとお考えですか?」
「ああ、もちろんだ……」
「そうでしたか、それならはやく言ってくださればよかったのに……」
うん?
なんだ。協会証での支払いができるのか?
「よくいらっしゃるんですよね。現金を持ち歩かず商業協会にお金を預けている方……そんな方のために当店では、両替サービスを行なっております。両替金額の十パーセントを手数料として頂きますが、いかが致しますか?」
いかが致しますかもなにも、そもそも選択肢がないだろうがぁぁぁぁ!
「ぐぬぬぬぬっ……それでいい。さっさとしてくれ……」
「はい。かしこまりました。それでは一千万コルに手数料の十パーセントを上乗せした一千百万コルを引かせて頂きますね」
店主はそう言うと、協会証を専用の機械に乗せ、協会証から一千百万コルを差し引いていく。
そして、その協会証を私に返すと笑顔を浮かべた。
「ご宿泊頂きありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
「こんな宿もう二度と来るかっ!! おい。お前達! すぐにダンジョンに向かうぞ! 兵士共そこを退け!」
まさか、たった一泊しただけで一千百万コルもの大金が飛んでいくとは思いもしなかった。
ぐっ……あまりにも痛い損失だ。
私は苦渋に満ちた表情を浮かべると、馬車に乗り込んだ。
「御者! ダンジョンに向かってくれ!」
「は、はい!」
私が御者に声をかけると、御者は初級ダンジョン、スライムの洞窟に向かって馬車を走らせる。
一千百万コルの出費はかなり痛かった。
しかし、終わってしまったことは仕方がない。
いまは『蒼い宝石:ブルースライム』をドロップすると言われているキングスライムを倒すことだけに集中しよう。
といっても、キングスライムを倒すのは護衛達だが……。
チラリと荷台に視線を向けると、荷台では護衛達がキングスライムを倒すための準備をしていた。頼もしい限りである。
キングスライムは初級ダンジョン、スライムの洞窟の地下三階層にいるらしい。
どの位の量のブルースライムをドロップするのかはわからないが、できれば一度で十キログラムの量を確保したいものだ。
そうこうしている内に、初級ダンジョン、スライムの洞窟が見えてきた。
「よし。それでは、地下三階にいるキングスライムを倒しに行くぞ!」
「「「はいっ!」」」
御者にはスライムの洞窟前で待つように伝え、護衛三人と共にスライムの洞窟の中に入っていく。
「ふむ。スライムが出てこないな……」
「はい。そのようですね……」
ここはダンジョン。
しかもスライムの洞窟と呼ばれるダンジョンだ。
まだ地下一階層だとはいえ、モンスターが出てこないのはおかしい。
「まあ、その方が体力を温存できるし、良いことではあるのだが……」
なんだか非常に嫌な予感がする。
ここは初級ダンジョン……もしや、他の冒険者がダンジョンを攻略しているなんてことは……!?
いや……『蒼い宝石:ブルースライム』が取れなくなってしまったいま、初級ダンジョンに旨みはないはずだ。
「とりあえず、先を急ごう……」
「「「はい」」」
護衛に護られながら、地下二階層を進むもモンスターは一向に出てこない。
そして、キングスライムのいる地下三階層。
「どうやらここで行き止まりのようですね……」
「いや、行き止まりのようですねじゃないだろうがっ! キングスライムはどうした! キングスライムがいなくてはブルースライムを手に入れることができないではないかっ!」
護衛一人の胸ぐらを掴むと、鼻息荒く大きな声を上げる。
「ど、どうやら、誰かに先を越されてしまったみたいです……」
「ふ、ふざけるなぁぁぁぁ! お前が『キングスライムは逃げませんし、スライムの洞窟に再挑戦するのは、宿を取ってからに致しませんか?』と言うから後回しにしたんじゃないか! それを『どうやら、誰かに先を越されてしまったみたいです』だぁ!? どうするんだコレ! 次はいつキングスライムが出現する! 私のブルースライムはどうなるっ!」
「く、苦しい……落ち着いて下さい。スレイブ様っ……」
「私は落ち着いているわっ! それより、これからどうするかを聞いているんだよ!」
私達が初級ダンジョン、スライムの洞窟に入って地下三階層に到着した時には既にキングスライムが討伐されていた。
キングスライムからドロップする『蒼い宝石:ブルースライム』目当てでここまで来たというのに、完全に無駄足を踏んでしまった。
「キ、キングスライムは大凡、一日で復活します。キングスライムが復活するのはおそらく、明日……その頃にまたここを訪れましょう……」
「み、明日だとぉぉぉぉ! それまでどうする! どこに泊まるんだっ!」
「こ、今度は先に宿泊費を確認してから宿泊するように致しましょう……も、もうそれしか方法が……」
「ぐっ……くそぉぉぉぉ!」
護衛を開放すると、私は一人スライムの洞窟で叫び声を上げた。
そう言って協会証を取り出すと、店主に向かって放り投げる。
店主は私が放り投げた協会証を器用に受け取ると、やれやれと言わんばかりに首を振った。
「お客様。当店では、協会証でのお支払いは受け付けておりません。現金一括支払いか、価値のある現物でのお支払いでお願い致します」
「な、なにっ!? 協会証支払いができないだとっ!?」
その協会証は商業協会の協会証だぞ?
商いをしている以上、商業協会に属しているはずだ。
なぜ商業協会に所属している店で協会証支払いができない!?
「はい。当店はニコニコ現金支払いをモットーに営業しております。協会証支払いですと、商業協会に数パーセントの手数料を支払わなくてはなりませんからね」
「そ、そんなの知ったことかぁぁぁぁ!」
それは店側の問題だろう。
折角、支払ってやると言っているのにこの野郎……。
思わず眉間に青筋が浮かんでいく。
「そう言われましても困りますね。それでどう致しますか?」
「ぐぬぬぬぬっ……」
兵士がいる以上、ここから逃げることはまず不可能。金はあるのに、いま手元にないからといって兵士に捕まるのも困る。
なにより私には時間がないのだ。
納品期日も決まっている。
はやく『蒼い宝石:ブルースライム』を手に入れ隣国に戻らなければならないのだ。
私が唸っていると、店主が手をついた。
「もしかして、商業協会に行けば金はあるのにとお考えですか?」
「ああ、もちろんだ……」
「そうでしたか、それならはやく言ってくださればよかったのに……」
うん?
なんだ。協会証での支払いができるのか?
「よくいらっしゃるんですよね。現金を持ち歩かず商業協会にお金を預けている方……そんな方のために当店では、両替サービスを行なっております。両替金額の十パーセントを手数料として頂きますが、いかが致しますか?」
いかが致しますかもなにも、そもそも選択肢がないだろうがぁぁぁぁ!
「ぐぬぬぬぬっ……それでいい。さっさとしてくれ……」
「はい。かしこまりました。それでは一千万コルに手数料の十パーセントを上乗せした一千百万コルを引かせて頂きますね」
店主はそう言うと、協会証を専用の機械に乗せ、協会証から一千百万コルを差し引いていく。
そして、その協会証を私に返すと笑顔を浮かべた。
「ご宿泊頂きありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
「こんな宿もう二度と来るかっ!! おい。お前達! すぐにダンジョンに向かうぞ! 兵士共そこを退け!」
まさか、たった一泊しただけで一千百万コルもの大金が飛んでいくとは思いもしなかった。
ぐっ……あまりにも痛い損失だ。
私は苦渋に満ちた表情を浮かべると、馬車に乗り込んだ。
「御者! ダンジョンに向かってくれ!」
「は、はい!」
私が御者に声をかけると、御者は初級ダンジョン、スライムの洞窟に向かって馬車を走らせる。
一千百万コルの出費はかなり痛かった。
しかし、終わってしまったことは仕方がない。
いまは『蒼い宝石:ブルースライム』をドロップすると言われているキングスライムを倒すことだけに集中しよう。
といっても、キングスライムを倒すのは護衛達だが……。
チラリと荷台に視線を向けると、荷台では護衛達がキングスライムを倒すための準備をしていた。頼もしい限りである。
キングスライムは初級ダンジョン、スライムの洞窟の地下三階層にいるらしい。
どの位の量のブルースライムをドロップするのかはわからないが、できれば一度で十キログラムの量を確保したいものだ。
そうこうしている内に、初級ダンジョン、スライムの洞窟が見えてきた。
「よし。それでは、地下三階にいるキングスライムを倒しに行くぞ!」
「「「はいっ!」」」
御者にはスライムの洞窟前で待つように伝え、護衛三人と共にスライムの洞窟の中に入っていく。
「ふむ。スライムが出てこないな……」
「はい。そのようですね……」
ここはダンジョン。
しかもスライムの洞窟と呼ばれるダンジョンだ。
まだ地下一階層だとはいえ、モンスターが出てこないのはおかしい。
「まあ、その方が体力を温存できるし、良いことではあるのだが……」
なんだか非常に嫌な予感がする。
ここは初級ダンジョン……もしや、他の冒険者がダンジョンを攻略しているなんてことは……!?
いや……『蒼い宝石:ブルースライム』が取れなくなってしまったいま、初級ダンジョンに旨みはないはずだ。
「とりあえず、先を急ごう……」
「「「はい」」」
護衛に護られながら、地下二階層を進むもモンスターは一向に出てこない。
そして、キングスライムのいる地下三階層。
「どうやらここで行き止まりのようですね……」
「いや、行き止まりのようですねじゃないだろうがっ! キングスライムはどうした! キングスライムがいなくてはブルースライムを手に入れることができないではないかっ!」
護衛一人の胸ぐらを掴むと、鼻息荒く大きな声を上げる。
「ど、どうやら、誰かに先を越されてしまったみたいです……」
「ふ、ふざけるなぁぁぁぁ! お前が『キングスライムは逃げませんし、スライムの洞窟に再挑戦するのは、宿を取ってからに致しませんか?』と言うから後回しにしたんじゃないか! それを『どうやら、誰かに先を越されてしまったみたいです』だぁ!? どうするんだコレ! 次はいつキングスライムが出現する! 私のブルースライムはどうなるっ!」
「く、苦しい……落ち着いて下さい。スレイブ様っ……」
「私は落ち着いているわっ! それより、これからどうするかを聞いているんだよ!」
私達が初級ダンジョン、スライムの洞窟に入って地下三階層に到着した時には既にキングスライムが討伐されていた。
キングスライムからドロップする『蒼い宝石:ブルースライム』目当てでここまで来たというのに、完全に無駄足を踏んでしまった。
「キ、キングスライムは大凡、一日で復活します。キングスライムが復活するのはおそらく、明日……その頃にまたここを訪れましょう……」
「み、明日だとぉぉぉぉ! それまでどうする! どこに泊まるんだっ!」
「こ、今度は先に宿泊費を確認してから宿泊するように致しましょう……も、もうそれしか方法が……」
「ぐっ……くそぉぉぉぉ!」
護衛を開放すると、私は一人スライムの洞窟で叫び声を上げた。
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