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第二章 アベコベの街

第37話 一度上げた生活水準は戻せない

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 蒼の洞窟と呼ばれていた幻想的な初級ダンジョン、スライムの洞窟。
 一階層だけとはいえ、蒼い宝石:ブルースライムを手に入れるため、マッシュルーム・エクスカリバーでガリガリ壁を削った結果、洞窟内の様相はかなり変わっていた。

「ど、洞窟内の壁を結構削っちゃたけど、一階層だけだし……冒険者協会も回収を推奨していたし、だ、大丈夫だよね?」

 なんだか怖くなってきた。
 というより、蒼い宝石:ブルースライムを壁から削る作業に集中していて、こんなことになっているなんて全然気付かなかった。
 まさか蒼の洞窟がただの洞窟に変ってしまうとは……。

 <まあ、問題ないでしょう。しかし、これだけ多くのブルースライムを冒険者協会に渡したら大変なことになるかもしれません。とりあえず、少量を冒険者協会に引き取ってもらい様子を見ることにしましょう>

「う、うん。そうだね」

 よく考えたら、ここはダンジョン。
 ダンジョンに入る目的はモンスターを倒すことにある。
 ダンジョンに入るためには冒険者協会に登録しなければならないし、蒼の洞窟の幻想的な空間を見学しに、わざわざダンジョンに潜る人もいないだろう。

 ま、まあ一階層で蒼い宝石:ブルースライムを採取することはできなくなってしまったけど、二階層のエメラルドスライムには手を付けていないし、一階層でもその内、ブルースライムが採れるようになるはずだ。

 自分に言い聞かせるようにそんなことを考えていると、ナビさんがさっさと外に出ようと提案してきた。

 <今日はここまでにして、冒険者協会から貰った家に向かいましょう。実はナビ、どんな内装の家を貰ったのか気になっているのです>

「そういえば、そうだったね」

 冒険者協会から貰った家。
 確かにどんな家なのか楽しみだ。

「それじゃあ、早速、向かってみようか!」

 初級ダンジョン、スライムの洞窟を出ると、地図を片手にあてがわれた家に向かっていく。

「う~ん。この辺りにあるはずなんだけど……」

 辺りを見渡すと、多くの家が建っている。
 どの家も同じような外観でどの家があてがわれたのかわかりにくい。

 <もしかして、あれ(↓)じゃないですか?>

「うん? どの家?」

 ナビさんが浮かべた矢印の方向に視線を向ける。
 地図と照らし合わせて見ると、どうやらあの家が僕にあてがわれた家らしい。。

「ナビさん。見つけてくれてありがとう」

 ナビさんにお礼を言うと、鍵穴に鍵を挿し、家の中に入っていく。
 家の中に入ると、早速、家の中の探索することにした。

 家の中は外から見ただけではわからないくらい広く。清潔感がある。
 すぐに生活を始められるように家具も揃っていた。

 <中々、広い間取りの家ですね>

「うん。そうだね。でも……」

 この家には風呂がない。トイレも汲み取り式だ。

 <はい。キノコ・ハウスやキャッスルと違い、風呂はないようですね。トイレも前時代的な汲み取り式のもの……ノース様。ここで生活できそうですか?>

「ち、ちょっと無理かも……」

 一度、キノコ・ハウスやキノコ・キャッスルで生活してしまうと、以前の暮らしに戻ることは中々、難しい。
 トイレの匂いも凄いし、お風呂も毎日入っていたから、水で身体を拭くのはちょっと……。

「ど、どうしよう……ここにキノコ・ハウスとか作っちゃダメかな?」

 キノコ・ハウスであれば、衛生設備が整っている。
 せめて、お風呂やトイレだけでもキノコ・ハウス、キャッスルのものを使いたい。

 <それは流石にまずいでしょう。そうですね……それでは、こうしましょう。折角、領主様の厚意で頂いた家を返すというのはあまりに失礼なことです。そのため、この家はありがたく頂き、この家を『空間転移』するための拠点と致しましょう>

「『空間転移』?」

 <はい。ノース様の持つスキル『空間転移』はハッキリ言ってチートなスキルです。他の人間に使用している場面を見られると、少々、厄介なことになるかもしれません。そのため、この家をキノコ・キャッスルに転移するための隠れ蓑に使いましょう>

 なるほど、実際にこの家に住むのではなく。この家を『空間転移』でキノコ・キャッスルに戻るための拠点に……。
 いいんじゃないだろうか。

 一度上げた生活水準を下げるのは難しい。
 水洗トイレにシャワーを知ってしまったいま、汲み取り式のトイレを使うのも、布を水に浸し身体を拭くだけではもう満足することができないのだ。

「それじゃあ、今日のところはキノコ・キャッスルに戻ろうか」

 <そうですね。冒険者協会で協会証を発行して貰ったことですし、初級ダンジョンで蒼い宝石:ブルースライムを大量に採取することもできました。それではキノコ・キャッスルに戻るとしましょう>

 ナビさんが視界に文字を浮かべると、空間に亀裂が走っていく。
 亀裂の向こう側には、見慣れたキノコ・キャッスルの光景が広がっていた。

 これが『空間転移』……。一瞬にして離れた場所に移動することができるスキルか。
 確かに凄いスキルだ。

 <それでは、キノコ・キャッスルに戻りましょう>

「うん。そうしようか」

 そう呟くと、僕はキノコ・キャッスルに『空間転移』した。
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