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第一章 キノコマスター

第28話 マッシュルーム・フライングカーにはもう二度と乗りたくありません

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「う、ううっ……ぐすっ」

『あれあれ? ノース様? 一体どうしたんですか? もしかして昨日はやり過ぎましたかね?』

 ナビさんが視界にそんな言葉を並べると、僕は涙を浮かべながら大きな声を上げた。

「や、やり過ぎだよ!」

 どう考えてもやり過ぎだ。幼気な十歳の子供をマッシュルーム兵が寄ってたかってリンチするなんてあっていいはずがない。

 <いやですね~ノース様。あれはリンチではありません。チュートリアルです>

 どこの世界に十歳の子供に剣戟を放ち、魔法をぶつけてくるチュートリアルがあるのだろうか。どう考えても常軌を逸している。

 そんなチュートリアルある訳ないだろと叫びたい。

 <まあまあ、そんなに涙目になりながら大きな声を出さないで下さいよ~。折角、チュートリアルも終わって街に行く準備が整ったんですから(^^) 見て下さい。これがいまのノース様のステータスですよ>

 すると、視界の端にナビさんが計測した僕のステータスが表示された。

 <ステータス>
 名前:ノース
 性別:男
 年齢:10
 攻撃:400
 防御:1000
 素早さ:400
 賢さ:400
 魔力:400
 状態:普通
 ギフト:キノコマスター

 ディフェンスアップタケを毎食十本、二日間食べさせられた結果、防御力が著しく上昇していた。不味いディフェンスアップタケを毎食、食べさせられた甲斐があったというものだ。
 過酷なチュートリアルを行ったためか、他のステータスもかなり上昇している。

 <それじゃあ、早速、街に向かいましょう。ナビが街までナビゲートします>

 視界の端にナビさんがそう文字を表示させると、視界の端に次々と文字が並んでいく。

 <ギフトポイントを10消費し、マッシュルーム・ドライバーを作成しました>
 <ギフトポイントを100消費し、マッシュルーム・フライングカーを作成しました>

「ええっ!? こ、これは一体……!?」

 目の前に現れた四つの車輪と翼の付いた箱形の物体、新たに出現したマッシュルーム兵に驚きの表情を浮かべると、ナビさんが視界に文字を表示させてきた。

 <これは、キノコ界の乗り物。マッシュルーム・フライングカーとそれを運転するマッシュルーム・ドライバーです>

「マッシュルーム・フライングカーにマッシュルーム・ドライバー……」

 い、一体、なぜナビさんはマッシュルーム・フライングカーとマッシュルーム・ドライバーを召喚したのだろうか?

 <そんなこと、決まっているじゃありませんか。街に向かうためですよ>

「えっ? 街に向かうため?」

 <はい。その通りです。現状、ノース様の足の速さでは街にたどり着くまでかなりの時間を要してしまいます。というより、ノース様はここをどこだと思っているのですか? 森の最深部ですよ?>

「そ、そういえば、そうだった……」

 散々道に迷った挙句、ここに泊まることになったんだった。あまりに快適な環境だったから、そのことをすっかり忘れていた。

 <さあ、それではマッシュルーム・フライングカーに乗って下さい>

「えっ、これに乗るの?」

 ナビさんの指示に従いマッシュルーム・フライングカーに乗ると、シートベルトと呼ばれる謎の帯を肩にかけ身体を座席に固定する。
 するとマッシュルーム・ドライバーも一緒に乗り込み一番前の座席に座った。

 そして、前方にある掲示板のようなものに『行先:アベコベの街』と表示されると、突然、マッシュルーム・フライングカーが後ろに傾き出した。

「えっ、えっ? な、なに!? 一体なにが起こっているの? これからなにが起こるの!?」

 <嫌ですね~こんな森の中を普通の車が走れる訳がないじゃありませんか~。マッシュルーム・フライングカーは空飛ぶ車。アベコベの街近くまで、このマッシュルーム・フライングカーで向かいます>

 すると、マッシュルーム・フライングカーが大きく振動し、爆音を立てて急発進し始めた。

「そ、空飛ぶ車ってなに~! いやああああ!」

 空飛ぶ車、マッシュルーム・フライングカーが地面を離れると、急加速し、もの凄い重力が自分の身体を襲う。

「あわわわわっ……!? そ、空を……空を飛んでるっ!? ナビさん、この車空飛んでるっ! っていうか、車ってなにぃぃぃぃ!」

 なんで、この車? 空飛んでるのっ!?
 マッシュルーム・フライングカーってなにっ??
 ホント、なんでコレ飛んでるの!
 降ろしてぇぇぇぇ!

 <マッシュルーム・フライングカーはキノコ界の空飛ぶ馬車のようなものです。アベコベの街までの飛行時間は離陸後五分を予定しております。それでは、アベコベの街到着までの間、快適な空の旅をお楽しみ下さい>

「で、できるかぁぁぁぁ!」

 内蔵がふわっと浮くような浮遊感や、急降下する際の衝撃が僕の精神をガリガリと削っていく。
 マッシュルーム・フライングカーがアベコベの街近くに到着する頃には、僕はグッタリとした表情を浮かべていた。

 <あれ? 大丈夫ですかノース様? 生きてますか?>

「う、うん。ギリギリね……うっぷ……」

 マッシュルーム・フライングカー……とんでもない乗り物だ。
 できればもう二度と乗りたくない。
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