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第一章 キノコマスター
第23話 辺境の街アベコベ④
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「オーダー様のギフトは相変わらず恐ろしいですね」
私はエールをテーブルに置くと、名ばかり貴族君に視線を向ける。
「うん? なんのことだい? 名ばかり貴族君」
「オーダー様……名ばかり貴族君と呼ぶのはお止めください」
どうやら一律に『名ばかり貴族君』と呼ばれるのは嫌らしい。
これも私なりのユーモアだったのだが、中々、伝わらないものだ。
「ああ、そうだったね。君の名前、思い出したよ。アメリア君。まあ、いいじゃないか。いまは緊急事態。冒険者協会への土地や建物の代金は私が個人的に出資している。もちろん、この緊急事態が終わった後、冒険者協会で開催されるであろう馬鹿騒ぎ代もね。それで、君は他の名ばかり貴族君達と共にピンハネ君を連行していったと思っていたのだが、一体どうしたのかね?」
「一点お伝えしなければならないことを思い出し、戻って参りました」
「うん。それで?」
「はい。先日、孤児達が教会にやってきた際、『剣聖』ギフトを賜った孤児をスカウト致しました」
『剣聖』ギフト。
それは、剣士系と言われるギフトの最上位に位置するギフト。剣の道に優れ、奥義を極める者に与えられるギフトである。
「ああ、知っているよ。一度、冒険者協会の中で見たことがあるからね。しかし、流石は、フラナガン孤児院長が育てていただけのことはある。他の孤児達はどうかな? 彼女が育てた孤児であれば、素晴らしいギフトを持った子が多かったのではないかい?」
私は手を広げて喜びの声を上げた。
アメリア君はそんな私の喜びの表現を無視すると、懐から手帳を取り出し、パラパラとページを捲っていく。
「はい。今年は特に豊作で『魔法士』や『鍛冶士』など、素晴らしいギフトホルダーが多く見受けられました。ただ、一人の孤児が『キノコマスター』という聞いたことのないギフトを賜りまして……」
「『キノコマスター』? 聞いたことがないギフト名だね。気になるなあ。その孤児の名前はなんというのかな?」
私がそう問いかけると、アメリア君は困ったような表情を浮かべた。
まるで、この質問は想定外。手帳にメモを残していなくて回答したくても、名前がパッと思いつかない。そんな感じの表情だ。
ニヤニヤしながら眉間に皺を寄せているアメリア君の表情を伺っていると、アメリア君はゆっくりと目を開いた。
どうやら名前を思い出したようだ。
「……確か、ノースと呼ばれていたように思います」
「ふむ……謎のギフト『キノコマスター』を賜った孤児、ノースか……その孤児はスカウトしたのかい?」
「いえ、聞いたことのないギフト名でしたので……。しかし、孤児の多くは冒険者協会で働く者が多いと聞きます。近い内、冒険者協会に現れるのではないでしょうか」
ふむ。辺境伯であるこの私ですら知らないギフトか……興味深いな……。
「そうか、それではノースという孤児がこの街に現れたら、さり気なく私の下に誘導するようにしてくれたまえ」
そういうと、アメリア君は驚愕といった表情を浮かべ呟いた。
「オーダー様自らお会いになられるのですか!?」
「うん? なにか問題でもあるかい? この街において私の地位は平民だよ? 平民が孤児の少年と話をすることは問題かい?」
「い、いえ……決してそのようなことは……」
少し虐めすぎただろうか、なんだかアメリア君がシュンとしてしまった。
「そうだよね。それに、なにも私はその少年を取って食べようと思っている訳ではないよ」
「で、ではなぜ……なぜ、オーダー様自らお会いになろうと……」
「そんなことは決まっているだろう? 未知のギフトに興味があるからさ! もちろん、君のギフトにも興味があるよ。君の持つ『鑑定士』のギフトにもね……」
アメリア君が賜わったギフト『鑑定士』は、この世界のすべてのモノを鑑定することのできるギフトだ。
そのギフトは、人や物の価値、その者が賜わったギフトの詳細やステータスに至るすべてのことを鑑定することができる。
私が興味深いと思っているのは、この『鑑定士』というギフトが人の価値を鑑定することができるという点。
アメリア君がいうには、人の価値は時と場所、場合によっても変ってくるらしい。
ちなみに、私が辺境伯として自室に籠り仕事をしている時、興味本位で鑑定して貰った所、私の価値は十万リマだった。
辺境伯の私が書類仕事をしている時には、十万リマの価値しかないというのだ。
これには、随分と笑わせて貰った。
気になった私は、その後、ことあるごとにアメリア君を呼び出し、様々な場面で鑑定させてみることにした。
その結果、出来上がったのが、この『アベコベの街』だ。
アメリア君の鑑定によると、こうグータラとスローライフを送っている方が、価値が高いらしい。ちなみに、いまのグータラ生活を送っている時の私の価値は百億リマ。
最初は冗談かと思ったが、こうグータラ生活を送ってみると、気を張り詰めて仕事をしていた頃より、広い視野で物事を考えることができるようになった。
ギフトには無限の可能性がある。
だからこそ、私は会ってみたい。
未知のギフト『キノコマスター』なるものを賜わった少年に……。
私はエールをテーブルに置くと、名ばかり貴族君に視線を向ける。
「うん? なんのことだい? 名ばかり貴族君」
「オーダー様……名ばかり貴族君と呼ぶのはお止めください」
どうやら一律に『名ばかり貴族君』と呼ばれるのは嫌らしい。
これも私なりのユーモアだったのだが、中々、伝わらないものだ。
「ああ、そうだったね。君の名前、思い出したよ。アメリア君。まあ、いいじゃないか。いまは緊急事態。冒険者協会への土地や建物の代金は私が個人的に出資している。もちろん、この緊急事態が終わった後、冒険者協会で開催されるであろう馬鹿騒ぎ代もね。それで、君は他の名ばかり貴族君達と共にピンハネ君を連行していったと思っていたのだが、一体どうしたのかね?」
「一点お伝えしなければならないことを思い出し、戻って参りました」
「うん。それで?」
「はい。先日、孤児達が教会にやってきた際、『剣聖』ギフトを賜った孤児をスカウト致しました」
『剣聖』ギフト。
それは、剣士系と言われるギフトの最上位に位置するギフト。剣の道に優れ、奥義を極める者に与えられるギフトである。
「ああ、知っているよ。一度、冒険者協会の中で見たことがあるからね。しかし、流石は、フラナガン孤児院長が育てていただけのことはある。他の孤児達はどうかな? 彼女が育てた孤児であれば、素晴らしいギフトを持った子が多かったのではないかい?」
私は手を広げて喜びの声を上げた。
アメリア君はそんな私の喜びの表現を無視すると、懐から手帳を取り出し、パラパラとページを捲っていく。
「はい。今年は特に豊作で『魔法士』や『鍛冶士』など、素晴らしいギフトホルダーが多く見受けられました。ただ、一人の孤児が『キノコマスター』という聞いたことのないギフトを賜りまして……」
「『キノコマスター』? 聞いたことがないギフト名だね。気になるなあ。その孤児の名前はなんというのかな?」
私がそう問いかけると、アメリア君は困ったような表情を浮かべた。
まるで、この質問は想定外。手帳にメモを残していなくて回答したくても、名前がパッと思いつかない。そんな感じの表情だ。
ニヤニヤしながら眉間に皺を寄せているアメリア君の表情を伺っていると、アメリア君はゆっくりと目を開いた。
どうやら名前を思い出したようだ。
「……確か、ノースと呼ばれていたように思います」
「ふむ……謎のギフト『キノコマスター』を賜った孤児、ノースか……その孤児はスカウトしたのかい?」
「いえ、聞いたことのないギフト名でしたので……。しかし、孤児の多くは冒険者協会で働く者が多いと聞きます。近い内、冒険者協会に現れるのではないでしょうか」
ふむ。辺境伯であるこの私ですら知らないギフトか……興味深いな……。
「そうか、それではノースという孤児がこの街に現れたら、さり気なく私の下に誘導するようにしてくれたまえ」
そういうと、アメリア君は驚愕といった表情を浮かべ呟いた。
「オーダー様自らお会いになられるのですか!?」
「うん? なにか問題でもあるかい? この街において私の地位は平民だよ? 平民が孤児の少年と話をすることは問題かい?」
「い、いえ……決してそのようなことは……」
少し虐めすぎただろうか、なんだかアメリア君がシュンとしてしまった。
「そうだよね。それに、なにも私はその少年を取って食べようと思っている訳ではないよ」
「で、ではなぜ……なぜ、オーダー様自らお会いになろうと……」
「そんなことは決まっているだろう? 未知のギフトに興味があるからさ! もちろん、君のギフトにも興味があるよ。君の持つ『鑑定士』のギフトにもね……」
アメリア君が賜わったギフト『鑑定士』は、この世界のすべてのモノを鑑定することのできるギフトだ。
そのギフトは、人や物の価値、その者が賜わったギフトの詳細やステータスに至るすべてのことを鑑定することができる。
私が興味深いと思っているのは、この『鑑定士』というギフトが人の価値を鑑定することができるという点。
アメリア君がいうには、人の価値は時と場所、場合によっても変ってくるらしい。
ちなみに、私が辺境伯として自室に籠り仕事をしている時、興味本位で鑑定して貰った所、私の価値は十万リマだった。
辺境伯の私が書類仕事をしている時には、十万リマの価値しかないというのだ。
これには、随分と笑わせて貰った。
気になった私は、その後、ことあるごとにアメリア君を呼び出し、様々な場面で鑑定させてみることにした。
その結果、出来上がったのが、この『アベコベの街』だ。
アメリア君の鑑定によると、こうグータラとスローライフを送っている方が、価値が高いらしい。ちなみに、いまのグータラ生活を送っている時の私の価値は百億リマ。
最初は冗談かと思ったが、こうグータラ生活を送ってみると、気を張り詰めて仕事をしていた頃より、広い視野で物事を考えることができるようになった。
ギフトには無限の可能性がある。
だからこそ、私は会ってみたい。
未知のギフト『キノコマスター』なるものを賜わった少年に……。
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