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第一章 キノコマスター
第22話 辺境の街アベコベ③
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「オ、オーダー様っ!?」
「うん? 誰だい君は? 馴れ馴れしく私のファーストネームを呼ぶなんて……ああ、そうだ、そうだ。思い出したよ。確か君は、新たに上級貴族に叙勲予定のピンハネ君だったね。いや、おめでとう。これからの君の働きに期待しているよ」
「オ、オーダー様ぁ!?」
私がピンハネ君に激励をかけると、ピンハネ君は涙を浮かべながら手を伸ばしてくる。
「うん。うん。涙を流すほど、上級貴族に叙勲されることが嬉しかったのかい? それは良かった。私も君みたいな無法者を上級貴族という名の犯罪奴隷として縛ることができて、とても嬉しいよ。さて、ピンハネ君。君にはなにをして貰おうかなぁ? そうだ! ピンハネ君。ちょうど良かった。君にはあの建物が見えるかい?」
私はピンハネ君の手を払い代わりに首の付け根を掴むと、優しい口調で街の外に見える建物に向けて顔を向けさせた。
すると、ピンハネ君は怯えたかのような表情を浮かべる。
「あ、ああっ……み、見えます。見えますが、それは……それだけは……」
「う~ん。やっぱり君にも見えるか。ということは、私の見間違いではないようだね。実はあの建物、数日前に突然できたんだ。不思議だよね? 君も気になるよねぇ?」
「き、気になります。気になりますが……」
「そうか、そうか。それでは、君にあの建物の調査をお願いしようかな」
私がそうピンハネ君にいうと、それを咎めるように、名ばかり貴族の一人が声を上げた。
「オ、オーダー様っ! しかし、あの場所は……」
「うん? なんだい? なにか問題でも?」
「い、いえ、しかし、あの場所は隣国との国境沿いです。万が一があれば……それに、上級貴族一人で凶悪なモンスターひしめく森に入っては、この者の命が……どうかご再考願えませんでしょうか……」
この名ばかり貴族君の発言によりピンハネに希望の光が宿る。
「ふーむ。そうだね……確かに森の中は危険で一杯だ。しかし、彼はこの街の上級貴族だろう? ならば、この街のために……この街を管理する私のために働くのは当然のことだとは思わないかい?」
「し、しかし……」
「ふむ。どうやら誤解があるようだね。私はなにもピンハネ君に命令している訳じゃない。お願いをしているのさ……調査に行くか、行かないはピンハネ君の自主性に任せるよ……」
そういうと、私はピンハネ君の頭に手を乗せ、目を見ながら呟いた。
「それで? ピンハネ君の考えを教えてくれないかな?」
すると、ピンハネ君は身体中から大量の汗を吹き出し、震えながら答えた。
「……は、はい。私はこの街の上級貴族としての務めを果たしたいと、お、思います」
希望に沿った回答に、思わず私も笑顔となる。
「そうか、そうか。君ならそう言ってくれると思っていたよ。それじゃあ、後のことはよろしく頼むよ」
「は、はい。承知しました」
そういって、名ばかり貴族君とピンハネ君の肩を軽く叩くと、彼等を追い払い。私は深々と椅子に座り、森の中の建物に視線を向けた。
「このところ退屈な毎日が続いていたからね。辺境はこれだから面白い。おっと、そうだった。私の街にモンスターの大群が押し寄せているのだったね。もしかして、スタンピードかな?」
もしスタンピードであれば大変だ。
スタンピードとは、この世界におけるモンスターの集団暴走を指す言葉。
ピンハネ君が防壁工事費を中抜きし、コスト・オミッション商会が手抜き工事をしたお陰で、街を囲う防壁がうまく機能していない可能性もある。
「ふ~む。仕方がないな……これも、辺境を護る領主の勤めだと思って諦めよう」
そう呟くと、私は、私に与えられたギフト『領主』の力を使うことにした。
教会の神父様より授かったこのギフトは辺境伯として、この地を護る私にとって、とても都合のいいギフトだ。
その力は、この街に住む者を意のままに操るギフト。
私がタクトを右に振れば、この街に住む者達は右に、左に振れば左へと動かすことができる。
ここは、冒険者ギルドの諸君に働いて貰おう。
私が『領主』のギフトを使用すると目の前に透明なボードが現れた。
そのボードに、この辺り一帯の地図と領民。そして、街を襲撃しているモンスターを表示させていく。
「さて、ボードを見るに一番、モンスターの多そうな東口には、勇者ブレイブ君が向かってくれているようだね。西門にいる兵士諸君も奮闘してくれているようだ。しかし、いけないなぁ……北口と南口ががら空きじゃないか。仕方がない。冒険者諸君にはこの両方を護ってもらうとしよう」
本来冒険者ギルドに依頼をすれば、相応の金銭を要求される。
しかし、冒険者が自主的に手伝いをした場合は話は別だ。
あくまで自主的……。可哀相だ。危なそうだ。助けてあげよう。
冒険者達にそんな気持ちを植え付けていく。
もちろん、冒険者達の意識を奪い強制的に動かすこともできるが、基本的にそんなことはしない。
なぜなら、彼等も私の領地を……街を護る領民の一人なのだから……。
「ふふふっ、まあ、無茶して命を落としたら可哀相だからね。その時は、ちゃんと逃げるんだよ? 人が亡くなってしまうのは悲しいことだからね」
エール片手にそう呟くと、私は空を見上げた。
「うん? 誰だい君は? 馴れ馴れしく私のファーストネームを呼ぶなんて……ああ、そうだ、そうだ。思い出したよ。確か君は、新たに上級貴族に叙勲予定のピンハネ君だったね。いや、おめでとう。これからの君の働きに期待しているよ」
「オ、オーダー様ぁ!?」
私がピンハネ君に激励をかけると、ピンハネ君は涙を浮かべながら手を伸ばしてくる。
「うん。うん。涙を流すほど、上級貴族に叙勲されることが嬉しかったのかい? それは良かった。私も君みたいな無法者を上級貴族という名の犯罪奴隷として縛ることができて、とても嬉しいよ。さて、ピンハネ君。君にはなにをして貰おうかなぁ? そうだ! ピンハネ君。ちょうど良かった。君にはあの建物が見えるかい?」
私はピンハネ君の手を払い代わりに首の付け根を掴むと、優しい口調で街の外に見える建物に向けて顔を向けさせた。
すると、ピンハネ君は怯えたかのような表情を浮かべる。
「あ、ああっ……み、見えます。見えますが、それは……それだけは……」
「う~ん。やっぱり君にも見えるか。ということは、私の見間違いではないようだね。実はあの建物、数日前に突然できたんだ。不思議だよね? 君も気になるよねぇ?」
「き、気になります。気になりますが……」
「そうか、そうか。それでは、君にあの建物の調査をお願いしようかな」
私がそうピンハネ君にいうと、それを咎めるように、名ばかり貴族の一人が声を上げた。
「オ、オーダー様っ! しかし、あの場所は……」
「うん? なんだい? なにか問題でも?」
「い、いえ、しかし、あの場所は隣国との国境沿いです。万が一があれば……それに、上級貴族一人で凶悪なモンスターひしめく森に入っては、この者の命が……どうかご再考願えませんでしょうか……」
この名ばかり貴族君の発言によりピンハネに希望の光が宿る。
「ふーむ。そうだね……確かに森の中は危険で一杯だ。しかし、彼はこの街の上級貴族だろう? ならば、この街のために……この街を管理する私のために働くのは当然のことだとは思わないかい?」
「し、しかし……」
「ふむ。どうやら誤解があるようだね。私はなにもピンハネ君に命令している訳じゃない。お願いをしているのさ……調査に行くか、行かないはピンハネ君の自主性に任せるよ……」
そういうと、私はピンハネ君の頭に手を乗せ、目を見ながら呟いた。
「それで? ピンハネ君の考えを教えてくれないかな?」
すると、ピンハネ君は身体中から大量の汗を吹き出し、震えながら答えた。
「……は、はい。私はこの街の上級貴族としての務めを果たしたいと、お、思います」
希望に沿った回答に、思わず私も笑顔となる。
「そうか、そうか。君ならそう言ってくれると思っていたよ。それじゃあ、後のことはよろしく頼むよ」
「は、はい。承知しました」
そういって、名ばかり貴族君とピンハネ君の肩を軽く叩くと、彼等を追い払い。私は深々と椅子に座り、森の中の建物に視線を向けた。
「このところ退屈な毎日が続いていたからね。辺境はこれだから面白い。おっと、そうだった。私の街にモンスターの大群が押し寄せているのだったね。もしかして、スタンピードかな?」
もしスタンピードであれば大変だ。
スタンピードとは、この世界におけるモンスターの集団暴走を指す言葉。
ピンハネ君が防壁工事費を中抜きし、コスト・オミッション商会が手抜き工事をしたお陰で、街を囲う防壁がうまく機能していない可能性もある。
「ふ~む。仕方がないな……これも、辺境を護る領主の勤めだと思って諦めよう」
そう呟くと、私は、私に与えられたギフト『領主』の力を使うことにした。
教会の神父様より授かったこのギフトは辺境伯として、この地を護る私にとって、とても都合のいいギフトだ。
その力は、この街に住む者を意のままに操るギフト。
私がタクトを右に振れば、この街に住む者達は右に、左に振れば左へと動かすことができる。
ここは、冒険者ギルドの諸君に働いて貰おう。
私が『領主』のギフトを使用すると目の前に透明なボードが現れた。
そのボードに、この辺り一帯の地図と領民。そして、街を襲撃しているモンスターを表示させていく。
「さて、ボードを見るに一番、モンスターの多そうな東口には、勇者ブレイブ君が向かってくれているようだね。西門にいる兵士諸君も奮闘してくれているようだ。しかし、いけないなぁ……北口と南口ががら空きじゃないか。仕方がない。冒険者諸君にはこの両方を護ってもらうとしよう」
本来冒険者ギルドに依頼をすれば、相応の金銭を要求される。
しかし、冒険者が自主的に手伝いをした場合は話は別だ。
あくまで自主的……。可哀相だ。危なそうだ。助けてあげよう。
冒険者達にそんな気持ちを植え付けていく。
もちろん、冒険者達の意識を奪い強制的に動かすこともできるが、基本的にそんなことはしない。
なぜなら、彼等も私の領地を……街を護る領民の一人なのだから……。
「ふふふっ、まあ、無茶して命を落としたら可哀相だからね。その時は、ちゃんと逃げるんだよ? 人が亡くなってしまうのは悲しいことだからね」
エール片手にそう呟くと、私は空を見上げた。
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