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第一章 キノコマスター
第21話 辺境の街アベコベ②
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私がピンハネを捕えるよう命じて数十分。
名ばかり貴族の皆様が、新たに上級貴族(という名の犯罪奴隷)となる予定のピンハネ・シテマスを連れやってきた。
「おやおや、ピンハネ君。どうしたのかね……ちょっと見ない間に、随分と男前になったじゃないか」
見てみると所々、服が破け、顔に痣がある。
逃げようとして散々抵抗した挙句、捕らえられたのだろう。
素直に連行に応じないからそうなるのだ。「まったく……犯罪者風情が、名ばかり貴族様の手を煩わすんじゃない」と言ってやりたくなる。
「オーダー様、口に出ています」
「おお、そうか。それはすまなかったね。さて、ピンハネ君。君の弁解を聞こうか」
「…………」
私がそう言うと、ピンハネは黙ったまま俯いてしまう。
困った。これでは、ピンハネ君の口から出る戯言という名の弁解を聞くことができない。どんな言い訳をするのか結構楽しみにしていたのだが……。
そんなことを考えていると、名ばかり貴族の一人が私に書類を渡してくる。
「うん? これはなんだい?」
「はい。これは、ピンハネ様が防壁工事費用から中抜きした金額をまとめた資料です。手抜き業者のコスト・オミッション商会に関する情報も入っております」
「流石だね。早速、確認させて頂くとしよう」
できれば、ピンハネ君本人から弁解を聞きたかったが仕方がない。
資料をめくると、そこには防壁工事費、そしてピンハネが中抜きした金額が記載されていた。
「なになに……防壁工事費に五百億コル、中抜きした金額が五十億コル? ピンハネ君……君は街を守るための防壁工事費から十パーセントもの金額を中抜きしていたのかい?」
ため息ながらにそう呟くと、ピンハネがビクリと肩を震わせる。
「いけないなぁ……これはいけないことだよ。君も知っていることだろう? この私が治めるこの街でそんなことをした者がどうなるか……」
資料を読み進めていくと、ピンハネが連れてきた手抜き業者コスト・オミッション商会までもが、規格に適合しない安い材料を使用し、意図的に手を抜いて工事をしていたことが詳細に書かれていた。
「それにしても素晴らしいよ。よくここまで調べたね。ふ~む……ピンハネ君、このコスト・オミッション商会は君が外から連れてきた商会だったね……おや? この商会……君の先輩が経営する商会なのかい? そういえば、君は王都の魔法学園出身だったね。上下関係を大事にするのは構わないけど、この街を巻き込むのは頂けないな……」
「ち、違うのです。オーダー様! これには深い訳がございまして……」
私がそう呟くと、ピンハネは狼狽しだした。
どうやら私が望んでいた通り、ピンハネ君自身で弁解してくれるらしい。
愚劣で愚蒙で愚痴なピンハネ君が、どれほど非常識で荒唐無稽な弁解をしてくれるのかいまから楽しみだ。
「うん。いいよ、ピンハネ君。君の弁解を聞こうか。私の心は山より高く海より深いからね。それで、君はなんでこんな馬鹿な真似をしたんだい?」
私がそう言うと、ピンハネは土下座をし、頭を地面に擦り付けながら弁解を始める。
「ち、違うのです。私も被害者なのです!」
「被害者? 防壁工事費から十パーセントも中抜きをした君がかい?」
「は、はい。その通りです! 確かに私はコスト・オミッション商会の会長スロッピー様と親交があります。しかし、それは脅されてのこと……私の本意ではなかったのです!」
おお、ピンハネ君が涙を浮かべて弁解している。
素晴らしい。荒唐無稽という言葉がこれほど似合う者は中々いない。
名前もピンハネだし、まさに荒唐無稽の申し子。十パーセントの中抜きをするためだけに生まれてきた存在と見て間違いないだろう。
「うんうん。それで? なにが本意でなかったのか教えてくれないかい?」
私が優しく問いかけると、ピンハネ君はガバリと顔を上げた。
「は、はい! じ、実は……ぷげっ!?」
「じつはぷげっ? なんだいそれは?」
ピンハネ君が突然、頭を上げたので、私がピンハネ君の頭を足で優しく元の位置に戻してあげると、ピンハネ君が私の知らない言葉を呟いた。
「名ばかり貴族諸君、君達はピンハネ君のいう『じつはぷげっ』を知っているかい?」
「……いえ、存じあげません」
「ふむ。そうか……ああ、ピンハネ君、悪かったね。でも君がいけないんだよ? 急に頭を上げるから……」
しかし、ピンハネ君。中々、博識のようだ。
『じつはぷげっ』なんて言葉聞いたことがない。ぜひ、『じつはぷげっ』のことを教えてもらおう。
私が『じつはぷげっ』とはなんなのか問いかけるとピンハネ君は頭を地面に擦り付けたまま回答する。
「じ、じつはぷげっ、ですか!? い、いえ、私はそんな言葉を言った覚えが……」
「うん? そんな筈がないだろう。確かに聞いたと思ったんだが……ピンハネ君、君は私の聞き間違いだと……私の記憶違いであると、そう言うのかい?」
私も遂に若年性痴呆症を発症したか……と、残念がっていると、ピンハネ君が狼狽し出した。
「い、いえっ! 違うんです! 違うんです~!」
「うん? そういえば、私はなんで、犯罪者の言葉を聞こうと思ったんだろうなぁ? ああ、確かに君の言う通り記憶に障害があるようだ。いまとなっては、なぜ、君の弁解を聞こうと思ったのかすら思い出せないよ」
名ばかり貴族の皆様が、新たに上級貴族(という名の犯罪奴隷)となる予定のピンハネ・シテマスを連れやってきた。
「おやおや、ピンハネ君。どうしたのかね……ちょっと見ない間に、随分と男前になったじゃないか」
見てみると所々、服が破け、顔に痣がある。
逃げようとして散々抵抗した挙句、捕らえられたのだろう。
素直に連行に応じないからそうなるのだ。「まったく……犯罪者風情が、名ばかり貴族様の手を煩わすんじゃない」と言ってやりたくなる。
「オーダー様、口に出ています」
「おお、そうか。それはすまなかったね。さて、ピンハネ君。君の弁解を聞こうか」
「…………」
私がそう言うと、ピンハネは黙ったまま俯いてしまう。
困った。これでは、ピンハネ君の口から出る戯言という名の弁解を聞くことができない。どんな言い訳をするのか結構楽しみにしていたのだが……。
そんなことを考えていると、名ばかり貴族の一人が私に書類を渡してくる。
「うん? これはなんだい?」
「はい。これは、ピンハネ様が防壁工事費用から中抜きした金額をまとめた資料です。手抜き業者のコスト・オミッション商会に関する情報も入っております」
「流石だね。早速、確認させて頂くとしよう」
できれば、ピンハネ君本人から弁解を聞きたかったが仕方がない。
資料をめくると、そこには防壁工事費、そしてピンハネが中抜きした金額が記載されていた。
「なになに……防壁工事費に五百億コル、中抜きした金額が五十億コル? ピンハネ君……君は街を守るための防壁工事費から十パーセントもの金額を中抜きしていたのかい?」
ため息ながらにそう呟くと、ピンハネがビクリと肩を震わせる。
「いけないなぁ……これはいけないことだよ。君も知っていることだろう? この私が治めるこの街でそんなことをした者がどうなるか……」
資料を読み進めていくと、ピンハネが連れてきた手抜き業者コスト・オミッション商会までもが、規格に適合しない安い材料を使用し、意図的に手を抜いて工事をしていたことが詳細に書かれていた。
「それにしても素晴らしいよ。よくここまで調べたね。ふ~む……ピンハネ君、このコスト・オミッション商会は君が外から連れてきた商会だったね……おや? この商会……君の先輩が経営する商会なのかい? そういえば、君は王都の魔法学園出身だったね。上下関係を大事にするのは構わないけど、この街を巻き込むのは頂けないな……」
「ち、違うのです。オーダー様! これには深い訳がございまして……」
私がそう呟くと、ピンハネは狼狽しだした。
どうやら私が望んでいた通り、ピンハネ君自身で弁解してくれるらしい。
愚劣で愚蒙で愚痴なピンハネ君が、どれほど非常識で荒唐無稽な弁解をしてくれるのかいまから楽しみだ。
「うん。いいよ、ピンハネ君。君の弁解を聞こうか。私の心は山より高く海より深いからね。それで、君はなんでこんな馬鹿な真似をしたんだい?」
私がそう言うと、ピンハネは土下座をし、頭を地面に擦り付けながら弁解を始める。
「ち、違うのです。私も被害者なのです!」
「被害者? 防壁工事費から十パーセントも中抜きをした君がかい?」
「は、はい。その通りです! 確かに私はコスト・オミッション商会の会長スロッピー様と親交があります。しかし、それは脅されてのこと……私の本意ではなかったのです!」
おお、ピンハネ君が涙を浮かべて弁解している。
素晴らしい。荒唐無稽という言葉がこれほど似合う者は中々いない。
名前もピンハネだし、まさに荒唐無稽の申し子。十パーセントの中抜きをするためだけに生まれてきた存在と見て間違いないだろう。
「うんうん。それで? なにが本意でなかったのか教えてくれないかい?」
私が優しく問いかけると、ピンハネ君はガバリと顔を上げた。
「は、はい! じ、実は……ぷげっ!?」
「じつはぷげっ? なんだいそれは?」
ピンハネ君が突然、頭を上げたので、私がピンハネ君の頭を足で優しく元の位置に戻してあげると、ピンハネ君が私の知らない言葉を呟いた。
「名ばかり貴族諸君、君達はピンハネ君のいう『じつはぷげっ』を知っているかい?」
「……いえ、存じあげません」
「ふむ。そうか……ああ、ピンハネ君、悪かったね。でも君がいけないんだよ? 急に頭を上げるから……」
しかし、ピンハネ君。中々、博識のようだ。
『じつはぷげっ』なんて言葉聞いたことがない。ぜひ、『じつはぷげっ』のことを教えてもらおう。
私が『じつはぷげっ』とはなんなのか問いかけるとピンハネ君は頭を地面に擦り付けたまま回答する。
「じ、じつはぷげっ、ですか!? い、いえ、私はそんな言葉を言った覚えが……」
「うん? そんな筈がないだろう。確かに聞いたと思ったんだが……ピンハネ君、君は私の聞き間違いだと……私の記憶違いであると、そう言うのかい?」
私も遂に若年性痴呆症を発症したか……と、残念がっていると、ピンハネ君が狼狽し出した。
「い、いえっ! 違うんです! 違うんです~!」
「うん? そういえば、私はなんで、犯罪者の言葉を聞こうと思ったんだろうなぁ? ああ、確かに君の言う通り記憶に障害があるようだ。いまとなっては、なぜ、君の弁解を聞こうと思ったのかすら思い出せないよ」
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