上 下
5 / 121
第一章 キノコマスター

第5話 これはキノコですよね?いえ、それはメインディッシュです

しおりを挟む
「ふう~、気持ちよかった……」

 ユニットバスから出た僕は、クロウズ・マッシュルームに着替えると、気伸びをしながらそう呟いた。

 身体のスッキリ感が半端ではない。
 なにもかも、心まで洗われたかのような気分だ。

 <それでは、身体も綺麗になったことですし、食事にしましょう>

 すると、視界の端にそう表示された。
 お腹を擦ると、心なしかクーッという音が聞こえた気がする。

 流石はナビさんだ。
 僕の体調管理もバッチリである。

「うん。それじゃあ、そうしようかな」

 そう呟きながらテーブルの置いてある部屋に向かうと、ナビさんがテーブルに置かれたキノコの説明を始めた。

 <本日のお食事は、ミートキノコ一本に、フィッシュキノコ一本、サラダキノコ一本にお口直しのメイプルキノコが一本です。それぞれ、赤、青、緑、黄色のキノコがそれにあたります。では、どうぞ。生でお召し上がり下さい>

「ああ、やっぱりそこは生なんだっ……」

 まあ、食べることができるだけ、ありがたい話である。
 それぞれのキノコを口に運んでいくと、おおよそ、キノコとは思えない食感と味に僕は驚きの表情を浮かべた。

「こ、これは……もしかして、肉っ!?」

 <はい。いま食べたのはミートキノコ。特上ランクの肉に匹敵するキノコ界の霜降りキノコです>

「じ、じゃあ、このフィッシュキノコはっ!?」

 <はい。そのフィッシュキノコは、まるで魚のような味をしたキノコです>

「これが魚……」

 まるで塩焼きにしたかのような味が口の中一杯に広がってくる。

「じ、じゃあ、このキノコは?」

 <はい。そのサラダキノコは、シャキシャキした食感と、サッパリとした口当たりが特徴のキノコで、ビタミンAやビタミンC、ビタミンEを美味しく摂取することができます>

 たしかに、おおよそ、キノコとは思えないシャキシャキ感。
 ハッキリ言って意味が解らない。でも、とても美味しい。

 最後に……。

「あ、甘~い!!」

 <はい。それはメイプルキノコです。まるで砂糖や蜂蜜を濃縮したかのような甘味が特徴となっております。噛めば噛むほど、甘い味が口の中に広がるキノコ界の甘味料です>

 こんなに甘いものを食べたのは初めてだ。
 世間一般の人達はこんなにも美味しいものを毎日食べているのだろうか?

「そ、そういえば、なんでこの家は……」

 <キノコ・ハウスです>

「……このキノコ・ハウスは、なんでこんなに明るいの? 蝋燭とかないみたいだけど?」

 僕がそういうと、またしてもナビさんは呆れたかのような文字を浮かべた。

 <(*´Д`)=3ハァ…… ノース様は世間を知らないようですね……これが世間一般の普通。照明器具というものです。ナビの知る世間一般的な家庭では、蝋燭や灯篭なんて前時代的な物、照明として使っているところはありません>

「そ、そうなんだ……」

 それは知らなかった。
 孤児院では、蝋燭を光源としていたし、教会でもそうしているみたいだった。
 孤児院と世間一般との一般常識の乖離が激しい。

 知らないことは、ナビさんに確認するようにしよう。

「そういえば、ナビさんは、僕がいまどこにいるかわかる?」

 <キノコ・ハウスの中です。それがどうか致しましたか?>

「い、いや、そういうんじゃなくて……僕、街に向かって森の中を歩いていたんだけど道に迷ってしまったようでね? 僕は早く冒険者になって自立した生活を送りたいんだ」

 <なるほど、しかし、冒険者になることと、自立した生活を送ることがどう繋がるのですか? いまも自立した生活を送っているように見えますが……>

 脱帽である。
 言われてみれば、その通りだ
 森の中に家を建て、ナビさんのいう世間一般の人達と同じような生活を送っている。

「で、でも、働かないと……無職っていうのも外聞が悪いし……」

 <いまの時代、『働くこと=外聞が良い』という式は成立しません。ノース様は、働くことをどのように考えているのですか? もしかして、働いていない人は社会不適合者であると、そんな見当違いなことを考えていたりしませんか?>

「い、いや、そこまで言ってないけど……」

 <では、どのように考えているのかお聞かせ下さい。世間一般で働くことの意味は、生活費を稼ぐことにあります。つまり、働く対価として給料を貰い生活をするのです。もちろん、中には、ギフトを磨いたり、ギフトを用いて社会貢献をすることに働く意味を見出している人もいます。そういった人達がいることを理解した上で、なぜ冒険者協会に加盟し、安い日当を貰って命懸けの仕事をするのか、教えて頂けますか?>

「い、いや、別に命を懸けて仕事をしたい訳じゃ……」

 <では、いまのままでも問題ないではありませんか? いま、ノース様がいる場所は、正確には辺境と呼ばれる国の境目にいます。ここに住んで生活を送ることは、国を守ることにも繋がります。もし、ノース様が『働くこと=社会貢献』と思うのであれば、これ以上の社会貢献はないと思うのですが、いかがでしょうか?>

 今日のナビさんはよく、文字を浮かべてくる……。

「っていうか、ここ国の境目なのっ!? それに、なんでここに住み生活を送ることが国を守ることに繋がるのさっ?」

 <そんなことは決まっています。ノース様のギフト『キノコマスター』にはそれだけの力があるからです。なんでしたら、明日。その力の一端をお見せしましょうか?>

「えっ? 力の一端??」

 <はい。ノース様の知らない『キノコマスター』の力、明日の正午、ギフトポイントが貯まり次第、お見せ致します>

 ナビさんは、視界の端にそう言葉を表示すると、言葉をきった。
しおりを挟む
感想 371

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...