上 下
2 / 121
第一章 キノコマスター

第2話 そこに生えているキノコを採取して下さい

しおりを挟む
「ま、迷った……」

 孤児院は思っていた以上に、田舎にあったようだ。
 教会に行った際、通ったけもの道を必死に思い出しながら歩いていると、いつの間にか森の奥底にたどり着いていた。

 ワオーン! ワンワンッ!

 耳を澄ませてみると、どこからともなく動物の鳴き声が聞こえてくる。
 周囲を見渡すと、森、森、森……森のことが怖すぎて森林恐怖症になりそうだ。

 いつの間にか辺りは暗くなり『ガサッ!』という音が鳴る度、ビクリと身体を震わせる。
 な、なんということでしょう。
 僕はいつの間にか、森の中に迷い込んでしまったらしい。
 おかしい……もしかして僕、方向音痴だったのだろうか?

 教会に向かった時のことを思い出し、案内標識に従って、道なりに真っ直ぐに進んだつもりだったんだけど……。

 そういえば、あの案内標識……なぜか、けもの道を指していたような……。
 いや、おかしいとは思っていた。
 なんで案内標識が森の方向を向いていたのかと……。

 いま思えば、なんとなく、なにかがぶつかったかのように傾いていたけど、案内標識さんが『街ある方向はこっちだよ?』と森の方向を示していたのだ。
 そんなの信じる他ないだろう。

 しかし……どうしたものか。
 辺りは真っ暗、もう時間的猶予は残されていない。
 ……仕方がない。今日のところは野宿するか。

 なに、問題はないはずだ。
 自慢じゃないが、僕は昔、ルームメイトとキャンプをしたことがある。
 こういう時はあれだ。
 まずは、食糧を調達しよう。
 森の中を彷徨っていたら、なんだかお腹が空いてきた。

 この不安な気持ちも、きっと空腹からくるものだ。
 絶対にそうだ。そうに決まっている。

「よしっ! やるぞっ!」

 僕は自分に対してそう奮い立たせると、早速、辺り周辺で食糧捜索を開始した。

 森の中には、様々な木の実や食べ物、薬草が生えている。
 辺りが暗くなる前に、周囲を捜索していると、地面に数本生えたキノコを発見した。

「えーっと、これは食べられるのかな?」

 キノコを前にそう呟くと、ピコンという音が頭の中に鳴り響く。
 すると、視界に文字が浮かび上がってきた。

 <チュートリアル:初めてのキノコ採集 ~キノコマスターへの道~>

「はっ?」

 突然、視界の端に表示された文字に素っ頓狂な声を上げると、視界の端に表示されていた文字が変化する。

 <まずは、そこに生えているキノコを採取して下さい>

「う、うん……」

 突然、視界の端に表示された文字に驚きつつも、その文字に従い、キノコを採取すると、視界の端に表示された文字が変化する。

 <それでは、パクリとキノコを頂きましょう>

 視界の端に表示された文字を尻目に、手に持ったキノコを見てみると、随分と毒々しい色合いをしていた。

 このキノコを生で食べろと言っているのだろうか?

「す、すいません。キノコを生で食べるのはちょっと……」

 僕がそう呟くと、視界の端に表示された文字が変化する。

 <生で食べないとチュートリアルは終りません。それでもよろしいですか?>

 なんだか、掲示板と会話をしているかのような気分だ。
 もしかして、僕のギフト『キノコマスター』には、ナビゲートのような……そのような機能が付いているというのだろうか?

 気になった僕は試しに質問を投げ掛けてみることにした。

「えっと、ナビさん? このキノコ、生で食べても大丈夫なものなんですか?」

 ナビゲートは生で食べろと言っている。
 しかし、普通、キノコを生で食べることなんてできない。
 酷い食当たりに見舞われること間違いなしだ。

 僕がそう質問すると、視界の端に表示された文字が変化する。

 <人間にとっては毒です。下痢、嘔吐、脱水症状に見舞われた挙句、神経系を汚染されて死に至ります>

 視界の端にそう表示された瞬間、僕は叫んだ。

「ダメじゃん!」

 どう考えてもダメじゃん!
 死んじゃうじゃん!
 そんなことわかりきっていたよ!

 目を閉じながら、顔を強張らせてそう叫ぶと、視界の端に表示された文字が変わっていく。

 <煩いな、まだ話の途中だっつーの。それは普通の人間がそのキノコを食べた場合の話だろうがよ! 最後まで話を聞けやコラ! なあ、おい。お前だよ、お前。キノコマスターのナビゲートシステムである私をなめとるんと違うか? ええ、コラ?>

「……なんだか、すいませんでした」

 ナビさん、なんだか怖い人?のようだ。
 いや、文字でしか怖い人?であるかどうかの判断しかできないんだけど……。

 僕がそう謝罪すると、ナビさんは更なる要求をしてきた。

 <なんだかって、なんや! それ謝ってるんとちゃうよな? もっと、誠心誠意謝らんかい!>

 ナビさん、ちょっと面倒くさい性格のようだ。しかし、僕は自立した大人?だ。

 僕は地面に両手を付けると、頭を地面に擦り付けながら土下座する。

 そして、大声を上げながら謝罪した。

「ナビ様、申し訳ございませんでしたっ!」

 僕が頭を擦り付けながらそう言うと、ナビ様の機嫌がすこぶる良く回復した。

 <謝罪を頂ければいいのです。ナビもそれ程、怒りを抱いておりません>

「そ、そうでしたか。申し訳ございません。それでナビ様。先程の話を詳しくご教示頂けるとありがたいのですが……」

 僕が下手に出ながらそう言うと、視界の端に表示された文字が変わっていく。

 <キノコマスターにキノコの毒は通じません。腹ごしらえになり、チュートリアルを終わらせギフトレベルを上げる大チャンスです。さあ、キノコを生で食べましょう>

 僕はゴクリと喉を鳴らすと、手に持ったキノコを凝視する。そして、汗を流すと、紫色と赤色に染まった笠の毒キノコにしか見えないキノコを口にした。
しおりを挟む
感想 371

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

セリオン共和国再興記 もしくは宇宙刑事が召喚されてしまったので・・・

今卓&
ファンタジー
地球での任務が終わった銀河連合所属の刑事二人は帰途の途中原因不明のワームホールに巻き込まれる、彼が気が付くと可住惑星上に居た。 その頃会議中の皇帝の元へ伯爵から使者が送られる、彼等は捕らえられ教会の地下へと送られた。 皇帝は日課の教会へ向かう途中でタイスと名乗る少女を”宮”へ招待するという、タイスは不安ながらも両親と周囲の反応から招待を断る事はできず”宮”へ向かう事となる。 刑事は離別したパートナーの捜索と惑星の調査の為、巡視艇から下船する事とした、そこで彼は4人の知性体を救出し獣人二人とエルフを連れてエルフの住む土地へ彼等を届ける旅にでる事となる。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...