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3巻

3-1

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  1 学園での愛弟子達


 俺、佐藤悠斗さとうゆうとはある日、突然出現した魔法陣によって不良二人と一緒に異世界に飛ばされた。
 転移先のマデイラ王国からは、隣国との戦争に備えて戦力になってほしいという依頼があったのだが……
 不良二人が強力なスキルとステータスを獲得する一方で、俺が手に入れたのは『影を操る』という微妙な力だった。
 そして薄々俺が役に立たないことを察した王国の人間によって、訓練中の迷宮で捨てられた俺は、密かに進化させていた自分の能力――『影魔法かげまほう』を駆使して、そのまま脱出。
 その後は、迷宮内で手に入れた『召喚しょうかん』スキルによって仲間になった、大天使のカマエルとロキという神様とともに、各地の迷宮をクリアしながら、国を転々とする日々が始まった。
 そんなある日、俺はフェロー王国という新天地へ向かう途中で、大商人のハメッドさんから、三人の孤児をたくされる。
 そして子供達をカマエルさんやロキさんと一緒に育てていたのだが、彼らは知らぬ間にこの世界の同年代の子よりはるかに高い能力値になっていた。
 目標であった魔法学園の入学試験も子供達は難なく突破。
 俺も子供達も順風満帆じゅんぷうまんぱんな日々を送るのだった。


 試験を終えて、一週間後の今日。
 俺達は、ティンドホルマー魔法学園に再び足を運んでいた。
 合格・不合格とは別に、一般の学生か特待生かのどちらで入学するかの発表を見るためである。
 掲示板の前では、既に人だかりができていた。
 早く結果を確認したそうにソワソワしている子供達に受験票を渡して、三人を送り出す。

「ケイ、フェイ、レイン。この番号が書いてあるところを見るんだよ」
「「「わかった! 行ってきます!」」」

 そして三人は仲良く掲示板の方へと駆け出して行った。
 数分も経たずに、フェイを先頭に子供達が戻ってくる。

「悠斗兄! 番号の下に特待生枠って書いてあったよ!」
「「私も!」」

 三人がキラキラした目で、俺を見上げてくる。
 まぁ、試験時の様子を見る限り、この三人に勝てる実力を持っていそうな子はいなかったし、この子達が特待生になれないはずがないと思っていたが……

「三人ともすごいじゃん! おめでとう!」

 俺がそう言うと、子供達はうれしさに顔をほころばせた。
 ケイはその場で小さくジャンプし、獣人のフェイは尻尾を振る。
 感情の起伏が激しくないハーフエルフのレインでさえ、とがった耳をピコピコさせていた。
 ひとしきり喜んだところで、テンションの高い子供達を落ち着かせて、学園の入口にある受付に向かう。
 ここで受験票と学生証を交換するのだ。
 受付のお兄さんが、ケイ達に学生証を渡していく。

「合格おめでとう。これがティンドホルマー魔法学園の学生証だよ。大事なものだから、なくさないようにね」
「「「うん」」」
「あと、入学式についての説明だけど……今日から一週間後、午前九時から始まるからね。学生服の支給もその日になるよ。今日は来ていないみたいだけど……保護者の方の参列も歓迎しているからね」

 ん? 保護者ならここにいますけど?
 たしか試験当日、ケイ達と一緒にいたら俺も受験する子と間違えられたけど、今回もそのパターンか!?
 まさか、試験に落ちた子供と勘違いされていないよね?

「ちなみに私の名前は、キリティマイティ。もしかしたら今後、授業で会うかもしれない。気軽に、リッティ先生と呼んでくれ! で、そこの子は、受験票を持っていないみたいだけど、合格できなかったのかな? まぁ、ここの試験は難関だからね。またチャレンジしに来てくれ!」

 子供達に軽く自己紹介をした後、リッティ先生は、俺になぐさめの言葉をかけた。
 完全に勘違いされているようなので、俺は彼の前に立って説明することにする。

「リッティ先生……でしたっけ。俺は受験生ではなく、この子達の保護者なんですけど……」

 そう話を切り出した瞬間、リッティ先生がピクリとも動かなくなる。
 衝撃が大きかったのか、フリーズしてしまったらしい。

「リッティ先生?」
「え~っと、君の名前と年齢は?」
「名前は佐藤悠斗で、十五歳です」
「そうか~。十五歳なんだね……し、失礼しました!」

 この世界での成人年齢――十五歳を超えていることに驚きの表情を再び浮かべた後、リッティ先生は勢いよく頭を下げた。

「そんなに謝らないでください。今後間違われないように指摘しただけで、それほど気にしてませんから」

 そう言った後も何度も頭を下げるリッティ先生を見て、真面目な人だなと好感を覚えた。

「ああ、そういえばっ!」

 すると突然、なにかに気付いたリッティ先生が声を上げた。
 ケイ達の顔を順に見ながら、先生が口を開く。

「ケイちゃん、フェイくん、レインちゃんに、学園長が会いたいそうでね。学生証を受け取りに来たら、学園長室に通すよう言われていたんだ。突然で申し訳ないんだけど、いいかな?」

 リッティ先生の言葉を聞いた後、困った顔でこちらを見てくるケイ達。
 行きたくなさそうなオーラが伝わってきたが、学園のトップで、しばらくお世話になる人ともなると、行かないわけにはいかない。
 それに、学園のトップと直接面談できる機会なんて滅多にないし……俺自身、なにか面白い話が聞けるかもしれないという希望もあった。
 わかりやすくテンションの下がった三人をなだめつつ、俺達は学園長のいる部屋へと向かうことにした。

「特待生とその保護者の方をお連れしました」

 リッティ先生の後ろについて、俺達が部屋に入ると、学園長とおぼしき老齢の女性が窓際まどぎわに立っていた。
 入口付近に並ぶ俺達をソファまで案内した後、学園長は向かいの椅子に腰掛け、挨拶する。

「突然呼び出してしまって申し訳ございません。私は、当学園の学園長をしております、グレナ・ディーンと申します。数ある魔法学園の中から当学園を選択いただき、ありがとうございます」

 そのまま、グレナと名乗る女性は、俺に対して手を差し出した。

「佐藤悠斗と申します。こちらこそ、よろしくお願いします」

 俺は笑顔で、学園長と握手を交わした。
 しばし世間話やケイ達の話をした後で、学園長が本題を切り出す。

「それで、本日あなた方を呼んだ理由なのですが……まず、先日の試験において、そちらの子供達が的当て中に無詠唱で魔法を使用したと報告を受けました。それは本当ですか?」
「そうですね。すべての魔法とまではいきませんが、三人ともできますよ」

 俺の言葉を聞いた学園長が驚愕きょうがくする。

「やはり……ちなみに、その技術を教えていただくことは難しいでしょうか?」
「もしかして、無詠唱で魔法を使用する方法を教わることが今回ここに呼んだ目的ですか?」
「お恥ずかしながらその通りです……ですが、世界を見ても数えるほどの人しか使うことのできないこの技術ですし、もちろんタダで教えてもらおうとは思っておりません! 毎月白金貨二十枚を二十年間、研究費の名目でお支払いいたします!」

 もとの世界のお金に換算すると、月二百万円の臨時収入か。
 別に教えるのが大変というわけでもないし、タダで教えてもいいんだけど……
 教えるために学園に来なきゃいけないのが面倒臭いな……
 俺が考えている様子を、渋っていると捉えたのか、学園長は再び口を開く。

「研究費の名目での支出ではありますが、なにかしらの成果が必要というわけではございませんし、あくまでも指導役を引き受けてくださることへの報酬ほうしゅうになります!」
「うーん……」
「指導役であっても、生徒の前で講義をするといったこともございません! 月に一回、詠唱破棄えいしょうはきの技術を私にご教授くだされば大丈夫です!」

 こちらがなにか言う前に、次々と条件を提示してくる……
 押しの強さに困っていると、その表情を別の意味合いだと思ったのか、またしても学園長が条件を提示してきた。

「――悠斗様、大変申し訳ございません。月あたりの金額が足りていなかったのですね。それなら白金貨四十枚で無詠唱の技術を教えていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 そう言う学園長の表情は、かなり苦しそうだ。よほど限界ギリギリの条件なのだろう。
 このまま即答しなかったら、大変なことになりそうだ。

「わかりました! 教えます教えます! ただ、無詠唱魔法は、術者本人の素質で使えるかどうかが変わるので、もし使えなくても責めないでくださいね?」

 以前、不良二人組に無詠唱での魔法を教えた時には、まったくと言っていいほど魔法が発動しなかった。絶対に使えるというわけではないのだ。

「ありがとうございます! もしお時間があればですが、今から少々ご指導いただくことは可能でしょうか」
「大丈夫ですけど……魔法を使っても問題のない場所に移動したいですね」
「これは失礼いたしました! それでは、訓練場に移動しましょう」

 そして、学園長は壁に備え付けられている魔石のようなものに話しかけ始めた。
 どうやら、電話に近い役割を持つ魔道具みたいだ。
 そういえば、通信ができるような魔道具はまだ持っていなかったな……正直、めっちゃほしい。
 お金の代わりにあれを送ってもらうのもありだな……と考えていたところで、学園長がこちらを振り向いた。

「悠斗様、訓練場の準備ができましたので、行きましょうか」

 そのまま颯爽さっそうと部屋を出る学園長に続いて、俺達は訓練場に向かうのであった。


 学園の大まかな説明を聞きながら、彼女について行くと、目の前に訓練場の入り口が見えてきた。
 重い扉を開けて、子供達と一緒に中に入る。
 この施設は、いつもは在学中の学生達や、講義の予定のない講師が、日々魔法の修練しゅうれんに励む場として提供されているらしい。
 だが今日のこの時間に限り、学園長命令でここを一時的に貸し切りにしているので、この広々とした空間に今いるのは五人だけ。
 教わる気満々で近寄る学園長に、俺は念のため確認する。

「え~っと、貸し切りにしちゃってよかったんでしょうか?」
「もちろんです。無詠唱魔法を私がいち早く習得して、学園全体に伝えることの恩恵の方が、将来的に大きいと思いましたので。たった一日ですし、今日は試験結果の発表日で、在校生もほとんどいませんから、大丈夫でしょう」

 理屈はあっていそうだが、その裏には学園長の研究者としての好奇心がありありと見て取れる。なんだかんだで欲望に忠実な人だ。
 まぁ、学園の内情は俺には知るよしもないし、今やるべきは彼女への指導だ。

「それでは、これから魔法を無詠唱で発動させるための方法について説明します。決して馬鹿にせず聞いてくださいね?」
「もちろんです! 私は教わる側ですし、よほど荒唐無稽こうとうむけいなものでもない限り、真剣に聞きますよ!」

 学園長は、そう言って気合を入れた。
 だが、今から教えるのは、ケイ達に伝えた『生活魔法せいかつまほう』をベースにしたやり方。どちらかと言えば荒唐無稽だし、学園長がついてきてくれるか不安だ。

「それでは早速……学園長は『生活魔法』の『着火ちゃっか』『飲水いんすい』『洗浄せんじょう』を使うことはできますよね?」

 彼女は少しムッとした感じで返事をする。

「当たり前です! 大半の人が使える魔法を、魔法学園の学園長が使えないわけがないでしょう!」

 これはこっちの伝え方が悪かったな。この世界で『生活魔法を使えますか?』という問いは、元の世界の大人に、『足し算はできますか?』と問いかけるのと感覚的には同じなのかもしれない。
 だとしても、今まで穏和な雰囲気ふんいきだっただけに、そんなに簡単に怒るとは思わなかった……

「……その『生活魔法』を無詠唱で発動させることが第一歩になります。まずは俺がお手本を見せますので、同じように発動してみてください」
「わかりました」

 そして俺は『生活魔法』の『飲水』を発動させる。
 すると、空中に手のひらサイズの水のかたまりが発生した。水は塊から、ちょろちょろと漏れ出すと土の染みとなって消えていく。

「『生活魔法』の『飲水』を無詠唱で使った場合、こんな結果になります。今のは『生活魔法』の『飲水』を頭の中で具体的にイメージして、魔力を手のひらから放出してみました。それでは、学園長も水の塊が周囲を舞うような光景を頭の中でイメージしながら、魔力を放出してみてください」

 最初の数回は手のひらに水が出るくらいの状態だったが、数分後には『飲水』の魔法を詠唱なしで発動させた。

「なっ、なるほど……たしかに、頭の中のイメージが魔法として発現しました……」

 学園長は、少しの間呆然ぼうぜんとした表情を浮かべた後、何度も『飲水』の魔法を試している。
 発動しては、その水の塊を崩すといった流れを繰り返しているうちに、学園長の周りには、様々な形をした水たまりができていた。


「ゆ、悠斗様っ!」

 自ら生み出した水たまりに足を突っ込んだ学園長が、そんな状況を気にせず、俺に話しかけてきた。
 何て研究熱心な人なんだろう。

「ゆ、悠斗様っ……『飲水』を無詠唱で発動させることができるのは分かりました。次に『着火』をお願いします!」

『着火』のイメージは、もとの世界で言うライターのようなイメージだ。
 指先から火を生み続けるようなイメージをすることで、無詠唱でも『生活魔法』を発動できる。
 それを伝えると、学園長はすぐにコツをつかんで、『着火』を無詠唱で発動させた。
 そして自身が出した火を見つめながら、興味深そうに口を開いた。

「ふふふっ、なるほど、無詠唱魔法のすべては『生活魔法』が基本となっていた訳ですねっ……」

 どうやら学園長は魔法のイメージをつかめたようだ。
 それなら次のステージに移ることにしよう。

「学園長は、どの属性魔法が得意ですか?」
「そうですね……基本的な魔法はすべて使うことができますが、あえて言えば『火属性魔法』でしょうか?」
「それでは、火属性の初級魔法である『火球ファイアーボール』を試してみましょう。いつも発動させているものをイメージしつつ、魔力を手のひらから流してみてください」

 そう教えると、学園長は普通に『火球ファイアーボール』を発動させることに成功した。

「なっ、なるほど……魔法を詠唱なしで使用するには、頭の中で発動させる魔法をイメージし、魔力を放出するだけ……発動できるかどうかは、いかに具体的にイメージできるかどうか、それに尽きるというわけですね……ありがとうございました! これをしっかり学園に伝えます!」

 感動しながら一息でまくし立てた後、学園長は訓練場を飛び出してしまった。
 その様子を見届けていると、フェイが服のそでを引っ張った。

「悠斗兄! そろそろ帰ろうよ!」

 ずっと学園長とのやり取りをしていたせいで、ケイ達はかなり退屈だったようだ。
 三人に軽く謝り、俺達は訓練場を後にするのだった。


 学園の門を通り抜けようとしたところで、俺達の後ろから少年の声が聞こえてきた。

「ちょっと待てぃ!」

 声の正体は、高貴な服に身を包んだぽっちゃり体型の少年。
 少年はポヨンッ、ポヨンッとお腹をバウンドさせて、立ち止まった俺達の前に立ちふさがる。
 どこかコミカルな動きに、俺だけでなくケイ達も少し笑う。
 そんな俺達の反応が気に食わなかったのか、少年は地団駄じだんだを踏んだ。

「なっ、なにを笑っているッ! 失礼であろう!」

 怒り狂って、声をあららげる少年の対応に困っていると、少し遅れてこの子供の保護者とおぼしき男性が駆け足でこちらに向かってきた。
 かなり急いで走ってきたようで、男は息を切らしている。

「ハアッ、ハアッ……オ、オタワ様……落ち着いてください。ああ、オタワ様が申し訳ございません。私はオンタリオ子爵家ししゃくけに仕えております、従者のリアと申します」

 リアは、オタワ少年と俺の間に入ると、頭を下げた。
 その様子を見て、オタワは再び怒り出す。

「なにを謝っているのだ! 私はまだなにもしていないであろうがッ!」
「先ほど、受験票を握り潰して『特待枠には入れなかった……いや! きっと、学園側が受験番号を間違えたのだ! そうに違いない! 私が間違いを正してやらねば……』とかおっしゃっていたじゃないですか。いやな予感しかしませんよ……大方、そこの子供達から受験票を奪うか、特待枠を辞退するように恫喝どうかつするつもりだったのではないですか?」
「ウヴッ!」

 リアの言葉を聞いたオタワ少年が後ずさる。
 図星だったようだ。実に分かりやすい人である。
 しかし、残念ながら受験票は既に学生証と交換しているので、今さら特待生に成り代わるのは無理だ。
 それに、学園長とも懇意こんいになった今、おそらくオタワが問題を起こせば、不利になるのはこの彼の方だ。
 そんなことを思いながら、事の成り行きを見守っていると、オタワ少年がケイ達に噛みつき始めた。

「リアは黙っていろっ! それよりお前達だ! 何でお前達のような平民が特待枠なのだ! おかしいであろうっ! きっと学園側が、特待枠にする受験生を間違えたのだ……お前達の受験票をよこせぇぇぇぇっ!!」

 そのまま全身を大きく広げて、オタワ少年が子供達に覆いかぶさるように迫ってくる。
 まぁ、うちの子供達がこの少年に負けるとは思わないし、いざとなったら俺が『影魔法』の一つである『影縛バインド』を発動して、身体を拘束こうそくすればいい。
 密かに魔法を放つ準備をしていたら、目の前で驚くべき状況が展開された。

「ぷぎいあぁぁぁぁ、ぐぅふっ!」

 子供達に向かってくるオタワ少年の背中に、リアが思いきりむちを打ち込んだのだ。
 今までの振る舞いからリアはオタワに頭が上がらず、常に付き従うタイプの人間だと思ったため、まさか彼が止める役になるとは想定外だったのだ。
 それにしても、しつけるためとはいえ、鞭で打つなんて、容赦ようしゃなさすぎだろ!
 その後も適度に加減しながら、オタワ少年に鞭を振るうリア。
 オタワ少年は、最初こそ大声を上げていたが、次第に静かになり、最後は地面に突っ伏してしまった。可哀想かわいそうに……
 リアはそのまま何事もなかったように、こちらへ向かってくる。

「不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません。幼い頃から好き勝手させすぎたせいで、少々傲慢ごうまんに育ってしまいまして……現在、性格を矯正中きょうせいちゅうなのです。あなた様も私がオタワ様から離れている時、理不尽りふじんなことや不快なことを言われましたら、このように背中に思いっきり鞭を入れてやってください」

 いや、できるわけねーだろっ!
 というか、そんなことしてリアさんはクビになったりしないのだろうか。 
 すると、うつ伏せになっていたオタワ少年がむくりと顔を上げる。

「くっ! リアめっ! いつもいつも、私の背中に鞭を打ち込みおって! お父様に言いつけてやるんだからなっ!」

 まるで負け犬の遠吠とおぼえのようなセリフを吐くオタワ少年に向かって、リアはポケットから書状のようなものを取り出して突きつける。

「この書面に書いてある通り、私にはオタワ様の性格を矯正する任務を旦那様よりおおせつかっております。どうぞ、旦那様におっしゃってください。怒られるのはオタワ様と思いますが……」

 リアの言葉に、オタワ少年がくやしそうな表情をした。
 どうやら、リアのこの行動はオタワの親公認らしい。
 二人の言い合いが終わった頃、リアはオタワ少年から視線を外し、こちらに振り向く。

「皆様、この度は大変申し訳ございませんでした。オタワ様には、このように厳しい矯正を加えておりますので、どうかご容赦を……今後学園で迷惑をかけるようなことがあった場合には、私にお伝えくださいませ。それでは失礼いたします」

 そう言って、リアはオタワ少年の耳を引っ張りながら去って行った。

「痛いっ! 痛いと言っているだろっ! リアッ! おいッ!!」

 そんなオタワ少年の絶叫ぜっきょうを耳にして、俺達四人は顔を見合わせる。
 そしてケイがボソッと言った。

「悠斗兄、変な人もいるんだね……」
「まぁ、そういう子ばっかりじゃないから……きっと」

 今さらながら、この学園に三人を通わせることに一抹いちまつの不安を覚えながら、俺はケイ達を引き連れて屋敷に戻るのであった。


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