上 下
480 / 486
番外編 神となった悠斗。現代日本に現れる

どこまでも流される教祖様①

しおりを挟む
「私とした事が申し訳ございません。神興会本部に忘れ物をしてしまいました」
「……忘れ物ですか? 屋敷神さんにしては珍しいですね。『御神体供養』の儀まで、まだ時間はあります。一度、本部に戻りましょう」

 十三時から東京国際フォーラムで開催予定の『御神体供養』の儀まで、まだ時間はある。
 それに丁度、一息付きたかった所だ。

 ここの所、屋敷神さんの手のひらで転がされている感が半端ではない。
 一度、本部に帰って旧知の中の佳代子さん、紗良さんとお茶をしよう。
 これから私はどうするべきなのか相談しよう。

 そう思っていたのに……。
 やっと一息付けるかと思っていたのに……。

 これはないでしょう。

 神興会本部の自動ドアを潜ると、そこには警備員に捕縛され、罵詈雑言を叫ぶ佳代子さんと紗良さんがいた。

 佳代子さんに紗良さん!?
 な、何やってんのー!?

「えっ? ど、どういう事っ!? 佳代子さんに紗良さん。ま、まさか……。何か悪い事をやった訳じゃ……」

 私の声を聞いた佳代子さんと紗良さんが唖然とした表情を浮かべている。

「おやおや……。あの二人。どうやら教祖様宛に寄付された金品を横領しようとしていたみたいですね」

 隣に視線を向けると屋敷神も薄ら笑いを浮かべていた。

 じ、爺いー!
 図ったわね!?
 忘れ物がどうたら言って、絶対、この事、知っていたでしょう!

「ち、違うの! 違うのよ。教祖様!」
「そ、そうです! 佳代子さんの言う通りです。私達はこの性悪爺に嵌められて……」

 私に向かって言い訳を始める佳代子さんと紗良さん。
 お願いだから、もう余計な事は言わないで欲しい。
 性悪爺って誰の事?
 あなた達の前で仁王立ちしながら激怒している財前さんの事を言ってる訳じゃないわよね?

「教祖様っ! 私達は教祖様から邪気を遠ざけようと思って……」
「ほう。邪気を遠ざけようと思って教祖様の部屋に侵入し、キャリーバックに金品を詰めてどこかに持ち出そうとしたと、そういう事ですか?」
「うっ!?」

 流石は屋敷神さん。
 私が言いにくい事をズバズバ言ってくれる。

「それにこれは何です?」

 屋敷神さんは悠斗君から紙袋を受け取ると、袋の中から白い箱を取り出した。
 箱を開けると、中にはまるで爆弾の様な物が入っている。

「そ、それは……。ち、違っ! 私達じゃないわ! 教祖様の部屋に置いてあったのよ!」
「そ、そうよ! 私達はただ分け前を貰おうとして……。爆弾なんか知らないわっ!」

「ば、爆弾ですって!?」

 な、なんでそんなものが私の部屋に置いてあるのよ……。
 知ってて何で放置してるのよ。

「わ、私達も何とかしようと思ったのよ! だからこそ悠斗君に爆弾を探させて通報させようと……」
「そ、そうよ! 私達は悪くないわ!」

 ゆ、悠斗君に爆弾の処理をさせようとしたの!?

「あ、あなた達ね……。子供に爆発物を発見させて通報させようだなんて、何を考えているのよ……」
「全く以って、教祖様の仰る通りです。とはいえ爆発物をそのままにしておく訳にはいきませんね。佳代子に紗良も同様です」

 屋敷神の言葉に佳代子さんと紗良さんが目を剥く。

「ち、ちょっと! 私達を警察に突き出すつもりっ!」
「そ、そんな事をすれば、どうなるかわかっているんでしょうね! 神興会はお終いよ!?」

 えっ?
 神興会を終わらせてくれるの!?

「……確かに、神興会の幹部が不正を起こした事が露見すれば神興会の運営に支障があるかも知れません。いかが致しますか? 教祖様」

 顎に手をつき考え込むような表情を浮かべた財前さんがそんな事を言ってくる。

「……よろしいのではないでしょうか? 私にとっては神興会の評判よりも信徒の方が大事です。まだ未成年の子供である悠斗君に爆弾を発見させ通報させるなどという危険な行為をし、その内にキャリーバックに詰めた金品を横領しようとした事を許す事はできません。これは教祖としての思いではなく、この社会を生きる一人の大人としての思いです。佳代子さんと紗良さんにはこれまで大変お世話になりましたが、仕方がありません」

 心の底から残念そうな表情を浮かべながらそう言うと、佳代子さんと紗良さんが縛られながらバシバシ跳ねる。

「ち、ちょっと待って! 伊藤さん! い、いえ、教祖様っ!」
「は、話を聞いて下さい! そんなつもりはなかったんです! ちょっと魔が差しただけで……」

 ――パチン。

 佳代子さんと紗良さんが追撃するかのように言い訳を始めると、屋敷神が笑みを浮かべながら手を叩いた。

「素晴らしい。流石は神興会の教祖様ですね。悠斗様が神興会に気持ちを傾ける気持ちがわかります……」

 えっ?
 悠斗様??
 どういう事???
 悠斗君って、どっかのお偉いさんの息子なの?

 悠斗君に視線を向けると、悠斗君がブンブン横に首を振っている。

「……しかし、この二人の為に神興会の発展を妨げる事は赦されざること。そこで、どうでしょう。この二人を私に預けて頂けませんか?」
「えっ? 一体何をする気なのです?」
「教祖様が気に掛けるほどの事ではございません。身の安全だけは保証致しましょう。勿論、この爆発物の処理も私が……」

 屋敷神は爆弾の入った箱を影に向かって落としていく。
 すると、爆弾の入ったその箱は、影の中に沈んでいき、爆弾が姿を消した。

「……さて、これで爆発物の処理は終わりました。教祖様、この二人の事を私に任せて頂けますね?」
「え? ええっ……。よろしくお願いするわ……」

 屋敷神の言葉に私はただ頷く事しかできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。