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番外編 神となった悠斗。現代日本に現れる

教祖様の苦悩 躍進(荒事専門確保)⑤

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「い、一体、何故……」

 何故、あの世にスマートフォンがっ?
 一体どういう事だ??

 唖然とした表情を浮かべながら、鳴り続けるスマートフォンに視線を向ける。

 そ、それに、母ちゃんは昏睡状態。
 寝たきりの状態だった筈だ。

「ま、まさか……。本当に?」

 スマートフォンを手に取り、電話に出るとスマートフォン越しにここ数年聞いた事のない母ちゃんの声が聞こえてくる。

『……純也。私だよ。わかるかな?』
「あ、ああ、ああっ……。勿論だ。勿論わかるよ!」

 間違いない。
 これは母ちゃんの声だ。
 側から父ちゃんのすすり泣く声も聞こえてくる。

『純也……。今、どこにいるの? 久しぶりに純也に会いたいな……』
「あ、ああっ……」

 そう言って、ピタリと動きを止める。

 あ、あれ?
 でも俺ってもう死んでいるんじゃ……。

 俯くと身体中に血痕が付いている。
 中々の出血量だ。これで生きていたら奇跡だろう。

 天上を見上げると、神様が微笑みを浮かべ、強い光が辺りを照らしていく。

 暖かい光だ。
 俺の身体に染みついた悪い気が浄化されていくようなそんな気がする。

 そうか……。
 これは神様からの餞別。
 神様が最後に母ちゃんの声をスマートフォン越しにあの世まで届けてくれたのだろう。

「……すぐに病院に行くよ。待っていて」
『ええ、楽しみにしているよ。それじゃあね』

 母ちゃんにそう返事をすると電話が切れた。
 最後に元気になった母ちゃんと話をする事ができて良かった。
 直に顔を見る事ができないのは悲しいが仕方がない。
 神様は十分、俺に奇跡を起こしてくれている。
 これ以上は、望み過ぎだろう。

 スマートフォンを内ポケットにしまうと、神様に向かって土下座する。

「もう悔いはありません。ありがとうございました」

 すると、神様が俺に言葉をかけてくれた。

『あなた達はまだ、死んではいませんよ』
「えっ?」

 どういう事だ?
 俺達はまだ死んでいない??

 両隣を見てみると、俺と同じく涙を流しながら平伏している仲間がいた。
 畏れ多いと思いながらも、意を決してそう尋ねる。

「そ、それは、どういう事でしょうか?」

 自然と敬語が出てくる。
 全く以って不思議だ。やはり、相対しているのが神様だからだろうか?

『奇跡を待つより捨て身の努力で未来を勝ち取ろうとしたあなた方を死なせる訳がないではありませんか。時計の針は元には戻りません。しかし、自らの手で進める事はできます。あなた達は現世で生きるべきです。新しい信仰と共に……』

「あ、新しい信仰……。そ、それは一体……」

『顕蓮会……。あのカルト宗教を信仰してはなりません。真にあなた方の心を助けるのは神興会のみ。改宗するのです。回心するのです……。その先に光があります』

 神様がそう言うと、一斉に天使が羽搏いた。
 白い翼が空を舞い、キラキラ光る羽が降り注ぐ。

「顕蓮会がカルト宗教……」

『ええ、真にあなた方の心を助けるのは神興会。その事を心に刻み現世へと戻りなさい』

 信じられない。
 もしそうだとすれば、今まで顕蓮会の為にやってきた事は……。

『過去に囚われてはなりません。これから歩む輝かしい未来の事だけを考えるのです。これまでの事は全て邪気と呼ばれる悪い気が起こした事。神興会の教祖を尋ねなさい。あなたに憑いた邪気全てを祓ってくれる事でしょう』

「で、ですが……」

『後の事は心配いりません。顕蓮会はこの私が潰します。あなた方は安心して生活を送ればいい。そうですね……。差し当たり、まずは家族に顔を見せて上げては如何でしょうか? きっと、喜ばれると思いますよ』

 あ、あの顕蓮会を神様が……。
 という事は、神様の言う通り顕蓮会はカルト宗教。
 しかも、神自ら潰すと言うほど危険な宗教だったとそういう事か……。

「あ、ありがとうございます!」
『ええ、それでは……』

 再び平伏すると、俺達を優しい光が包んでいく。
 その光は段々と強くなり、目も開けられない程の光が俺達を照らす。

 次、目を開けると、そこは新しく建てられた神興会の本部前だった。

 俯くと、破れ血だらけだった服が綺麗サッパリ元に戻っている。
 茫然とした表情を浮かべていると、懐に入れていたスマートフォンが鳴った。
 無言でスマートフォンを取ると、父ちゃんが電話口に出る。

『ああ、純也か。母さんの事だが、自宅から着替えを持ってきてくれ』
「あ、ああ、わかった……」
『……突然の事で驚いただろう。もう母さんは大丈夫だ。それじゃあ、よろしく頼むな』

 電話を切ると、神興会の建物を見上げる。

「あれは、夢じゃなかったのか……」

 三人揃ってフラフラと神興会の建物の中に入っていくと、その場で入信手続きをして、顕蓮会のバッチをゴミ箱に捨てた。

 その足で自宅に戻り、母ちゃんの服をバッグに詰めると病院に向かう。
 病院では俺の事を待っていたのか、父ちゃんが部屋の外にいた。

 時折、笑顔を浮かべながら涙を拭っているその姿に、自然と涙が零れ落ちてくる。

「父ちゃん!」
「純也……。母さんが待ってるぞ……」

 病室のドアをスライドさせる。
 すると、そこには目を開け横たわる母ちゃんの姿があった。

「純也……。随分と大きくなったわね……」
「母ちゃんはもう大丈夫なのかよ……」
「ええ、私はもう大丈夫。神様に治して貰ったんだから、あなたからも父さんに言ってよね。この人、すぐに退院できるのに私の話を聞いてくれないのよ?」
「当たり前だろ。何年寝てたと思ってるんだよ。馬鹿……」

 そう言うと、母ちゃんが頬笑みを浮かべた。

「馬鹿って、まあ……。純也にも父さんにも心配かけたわね。私はもう大丈夫だから……。本当よ?」

 他愛のない会話に幸せを感じる。
 この日、始めて心の底から神様を信望しようと、そう思った。
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