上 下
462 / 486
番外編 神となった悠斗。現代日本に現れる

動き始める悪意

しおりを挟む
 悠斗が元の世界、日本に降り立ち、神興会の勧誘を始めてから二週間が過ぎた頃、他の宗教団体では新興宗教『神興会』に改宗していく信者達に頭を悩ませていた。

「い、一体、何が起きているのだ……」

 毎月、一人、二人の改宗者であれば問題はない。
 しかし、たった二週間で数万を超える信者達が改宗したという今の現状は拙い。

 平成から令和にかけて世界の宗教地図は大きく変わろうとしている。
 平成元年には二億人近くいた宗教信者数は令和元年において一億三千万人まで減少。
 たった三十年の間に大凡、三割もの信者が減少しているのだ。

 それに加えてこの現状……。
 しかも、信者達の改宗先が新興宗教『神興会』とかいうポッと出の宗教団体である事も問題だ。子供がお遊びの一環で作った創作物の様な新興宗教に多くの信者を持っていかれ、解散の危機に追いやられるなんて……。

 現在、日本に置いて新興宗教の教団数は約四百教団程あるが、『神興会』の急激な台頭により弱小宗教の教団は解散の危機にあった。

「き、教祖様。如何致しましょう。このままでは拙いですよ。神興会の教祖は本当に邪気や病気を祓う力を持っているようですし、テレビでも大々的に取り上げられています!」
「ああ、わかっている……」

 信者達の入信理由は様々あるが、大体の入信理由は病気の悩み、貧困の動機、家庭内の不和の三つに分類される。
 つまり、現実世界での苦難を抱え込み、にっちもさっちも行かなくなったので神仏を頼る気持ちになったと、そういう事だ。
 そして、そうした動機で入信した信者は、当然の事ながら現世での御利益。それも、出来るだけ早く救いや解決策を得たいと考えている人が多い。

 神興会はその点を巧みに突いてきた。
 信者達の願いを先に叶える事で神興会に入信させ、入信させた信者達自ら進んで神興会を薦めさせる。
 新興宗教のくせに、あんなにデカい建物に拠点を移す位だ。
 お布施も相当な額貰っているに違いない。

 しかし、一体どうすれば……。

 幹部達の不安をかき立てぬよう、目を閉じて瞑想していると、外から慌しい音が聞こえてくる。

「なんだ……?」

 すると、扉を開けて信者の一人が入ってきた。

「た、大変です! 『顕蓮会』の教祖様がっ!?」
「うん? 『顕蓮会』の教祖がどうした?」

『顕蓮会』とは、日本において十万を超える信者数を誇り、構成員の中に暴力団員を抱える宗教団体だ。
 そこの教祖が一体何だというのだろうか?

 信者の息が整うまで待っていると、背後の扉がゆっくり開いていく。

「久しぶりですね……」
「お、お前は『顕蓮会』の教祖……。何故、ここに……」

 通常、教祖が他の宗教法人を訪れる事はまずない。
 唖然とした表情を浮かべていると、『顕蓮会』の教祖がニヤリと笑みを浮かべる。

「『生命の樹』の教祖。突然の事でさぞ混乱しているとは思いますが、私達と共に組みませんか?」
「それはどういう……」
「うん? そんな事、決まっているでしょう? 神興会ですよ。神興会……。あの新興宗教、この私の顕蓮会から数万人もの信者を引き抜いていきやがった。あなたの所も被害を受けたのでしょう?」
「……ああ、確かにそうだが」
「だったら! 迷う必要なんてないですよねぇ? 広域暴力団をバックに持つ私と、多くの信者を抱えるあなた! 私達が組めば怖いものなんてありません! 互いに協力し合い、あの新興宗教を潰しましょう? やられっぱなしでは面子が立たない。そうでしょう?」
「うむむ……」

 確かに、やられっぱなしでは面子が立たない。
 しかし、神興会は今、多くのメディアに注目されている。
 それだけに、下手に動く事ができないのも確かだ。

「迷っているようですねぇ……。それでは、こうしましょう。神興会への実行部隊は私達が送り込みます。あなた方には、資金面でのサポートをして頂きたい。如何です? 信者が減り心許ないとは思いますが、ここで神興会を潰しておかないと、これまで以上に信者を失う事になりますよ? それに宗教法人が解散に陥れば、困るのはあなたではありませんか?」

 確かに、折角立上げ軌道に乗ってきたばかりの新興宗教がなくなれば、私の生活は立ち行かなくなってしまう。

「た、確かにそうだが……」
「なら問題ありませんね。実は言うと既に二十を超える新興宗教の教団と手を組んでいるのです。神興会に困らされているのは、あなた方だけではないのですよ」
「……そうなのですか?」
「ええ、互いに手を取り合い、あの神興会を潰しましょう。そうすればきっと、離れていった信者達も戻ってきてくれます」
「……そうだといいのですがね。まあいいでしょう。確かに、神興会の台頭によりこちらも多大な被害を被っている。一緒になって戦ってくれる教団が大勢いるのはありがたい」

 私達は互いに手を取り合い握手すると、深い笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 3,253

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。