転異世界のアウトサイダー 神達が仲間なので、最強です

番外編 神となった悠斗。現代日本に現れる

布教活動②

『影転移』で、邪気に取り憑かれたであろう人の下に転移すると、お爺さんが倒れているのを見つけた。

「だ、大丈夫ですか！？」
「大丈夫だ……。ワシの事は放っておいてくれ」
「えっ！？　で、ですが、その身体ではっ！」
「大丈夫だと言っている！　俺はもうどうせ長くは生きられないんだ！　うっ……」

　お爺さんはそう言うと、気を失ってしまう。
　咄嗟に身体を支えるも、お爺さんの呼吸が段々弱くなっていく。

「お爺さん？　お爺さん！？　そ、そんな事、言わないで下さい！　だったらせめて……」

　そう言うと、俺は目の前で倒れているお爺さんに『聖属性魔法』をかける。
　すると、お爺さんの表情が和らいでいくのが見て取れた。

　このお爺さんは病院近くで倒れていた。
　多分、あの病院の患者だろう。
　邪気に取り憑かれ病状が悪化している人の中には、こういった強情な人もいる。
『鑑定』して見た結果、このお爺さんはかなり病状が進行し、この世界の医療技術では、治療が難しい病気に係っていた。

　実際、俺がこの場にいなければ危ない所だった。
　教祖様がこの場にいたら邪気ごと、この人の病を治す事もできるのに……。
　本当に歯痒い。

『聖属性魔法』をお爺さんの身体全身にかけ終わると、お爺さんを背負い近くの病院まで運んでいく。
　お爺さんを背負いながら病院の中に入ると、看護師さんが慌てた表情を浮かべながら向かってくる。

「財前さん！」
「えっ？　財前さん？」

　この人の名前だろうか？
　財前さんを背負ったまま、看護師さんの下に歩いていくと他の看護師さんがストレッチャーを引いてきた。

「早く財前さんをストレッチャーに！」
「は、はい！？」

　背負っていた財前さんをストレッチャーに乗せると、看護師さんは唖然とした表情を浮かべた。
　どうやら今のは、俺に言った訳ではなかったらしい。看護師さんに財前さんを預ければ良かったようだ。財前さんを乗せたストレッチャーは、そのままどこかに運ばれていく。

「えっと、君に言った訳じゃなかったんだけど、ありがとう。それで、君は？　もしかして、財前さんのお孫さん？」
「いえ、違います。俺は佐藤悠斗。病院の前で倒れていたのでここまで連れて来ました」
「そ、そう。本当にありがとう。財前さんは放浪癖があるから、皆で探していたのよ……」
「そうなんですか……」

　財前さんと呼ばれたお爺さん『俺はもうどうせ長くは生きられないんだ』とか言っていた。
　まあ『聖属性魔法』をかけたから病気は治っていると思うけど、これからは看護師さん達に心配をかけず余生を過ごして欲しいものだ。

「それじゃあ、俺はこれで。お爺さんの事、よろしくお願いします」
「ええ、財前さんを運んできてくれて本当にありがとう」
「いえいえ、そんな大した事はしてませんから」

　そう言うと、俺は病院から出る。

「う～ん。難しいな……」

　あのお爺さんを見て思ったけど、邪気に取り憑かれ病状が悪化している人程、話を聞いてくれない。
　どうしたら話を聞いてくれるだろうか？

　例えば、邪気に取り憑かれ病状が悪化している人を『影収納』の中に取り込み、夢だと錯覚させた上で『聖属性魔法』をかけ病気を治すなんてパフォーマンスをするなんて言うのはどうだろう？
　それなら、問答無用で話を聞いてもらう事ができるし、『聖属性魔法』による治療後、邪気を祓う為、神興会の教祖様に会いに行くよう託宣する事もできる。

『召喚』スキルを使えば、カマエルさんの持つ『ラドゥエリエルの剣』を使用する事もできる。
　あの剣を使えば、破壊の天使と能天使を呼び出す事ができた筈だ。
『聖属性魔法』の『聖なる光』を使えば、神々しさを表現する事もできるだろうし、少し大げさかもしれないけど、夢の中の出来事だと思わせる事ができれば問題はない筈。

　よし！
　そうと決まれば、取り敢えず、一度やって見よう。

　手を軽く打つと、俺は狂皇ソテルさんの使っていた『空間属性魔法』と『時属性魔法』の合わせ技『不可視化インビジブル』で姿を隠し、病院にいるお爺さんの下に戻る事にした。
　病院内に入り『影探知』でお爺さんの居場所を探すと、病室に戻っている事がわかる。

　お爺さんのいる病室は、特別個室と呼ばれる所だった。
　開いている扉から中に入ると、そこは都会的でありながら優しさの漂うインテリアやアートに満ちた空間が広がっている。
　まるでホテルの一室の様な様相だ。

　病室を覗くと、丁度、医師と看護師が部屋から出てくる所だった。
　やっている事は不法侵入に他ならないが、これもお爺さんの為だ。

　邪気を祓わないといつまで経っても病気が良くならないからね！

　いつお爺さんを呼んでもいい様に『影収納』内を『聖なる光』で満たし、『ラドゥエリエルの剣』で百体の能天使を召喚していく。
　その際、この件はカマエルさんに内緒だと申し伝える事も忘れない。

　そして、まだ寝たままのお爺さんをベッド事『影収納』の中に引きずり込むと、代わりのベッドとお爺さんに擬態した『影分身』を置き、『影収納』の中でお爺さんが目を覚ますのをそのまま待つ事にした。