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第十一章 オーランド王国動乱編

(閑話)マデイラ王の凋落生活⑥

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 ここは旧マデイラ王国。
 アゾレス王国との戦争に負けた結果、アゾレス王国の領土に組み込まれ、崩落の危険性がある為、放置されたままになっている悲しき王国。

 そのマデイラ王国の王座に座り嘆いている者が一人……いや、一匹いた。
 そう、他でもない。長い時を経てキングゴブリンへと進化したセントヘレナ・マデイラ二十世本人である。

「なんだ、この見窄らしい食事は! 我が国民共は何をしている! 宰相は……ベーリングの奴はどこに行った!」
「ゴ、ゴブッ!?」

 目の前にいるのはゴブゴブ言うだけの役に立たない緑色の悪鬼、ゴブリンのみ。

 現在、マデイラ王国には、国民と呼べる者は殆どいない。今、この国に残っているのは、他に行く場所のない貧困層の人間と、これから他国に亡命しようとしていた人間。そして、キングゴブリン……つまり、このワシを倒そうと無謀な攻撃を仕掛けてくる冒険者のみとなっていた。

 ワシが大声を上げてそう問い正しても、返ってくるのはゴブリンの困惑した「ゴブッ?」という返事だけ。

 全くもって何の役にも立ちはしない。
 運んできた食事も、どこから見つけてきたのかもわからない黄ばんだ麦と、淀んだ水。欠けた芋が一個に、サラダ代わりと思われる毒消草一束のみ……。

 ワシは修行僧か! 修行僧の食事か!
 こんな物食えるか!

 これならまだ暗部率いるゴブリンの集落で生活していた方がマシだった。
 そのゴブリンの集落も崩壊してしまった訳だが……。

「ええい! 他に使える人間はいないのかっ!」

 そう叫ぶと、突然、ズドーン! という爆発音が響き渡り王城が揺れた。

「な、何事だっ!? また冒険者達による襲撃か?」

 王城に籠って数週間。
 二日に一回の頻度で冒険者が襲撃をかけてくる。

 しかし、この国は元々、ワシの国。
 絶対に渡さんとの揺るぎない精神で冒険者共を蹴散らし、その冒険者は奴隷として確保してある。

「無礼者が! このワシ自ら……ああっ?」

 すると今度は、王城内に絶え間ない破壊音が鳴り響く。

 ズドーン! ズドーン! という音が鳴る度、王城が揺れ、パラパラと塵ゴミ屑が降ってくる。

「い、一体何が起こっているんだ……」
「ゴ、ゴブッ?」

 突然の破壊音にワシとゴブリンは困惑するばかり……。
 見張りとして配置していたゴブリン共も慌てふためき、このワシに指示を求めに来るばかりだ。
 見張りとしてゴブリンを配置している意味がまるでない。

 しかし、このままでは王城が崩れてしまう。
 ゴブリンを引き連れ王城の外に向かうと、そこには、倒れ積み重なっているゴブリンの姿と、捕えていた筈の冒険者達の姿があった。

「な、なんだこれはああああ!」

 ワシが怒声を上げると、冒険者達の表情が強張る。
 キングゴブリンに進化したワシに敵はいない。

 ゆっくりとした足取りで冒険者共の下へ近付くと、突如、足元に雷撃が飛んでくる。

「なっ、なにっ!?」

 こ、これは多威餓のユニークスキル『雷魔法』!?
 ま、まさか、転移者である多威餓がこんな事をっ!?

 雷撃が飛んできた方向に視線を向けると、そこには三人の子供が佇んでいた。

「こ、子供……?」

 ど、どういう事だ?
 まさか、この子供が……こんな子供三人に見張りのゴブリン達を倒され、王城まで破壊されたとでもいうのか!?

 雷撃を飛ばしてきた子供三人に驚愕の表情を浮かべていると、子供達が話しかけてくる。

「あれ、もしかして、今回のターゲットのキングゴブリンかな?」
「多分そうよ。だって、一匹だけ図体がデカいもの」
「さっさと終わらせてフェロー王国に帰る……私はさっさと魔法学園を卒業して、悠斗兄の治める国へ向かいたい」

「な、なんだと……」

 子供達の会話の中に、聞き捨てならない名前があった。
 今、この子供……悠斗と言わなかったか?

 佐藤悠斗。それは、マデイラ王国に古くより伝わる『異世界人召喚の儀』により召喚した転移者の名前にして、圧倒的優位にあったアゾレス王国との戦争に途中介入してきた赤い甲冑の天使と、このワシをゴブリンへと変えた憎き魔法使いが口にしていた名前だ。

 おのれ、佐藤悠斗……。
 最初から最後までこのワシの邪魔をしおって……

 佐藤悠斗憎さに自然と手の平に力が入る。

 いや、しかし、考えようによってはチャンスかもしれない。
 相手はたった三人の子供。
 たった三人で配下のゴブリン共を倒したのは見事だが、所詮は子供だ。
 キングゴブリンに進化したワシの敵ではない。

 それに、どうやらこの三人は佐藤悠斗の知り合いらしい。
 この三人を捕らえ、無残な姿にして奴の下に送り付けてやれば、奴は必ずここに現れる。
 後は怒りで我を失った佐藤悠斗を、キングゴブリンに進化したワシの圧倒的な膂力で屠ってやればいい。
 幾分か気も紛れる事だろう。

 そう考えたワシは笑みを浮かべながら三人に向かって手を伸ばす。
 すると、その瞬間、腕に激痛が走った。

 なんだと思い腕を見ると、手を伸ばした方の前腕部分が切り落とされていた。

「ぐっ、ぐあああああっ!」

 なんだっ!?
 一体今、何が起こったっ??

 ワシが叫び声を上げると、今度は片足に激痛が走る。

「ぎゃああああっ!」

 な、何がっ!?
 一体何が起こっているんだっ!?
 そして、急に目の前が眩しく輝いたかと思うと、眉間に激痛が走りワシの身体が後ろに倒れていく。

 倒れ行く中、子供達の声がほんの少しだけ聞こえてきた。

「悠斗兄から一国を支配したキングゴブリンがいるって聞いていたから警戒していたけど、意外とあっけなかったね」
「本当にね。まあ、被害に遭った人はかなりいるみたいだけど……」
「そこは悠斗兄に任せておけばいい。大体の事なら何とかしてくれる筈……」

 ま、またもや佐藤悠斗の差し金か……。
 薄れゆく意識の中、憎き佐藤悠斗の名前が頭の中に木霊する。
 こうして、マデイラ王は人間として生を終えるのではなく、キングゴブリンとして生を終える事となった。
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