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第十一章 オーランド王国動乱編

第472話 サンミニアート・アルモンテ聖国①

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「ああ、ああっ……どうしましょう。どうしましょう。困りました。困りました!」

 ここはサンミニアート・アルモンテ聖国。
 教皇ソテルは、ある事に頭を悩ませていた。

 先日、自身が崇める主神ロプト神ロキ様が教会に降り立ち、直接、神託を降して下さった。
 その際、授かった神託。
 それは一ヶ月後、神率いるオーランド王国がこの国に攻めてくるというものだった。

「一ヶ月……たった一ヶ月では時間があまりに足りません。ああ、ああっ……しかし、しかし、しかし、しかし……」

 ロプト神様は他の神と違い無為な神託は降ろさない。

「つまり、これはロプト神様からの試練……そう試練に違いありません」

 現状、神率いるオーランド王国の軍勢を退けるほどの力は、サンミニアート・アルモンテ聖国にない。
 勿論、ロプト神様が御力を貸して下さるというのであれば、話は別だがそれも難しい。

 この世界の主神たるロプト神様でも、この世界の法則には抗えない。
 ロプト神様をこの地に降ろす為には、大聖堂の地下にある聖域……いや、迷宮を攻略する必要がある。

 なんでも、迷宮を支配し、迷宮核に魔力を注ぎ込む事で、聖域が広がり、ロプト神様や他の神々が顕現し易くなるらしい。
 つまり、大聖堂の地下にある迷宮を攻略し、聖域を広げれば、いつでもロプト神様が顕現する事のできる環境が整うという事。

 問題は……。

「ソ、ソテル様……」

 不朽体となった元教皇と枢機卿がボロボロの姿で、迷宮から戻ってくる。

「また、ダメだった様ですね……現状を報告なさい」
「はい。現在、『聖域迷宮』の踏破階数は三十階中九階。十階層のボスモンスターを倒せずにおります」
「そうですか……」

 相変わらず使えない元教皇と枢機卿だ。
 ロプト神様に対する信仰心がまるで足りていない。

「仕方がありませんね。あなた方は下がりなさい」

 そう呟くと、私は『聖域迷宮』へと足を踏み入れた。
『聖域迷宮』それは、サンミニアート・アルモンテ聖国の大聖堂の地下に存在する地下迷宮。
 一階層から三十階層迄の全ての階層が、レンガ造りとなっており、十階層毎に強力なボスモンスターが現れる。
 現在、確認されているのは、十階層のボスモンスター、三対六枚の黒い羽を持つデーモン。
 基本的に、この聖域迷宮ではアンデッドモンスターしか出てこない。
 しかし、私にしてみれば好都合。

 私の持つ『神聖魔法』はアンデッドモンスターに対して効果抜群。
 加えて『聖属性魔法』も使える。更にいえば、現在の私はロプト神様の敬虔なる使徒だ。

 アンデッドモンスター如きに負ける道理はない。
 私はアンデッドモンスターを消滅させる効果のある『聖属性魔法』、『聖なる光ホーリーライト』を宙に浮かべると、両手に杭を持ち迷宮攻略を開始した。

 迷宮攻略を開始して二時間。
 十階層のボスモンスター、デーモンのいるボス部屋へと到着する。
 到着してすぐ、ボス部屋の扉を開け部屋の中を進んでいくと、部屋の壁の至る所に魔方陣が刻まれている事に気付いた。
 その場所を通り過ぎようとすると、突然、魔方陣から黒い靄が立ち昇り、黒い靄が椅子に座りながら鎌を構え、黒い襤褸切れを身に纏った骸骨が現れる。

 これが十階層のボスモンスター、デーモン。
 デーモンは、椅子から立ち上がると、鎌をこちらに向け、襲い掛かってきた。
 鎌を振り上げると、私に向かい振り降ろしてくる。

「あら? あらあらあらあら、ただの骸骨の割に中々、やりますね。でも、でもでもでもでも、これで終わりです……」

 手に持つ杭で、デーモンの鎌をいなすと、十数の『聖なる光ホーリーライト』をデモーンの周りに浮かべていく。

『ぐ、ぎゃぁぁぁぁ!』

 これはテレパシーだろうか?
 頭の中にデーモンの悲鳴が響き渡る。
 しかし、流石はボスモンスター、十数の『聖なる光ホーリーライト』を受けてなお、消滅しない。流石は『聖域迷宮』のボスモンスター、通常のボスモンスターとは一味違う。

「……まだ消滅しませんか。しかし、これほどの素体、ボスモンスターにしておくのは勿体ないですねぇ」

聖なる光ホーリーライト』にもがき苦しむデーモンの下に近付くと、私は微笑みを浮かべた。

「あなた、中々、有望そうですね……。この魔法を掛けるのは初めての事ですが、やって見る事にしましょう『昇天』」

『昇天』の魔法を掛けると、絶叫を上げる。
 そして『昇天』の光を受けた体表が黒く染まり、ボロボロ落ちると、『昇天』の光が止む頃には、三対六枚の翼を持つ熾天使がそこに横たわっていた。

『昇天』は、『堕天』と正反対の魔法。
 悪魔や堕天使、アンデッドモンスターを正統側へと導く『神聖魔法』である。

「さあ、私の声が聞こえますか?」

 私はデーモンから姿を変えた熾天使に向かってそう呟く。
 熾天使は怯えた視線を浮かべながら、こちらに顔を向けた。『昇天』の魔法は成功した様だ。
 この熾天使に敵意は見られない。

「どうやら成功の様ですね。あなたの名は?」
「わ、私はラファエル……熾天使ラファエルだ……」
「そうですか……それは素晴らしい……」

 随分と怯えている様だが、これなら問題ないだろう。
 私は一度、怯える熾天使を気絶させると、熾天使の頭を膝の上に乗せ矯正を施す事にした。
 このモンスター、いや、この熾天使は元々はデーモンだった存在。
 私の熾天使となったからには、私の思い描く天使像をこれに刻まねばならない。

 そう考えた私は、悪夢をみているかのようにうなされる熾天使の頭を撫でながら、念入りに矯正を施す事にした。
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