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第十一章 オーランド王国動乱編

第461話 復活のオーディン②

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「暴動を起こした奴等は状況をわかっているの……今は一丸となって戦わなければならない時よ? しかも兵士が反旗を翻し暴動を起こすなんて……すぐに鎮圧に向かいなさい!」
「し、しかし、反旗を翻した者の中には、隊長格の者も多く、鎮圧するには、相当の被害が……いかが致しましょうか……」
「いかが致しましょうかって……それでも鎮圧する他ないじゃない! それ以外に何をしろっていうのよ!」

 この兵士……まさか、この私にその隊長の説得をしろと、そんな事を言っている訳じゃないわよね?

「い、いえ、ですが……しかし……」
「だったら…… 」

 そう言いかけると、オーディンが連れてきた神の内、一人が手を挙げる。

「でしたら、この私がその鎮圧に向かいましょうか?」
「えっ?」

 そう言ったのは、美しく光り輝く美貌と白いまつ毛を持つ神。

「ふむ。確かに、バルドルが出向けば暴動の鎮圧など些事であろう。どうする、フィン? 手伝ってやろうか?」
「よ、よろしいのですか?」
「バルドルがそう言うのであれば仕方がない。好きにやらせてやってくれ」

 この神、名をバルドルというらしい。
 しかし、これはチャンスだ。
 神の力をどう測ろうか考えていたが、思わぬ所でチャンスが巡ってきた。

「それでは、バルドル様。お願いできますでしょうか?」

 しおらしくお願いをすると、バルドルが優しく微笑みを浮かべる。

「ええ、私にお任せ下さい。それでは、行って参ります」
「え、ええっ」

 私がそう呟くと、バルドルと名乗る神が光の粒となり消えていく。おそらく、暴動鎮圧に向かったのだろう。

 しかし、大丈夫だろうか?
 元主神と嘯くオーディンは使えない槍なし槍神だったし、そのオーディンが太鼓判を押す神だ。
 お願いしておいてなんだが、心配になってきた。

「心配するな」

 すると、胸中を察してかオーディンが話しかけてくる。

「バルドルは、ワシと我が妻フリッグの子にして光の神。戦闘能力を持たぬ代わりに、ある特性を持っている」
「ある特性?」

 その特性、勿体ぶらずに、さっさと教えてほしい。

「ああ、我が妻フリッグは世界中の生物・無生物にバルドルを傷つけないよう約束させたのだ。この世にバルドルを害する事ができる者は存在しない。それにだ……バルドルには、万人に愛されるという特性を持っている」
「愛される特性……」
「そうだ。この特性が中々、厄介でな……バルドルの振り撒く光に触れたモノは万物問わずに魅了されてしまうのだ」

 万物を問わず魅了する力……。
 確かに、それは確かに恐ろしい力だ。

 昔、ある一人の美女に心を奪われた王が、国を崩壊に追い込んだという話を聞いた事がある。

 光の神、バルドル。
 オーディンより強いのではないだろうか?

「そう……そんな方が味方について頂けるだなんて、流石はオーディン様ですわ」
「ふふふっ、まあな……さて、バルドルの様子を見てみよう」

 オーディンはそういうと、どこからともなく椅子を取り出した。

「これは、ワシの神器『王座フリズスキャールヴ』だ。これに座り、『ヴァルハラ』の力で映像を壁に投影すれば、バルドルの事を観戦する事ができる」

 オーディンが『王座フリズスキャールヴ』に座ると、壁に映像が投影される。

「こ、これは……」
「これが、王座の力だ。見てみよ。バルドルが到着したみたいだぞ」

 壁に投影された映像を見ると、暴動を引き起こした兵士達と、それを見下ろすバルドルの姿が映っている。

「あ、あの数の兵士を相手に……本当に大丈夫かしら……」

 反旗を翻した兵士の数は想定していたより多かった。
 民衆も巻き込み、その数は一万人に達しようとしている。

「ふふふっ、バルドルであれば問題なかろうよ」

 すると、頭の中にバルドルの言葉が響いてくる。

『それでは、父上。終わらせますね?』
「ああ、お前の力をフィンに見せ付けてやれ」
『はい。それでは、フィン様もご覧下さい。これが、私の力です』

 そういうと、バルドルの周囲に光の粒が浮かんでいく。その光の粒は自由奔放に空中を漂うと、バルドルが指し示す方向に向かって流れ始めた。

 兵士達も異変に気付いたようだ。
 バルドル以外の音声がない為、臨場感に欠けるが、兵士達がバルドルに向かって叫び声を上げている姿が映る。

 バルドルが微笑むと、大量の光の粒が兵士達を襲った。
 光の粒は兵士達の身体に吸い込まれる様に消えていく。すると、兵士達の表情が瞬く間に変わった。

「オーディン様。バルドル様は一体何をされたのですか? あれが万物を魅了する力なのでしょうか?」
「うむ。その通りだ。兵士達の顔をよく見てみよ」

 見ると兵士達の硬い表情が崩れ、バルドルに熱狂的な視線を向けている。

 バルドルに攻撃は効かず、光の粒に触れたモノは、万物を問わず魅了されてしまう。なんて恐ろしい力なのだろうか。

「ふふふ、ここに一万を超えるバルドルの熱狂的な信者が誕生した。バルドルに魅了されたモノは、バルドルの願いを死んでも叶えようとする。よかったな、フィン。死兵が手に入ったぞ」

 投影された映像に視線を向けると、バルドルが兵士達に向かって手を振っている。
 私は、それを固唾を呑んで見守ることしかできなかった。
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