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第十章 冒険者ギルド編
第431話 縋るモルトバ③
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奴隷商人の老人、トーマスは不気味な笑顔を浮かべたまま、床に伏す冒険者達の顔に視線を向けると、視線はそのままにモルトバへと声をかけた。
「女に白金貨を貢いだリンベル、博打で作った借金を白金貨で完済したばかりのターニャ、土地と建物を購入したばかりのドルトイ、旧友と店を始めようとしていたバッサゴ……そして、魔剣を購入したミルイ……ふむ、此奴らは資産ごと全てワシが買い取るとして、締めて白金貨五千枚といった所じゃな……」
トーマスのその言葉に、モルトバは唖然とした表情を浮かべる。
そしてその表情を、徐々に曇らせていった。
「な、何だと……は、話が違う! 一人頭白金貨四千枚で買い取ってくれると言っていたではありませんか!」
モルトバのその言葉に、トーマスは惚けた表情を浮かべる。
「最近、耳が遠くてのぉ……おい。そこの……なんといったかな? おい、お前だ、お前……。モルトバとの交渉の時、お前も一緒にいたなぁ? ワシはそんな事を言ったかのぉ?」
トーマスが護衛の一人に声をかけると、護衛は首を振りながら答えた。
「……いえ、私もその様な事は聞いておりません」
「そうだよなぁ? モルトバよ。商人に対して嘘はいかんよ。嘘は……」
「う、嘘だなんて、そんなっ! わ、私は確かに……言って下さったではありませんかっ! 一人当たり白金貨四千枚で買い取ってくれると!」
「ああっ?」
モルトバの言葉に、トーマスは剣呑な視線を向ける。
すると、空気を察した護衛の一人がトーマスに向かって口を開いた。
「……ああ、そういえば、あの時のモルトバ様は随分と眠たそうな表情を浮かべておいででした。もしかして、夢を見られていたのではありませんか?」
護衛の一言に、モルトバは唖然とした表情を浮かべる。
「お、おお、そうか、そうか……そういえば、随分と眠たそうな表情を浮かべておったな。モルトバよ。お前は夢を見ていたんだ。証人もいるし間違いない。なあ、そうだよなぁ?」
「い、いえ、しかし、白金貨二万枚が白金貨五千枚になるのは……」
「……お前さん、何か勘違いをしちゃいないか? ワシは別にこの奴隷共を買い取らなくてもいいんだぞ? 別に無理をしてまで買い取りたいとも思っていないしなぁ。お前さんが買い取って欲しいというから買い取ってやると言っているんじゃないか……そう、これは厚意だよ」
「で、ですが、しかし……」
モルトバがそう渋ると、トーマスは立ち上がる。
「……そうか、それでは残念ではあるが、この奴隷の買取は白紙じゃな……」
「そ、そうですね……今回の所は……」
「……しかし、お前さんはそれでいいのか?」
トーマスが床に転がされている冒険者達に視線を向ける。
その視線を追い冒険者達の目を見ると、その目は憎悪に染まっていた。
「ひっ……!」
「……この奴隷共の首輪を外したら、どうなるんだろうなぁ? まあ、ワシには関係ない事だが……奴隷に堕とされそうになったんだ……首輪を外した瞬間、お前さんに襲いかかってくるんじゃないか?」
た、確かにそうかもしれない。
ここでトーマスに買い取って貰わなければ、間違いなく奴等は襲いかかってくる。
それに、冒険者を借金奴隷として売り払った事が外部に漏れれば、白金貨を持つ他の冒険者達が私からの呼び出しに応えてくれる可能性もゼロに……。
「わ、わかったっ! わかったよ! 白金貨五千枚でいいっ!」
「……いや、白金貨四千枚じゃ」
「はぁっ!? だ、だってさっき白金貨五千枚って……」
モルトバの言葉に、トーマスは髭を詰りながらそう呟く。
「それはさっきまでの買取価額じゃ。白金貨四千枚、それが今の価額じゃよ……それで、どうする? 白金貨四千枚で売るのか、売らないのか……」
「わ、わかった……し、白金貨四千枚でいい」
「……そうか、それはよかった。それではお前達、その奴隷共の顔に布を被せろ……なぁに、お前達は運が良い……既に買い取り先も決まっている。借金奴隷とは思えないほどの厚遇がお前達を待っているさ……。しかし、今はワシの奴隷。向こうに渡すまでの間はワシの物じゃ……。ああ、モルトバよ。奴隷の買取代金は最後の奴隷の引き渡しが終わったらちゃんと振り込んでおいてやる。ほれ、これがその明細じゃっ」
トーマスはそういうと、モルトバに目録を放った。
「め、明細……?」
モルトバは手に持っていた魔剣を置き、それを拾うと、目を剥きながらそれを確認する。
そこには、これから十日の間に呼び付ける予定の冒険者達の買取代金が書かれていた。
総額に視線を向けると、そこには白金貨二十万枚と書かれている。
「こ、これは一体なんですかっ! こ、こここっ、これでは白金貨百万枚に遠く及ばないではありませんかっ!」
「ああっ? 当り前じゃ……いつかは解放しなければならない借金奴隷如きの借金を肩代わりしてやる理由などないわ。白金貨も随分と使ってしまっている様だしのぉ」
そう言いながらモルトバの隣りまでゆっくり歩くと、トーマスは魔剣を手に取り、大切そうに鞘に納める。
「これも貰っておくぞ」
「そ、それには白金貨千枚の価値がっ……」
「そんなの知った事ではないわ……どうやらお主は分かっていない様だなぁ? モルトバ、お前の前には今、二つの道がある」
「ふ、二つの道っ?」
「ああ、一つ目の道は、お主が配った白金貨……それを返還せぬ冒険者全てをワシに売り渡す道。二つ目の道は渡さぬ道だ……まあ、その場合、お主が冒険者を奴隷商人であるワシに売り払おうとした事を公表させて貰うがのぉ?」
「う、ううっ……」
最早、私に拒否する権利はないらしい。
「わ、わかりました。冒険者達を借金奴隷としてお売り致します……」
「そうか、それは良かった。それでは、護衛諸君、後の事は頼んだよ……」
私の返事を聞いたトーマスは楽しげに笑うと、そう呟きながら一人の護衛と共に部屋を出て行った。
「女に白金貨を貢いだリンベル、博打で作った借金を白金貨で完済したばかりのターニャ、土地と建物を購入したばかりのドルトイ、旧友と店を始めようとしていたバッサゴ……そして、魔剣を購入したミルイ……ふむ、此奴らは資産ごと全てワシが買い取るとして、締めて白金貨五千枚といった所じゃな……」
トーマスのその言葉に、モルトバは唖然とした表情を浮かべる。
そしてその表情を、徐々に曇らせていった。
「な、何だと……は、話が違う! 一人頭白金貨四千枚で買い取ってくれると言っていたではありませんか!」
モルトバのその言葉に、トーマスは惚けた表情を浮かべる。
「最近、耳が遠くてのぉ……おい。そこの……なんといったかな? おい、お前だ、お前……。モルトバとの交渉の時、お前も一緒にいたなぁ? ワシはそんな事を言ったかのぉ?」
トーマスが護衛の一人に声をかけると、護衛は首を振りながら答えた。
「……いえ、私もその様な事は聞いておりません」
「そうだよなぁ? モルトバよ。商人に対して嘘はいかんよ。嘘は……」
「う、嘘だなんて、そんなっ! わ、私は確かに……言って下さったではありませんかっ! 一人当たり白金貨四千枚で買い取ってくれると!」
「ああっ?」
モルトバの言葉に、トーマスは剣呑な視線を向ける。
すると、空気を察した護衛の一人がトーマスに向かって口を開いた。
「……ああ、そういえば、あの時のモルトバ様は随分と眠たそうな表情を浮かべておいででした。もしかして、夢を見られていたのではありませんか?」
護衛の一言に、モルトバは唖然とした表情を浮かべる。
「お、おお、そうか、そうか……そういえば、随分と眠たそうな表情を浮かべておったな。モルトバよ。お前は夢を見ていたんだ。証人もいるし間違いない。なあ、そうだよなぁ?」
「い、いえ、しかし、白金貨二万枚が白金貨五千枚になるのは……」
「……お前さん、何か勘違いをしちゃいないか? ワシは別にこの奴隷共を買い取らなくてもいいんだぞ? 別に無理をしてまで買い取りたいとも思っていないしなぁ。お前さんが買い取って欲しいというから買い取ってやると言っているんじゃないか……そう、これは厚意だよ」
「で、ですが、しかし……」
モルトバがそう渋ると、トーマスは立ち上がる。
「……そうか、それでは残念ではあるが、この奴隷の買取は白紙じゃな……」
「そ、そうですね……今回の所は……」
「……しかし、お前さんはそれでいいのか?」
トーマスが床に転がされている冒険者達に視線を向ける。
その視線を追い冒険者達の目を見ると、その目は憎悪に染まっていた。
「ひっ……!」
「……この奴隷共の首輪を外したら、どうなるんだろうなぁ? まあ、ワシには関係ない事だが……奴隷に堕とされそうになったんだ……首輪を外した瞬間、お前さんに襲いかかってくるんじゃないか?」
た、確かにそうかもしれない。
ここでトーマスに買い取って貰わなければ、間違いなく奴等は襲いかかってくる。
それに、冒険者を借金奴隷として売り払った事が外部に漏れれば、白金貨を持つ他の冒険者達が私からの呼び出しに応えてくれる可能性もゼロに……。
「わ、わかったっ! わかったよ! 白金貨五千枚でいいっ!」
「……いや、白金貨四千枚じゃ」
「はぁっ!? だ、だってさっき白金貨五千枚って……」
モルトバの言葉に、トーマスは髭を詰りながらそう呟く。
「それはさっきまでの買取価額じゃ。白金貨四千枚、それが今の価額じゃよ……それで、どうする? 白金貨四千枚で売るのか、売らないのか……」
「わ、わかった……し、白金貨四千枚でいい」
「……そうか、それはよかった。それではお前達、その奴隷共の顔に布を被せろ……なぁに、お前達は運が良い……既に買い取り先も決まっている。借金奴隷とは思えないほどの厚遇がお前達を待っているさ……。しかし、今はワシの奴隷。向こうに渡すまでの間はワシの物じゃ……。ああ、モルトバよ。奴隷の買取代金は最後の奴隷の引き渡しが終わったらちゃんと振り込んでおいてやる。ほれ、これがその明細じゃっ」
トーマスはそういうと、モルトバに目録を放った。
「め、明細……?」
モルトバは手に持っていた魔剣を置き、それを拾うと、目を剥きながらそれを確認する。
そこには、これから十日の間に呼び付ける予定の冒険者達の買取代金が書かれていた。
総額に視線を向けると、そこには白金貨二十万枚と書かれている。
「こ、これは一体なんですかっ! こ、こここっ、これでは白金貨百万枚に遠く及ばないではありませんかっ!」
「ああっ? 当り前じゃ……いつかは解放しなければならない借金奴隷如きの借金を肩代わりしてやる理由などないわ。白金貨も随分と使ってしまっている様だしのぉ」
そう言いながらモルトバの隣りまでゆっくり歩くと、トーマスは魔剣を手に取り、大切そうに鞘に納める。
「これも貰っておくぞ」
「そ、それには白金貨千枚の価値がっ……」
「そんなの知った事ではないわ……どうやらお主は分かっていない様だなぁ? モルトバ、お前の前には今、二つの道がある」
「ふ、二つの道っ?」
「ああ、一つ目の道は、お主が配った白金貨……それを返還せぬ冒険者全てをワシに売り渡す道。二つ目の道は渡さぬ道だ……まあ、その場合、お主が冒険者を奴隷商人であるワシに売り払おうとした事を公表させて貰うがのぉ?」
「う、ううっ……」
最早、私に拒否する権利はないらしい。
「わ、わかりました。冒険者達を借金奴隷としてお売り致します……」
「そうか、それは良かった。それでは、護衛諸君、後の事は頼んだよ……」
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