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第十章 冒険者ギルド編

第424話 冒険者ギルド本部

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 ここは全国にある冒険者ギルドを統括する冒険者ギルド本部。
 ここでは、冒険者ギルドの最高職位にあたるグランドマスター、グランが執務にあたっていた。

 グランドマスターの仕事内容は、商人連合国アキンドや国との交渉、有事の際における冒険者の派遣、各冒険者ギルドの損益管理等、多岐に渡る。

 最近になって、オーランド王国発と思われる疫病が国々に蔓延している。また、その疫病が迷宮のボスクラスモンスターに感染し、各国に撒き散らからせている事もグランの頭を悩ませていた。
 さらに、このタイミングでオーランド王国が近隣諸国に対し、宣戦布告を行うなど、情勢は混乱を極めている。

 オーランド王国からの宣戦布告に対応する事も大切ではあるが、まずは疫病をばら撒いているボスクラスモンスターを倒さない事には被害が大きくなるばかりだ。

 それに各国からSランク冒険者やAランク冒険者などの高ランク冒険者の出動を要請され、ギルドマスターを経由して、冒険者達にはその要請にできる限り応えてくれるようお願いをしている。

 ただ、その一方で、多くの高ランク冒険者が、ボスクラスモンスター討伐に向かってしまった為、冒険者ギルドの業務の一部、例えば、高ランク冒険者に対する護衛依頼の減少や、高ランク冒険者が国外に向かった事による素行の悪い冒険者の統制が上手く取れない等、深刻な問題も起きている様だ。

 特に顕著なのが、フェロー王国。
 何故かはわからないが、この国では全くと言っていいほど、疫病やボスクラスモンスターの被害がない。

 ただ、問題もある……。

「ヴォーアル迷宮の踏破に、護衛依頼減少……確か、ここはギルドマスターをローテーションしたばかりだったな、早い所、ギルドマスターのモルドバに連絡を取らなければ……」

 一応、冒険者ギルド本部としての見解書を送っておいたが、目を通してくれているだろうか?

 冒険者ギルドのギルドマスターに就任する者は、元Aランク冒険者が多い。
 高ランク冒険者ほど、貴族や商人からの依頼が多くなる為、礼儀を覚える者が多く。腕っ節も強い為、荒くれ者共が大半を占める冒険者達の統制を取るのに、丁度いい為だ。

 最低限の常識を持っている事は、ギルドマスター就任前に確認するものの、それも、あくまで最低限のもの……ギルドマスターの中には、時に重篤な問題を起こし、責任問題に発展する事も多くなっている。

 通信用の魔道具を手に取り、フェロー王国王都のギルドマスター、モルトバに連絡を取ろうとすると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

「入ってくれ」

 グランが扉に向かってそう呟くと、焦り顔を浮かべたギルド職員が部屋の中に入ってくる。

「グランドマスター、フェロー王国の件で、大変な事が……」
「大変な事、なんだそれは?」
「まず、フェロー王国王都を活動拠点としていたSランク冒険者、佐藤悠斗氏が冒険者ギルドを脱退しました」

 ギルド職員の言った言葉に、グランは思わず立ち上がる。

「な、何っ!? Sランク冒険者が冒険者ギルドを脱退しただとっ!?」
「は、はい」

 数少ない冒険者ギルドの特級戦力、Sランク冒険者の脱退は今の冒険者ギルドにとって頭の痛い問題だった。

「ぐっ、何故、このタイミングで……とはいえ、脱退されては仕方がない。しかし、何故、彼は冒険者ギルドを脱退したのだ……」
「は、はい。ど、どうやら、フェロー王国王都支部のギルドマスター、モルトバ様がSランク冒険者である悠斗様に何やら無茶な要求をした様でして……それが原因で、悠斗様は脱退を決意された様です」
「モルトバが? モルトバは悠斗に何を要求したのだ。Sランク冒険者が冒険者ギルドを見限り脱退するなど、余程の事がなければ、あり得まい」

 すると、ギルド職員が封筒を渡してくる。

「うん? ユートピア商会……ああ、最近、商人連合国アキンドの評議員に選出された傑物のいる大商会ではないか……いや、まて。たしか、この商会の会頭は……」
「はい。Sランク冒険者の佐藤悠斗様です」

 その言葉に、グランは顔を青褪める。

「ま、ままままっ、まさか、モルトバの奴、ユートピア商会を……商人連合国アキンドの評議員を敵に回した訳ではあるまいなっ!?」

 だとしたら大問題だ。
 ユートピア商会は商人連合国アキンド議席数の半数を握っている。
 場合によっては、商業ギルドと冒険者ギルドとの提携関係を解消されてしまうかもしれない。

 強張った表情を浮かべ、封筒を開くと、そこには白金貨二千万枚に及ぶ請求書と、抗議文が入っていた。

 抗議文には、何故、この抗議文を送るに至ったのか、事細かに記載されている。

「な、ななななっ! モルトバの奴は何をやっているのだぁぁぁぁ!」

 抗議文の内容にグランは大声を上げる。
 商人連合国アキンドの評議員半数を敵に回し、白金貨百万枚までせしめているのだ。

 その結果がSランク冒険者である佐藤悠斗の脱退、そして、白金貨二千万枚にも及ぶ賠償金を招いたとすると、頭が痛い。

「じ、実はまだ報告する事がありまして……」
「ま、まだあるのかっ?」
「は、はい。おそらく、この件と関係しているのではないかと思いますが、商人連合国アキンドの評議員の一人が、商業ギルドでも迷宮内で活動できるよう、フェロー王国の現国王、シェトランド陛下より許可証を得た様でして……」
「な、なんだと……」

 迷宮で活動する権利は今まで冒険者ギルドにのみ許された権利。それが、フェロー王国限定とはいえ、商業ギルドにも許可された事に驚きの表情を浮かべる。

 どうやらすぐにでも事実確認をする必要がありそうだ。
 グランは通信用の魔道具を手に取ると、早速、フェロー王国王都支部のギルドマスター、モルトバに通信をかけた。
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