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第九章 商人連合国アキンド編

第374話 評議員選挙④

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 ちなみにこれが、候補者名簿に記載されている候補者達の一覧だ。

 候補者①:バグダッド
 候補者②:マスカット
 候補者③:クレディスイス
 候補者④:ハメッド
 候補者⑤:トーマス
 候補者⑥:ジェラール
 候補者⑦:ユウト悠斗
 候補者⑧:チンジュガミ鎮守神
 候補者⑨:ヤシキガミ屋敷神
 候補者⑩:ロキ

 その候補者の一覧の中に、ある意味では俺以上にヤバい神の名前が載ってる。

「ち、ちなみに、誰がロキさんの事を候補者に選んだの?」
「本人による立候補でございます」
「そ、そうなんだ……それじゃあ、仕方がないね……」

 何故立候補したのかよく分からないが、理由もなくロキさんの立候補を止める事はできない。
 万が一、ロキさんが『代表』の座についたらとんでもない事になりそうだ。

「まあ、その話は置いておきましょう。ロキが『代表』の座に就いたとしても我々が牽制すれば済む事です」
「そうだね……」

 これは責任重大だ。
 なんだか国の運営どころの話ではなくなってきた様な気がする。
 国の運営よりも、ロキさんの暴走をどう止めるかが肝要だ。
 もしロキさんの暴走を許せば、最悪、国が亡びかねない。

「ちなみに投票は各国の商業ギルドで執り行い、約一ヶ月後に当選者が確定します。期間中、選挙活動等を行う候補者もおりますが、我々はすでに組織票を獲得している為、立候補してしまえば、やる事は殆どありません。その間に我々は、トゥルクを初めとした現評議員、四名が経営する商会の掌握に走りたいと思います。悠斗様はその間、こちらで重要書類の確認と捺印作業をお願いします」
「えっ、いや、だったら王都に戻りたいんだけど……ショッピングモールとか見てみたいし……」

 ショッピングモール開店とほぼ同時期に、偽足場騒動に巻き込まれてしまった。
 そのおかげで、俺はまだちゃんとお客さんの入っているショッピングモールの姿を確認していない。

「悠斗様の気持ちは痛い程わかりますが、私と致しましては選挙が終わるまでの一ヶ月間、こちらを拠点に活動して頂けると助かるのですが……」
「じゃあ、選挙が終わるまでの一ヶ月間はこっちで過ごし、時より『影転移』で王都に戻る事にするよ。通信用の魔道具も持つ様にするし、それならいいでしょ?」
「そうですね。それで問題ありません。ああ、あと一点、お伝えしなければならない事があります」
「うん? どうかしたの?」
「実は以前、悠斗様がエストゥロイ領の領主様に渡した『影精霊』を宿したペンダントについてですが……」
「ペンダント? ああ……」

 そういえば、そんな物を渡した様な気がする。
 確か今は、シェトランドとシェトランドに頼まれて用意した分を国の要人達が使っている筈だ。

「そのペンダントを売って欲しいとの声が多く寄せられております。どうやら、そのペンダントを持っていた要人が襲われた際、それを持っていた事で事なきを得た様でして……その噂を聞いた国や領、商人達からの問い合わせが多く……」
「ああ、そういう事……」

 しかし、ペンダントに宿した『影精霊』はAランク冒険者並みに強い。悪用されてしまえばアウトだ。

「断って貰う事はできないかな?」

 俺がそう言うと鎮守神は首を振る。

「あまりの反響にエストゥロイ支部では、一部業務に支障が出ております。例えば、そのペンダントに制限を付け販売するなど、ご検討頂けないでしょうか?」
「で、でも犯罪者が持ったら危険だし……」
「精霊も馬鹿ではありません。犯罪行為を働こうとしたら、逆に影精霊に襲われる。その様に、言い聞かせればいいのです」
「えっ? そんな事できるの?」

 驚愕の事実だ。
 まさか影精霊にそんな事まで言い聞かせる事ができるとは思いもしなかった。

「はい。勿論です。精霊は人間より高位の存在。人間の定める善悪の判断を理解させる事位簡単にできます。それでは、販売を許可して頂けますか?」

 鎮守神の問いかけに、俺は少し考え込む。
 鎮守神はそう言うが、本当に大丈夫だろうか?
『影精霊』を宿したペンダントの販売。何かとんでもない事が起こりそうな気がしてならない。

 とはいえ、問い合わせが殺到して、既に一部業務に支障がでているのも事実。

「わかったよ。でも『影精霊』を付与したペンダントの販売はできるだけ抑えたい。販売金額は今、ユートピア商会で販売されている一番高額な魔道具より高い金額をつける事。それが条件かな?」

 高額であれば、ある程度の購買意欲は抑制される筈だ。

「ありがとうございます。それでは、取り敢えず千個程こちらのペンダントに『影精霊』を付与して頂いてもよろしいでしょうか? その後の細かい設定はこちらで行いますので……」
「えっ、千個も?」
「はい。既に『影精霊』を付与させるペンダントの用意は済んでおります」
「ええっ……」

 鎮守神はそう言うと、テーブルの上にペンダントを並べていく。
 まさか、これ全部売り切るつもりなのだろうか。

 俺が鎮守神に視線を向けると、鎮守神はニコリと微笑みを浮かべる。

「どうかされましたかな?」
「い、いや、別に……これに『影精霊』を付与していけばいいんだよね?」
「はい。こちらの五百個に『影精霊』を一体。こちらの四百個に『影精霊』を三体。残り百個に『影精霊』を十体付与して頂けますよう、お願いします」
「う、うん。わかったよ」

 これどう考えても売り切る気満々の様だ。
 金額に差を付けて売るつもりだろう。

 俺は鎮守神に言われた通り『影精霊』を付与していく。そして、千個あるペンダント全てに『影精霊』を付与する頃には、窓から夕日が差していた。
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