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第九章 商人連合国アキンド編

第359話 元バルト商会での一幕②

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「ほ、程々にね? 本当に程々でいいからね?? いつの間にか商人連合国アキンドの全てを掌握していました、とか、評議員の席は全て悠斗様のものですとか、そういうのは本当にいいからね?」
「悠斗様は心配性ですね。ご安心下さい、悠斗様。鎮守神は私がフォロー致しますので……」

 俺が心の底から心配という表情を浮かべていると、屋敷神が鎮守神のフォローをすると言い出した。

「屋敷神にはフェロー王国の王都の管理を任せてるよね? これ以上、仕事を増やして大丈夫なの?」

 鎮守神は目を離すと何をしでかすか分からない。
 その事は今回の一件でよく分かった。
 今の所、心の底から安心して物事を任せる事ができるのは屋敷神と土地神のニ柱だけだ。

 しかし、現状、あまりにも屋敷神に仕事が寄り過ぎている。
 神様に過労という概念があるかはわからないが、屋敷神が人間であれば、過労死しているか、ノイローゼになっていてもおかしくはない。

 俺が心配そうな表情を浮かべると、屋敷神が耳打ちをしてくる。

『ご安心下さい。鎮守神のフォローはそんなに大変ではありません。それに鎮守神の行動は全て悠斗様のことを思っての事、商人連合国アキンドの支配も後世の憂いを無くす為、必要な事だと考えているのでしょう。この国を抑えておけば、今回の事態も未然に防ぐ事ができたでしょうからね』
『そ、そう?』

 えっ? ていうか、屋敷神も商人連合国アキンドの支配推奨派なの?
 未然に防いだ結果、ユートピア商会で働く人形がさらに倍増しそうな気がするんだけど……。

 いや、深く考えるのは止めよう。これ以上、この件について深く考えるのは俺の精神安定状良くない。

 俺は目を閉じると、椅子に座ったまま深呼吸をする。

 深呼吸には、副交感神経を刺激し、交感神経優位の身体をリラックスした状態にする効果があるらしい。人間の体というのは不思議なもので、日中活動している時は交感神経が、夜になってリラックスしたり睡眠などの休憩を取っている時は副交感神経が優位になり身体のバランスを整えている。

 ストレスと上手に付き合っていく為にも、深呼吸は大切だ。
 この世界に来て、深呼吸の大切さというものを強く思い知った。

 俺が深呼吸をしていると、部屋の扉が開き人形達が台車と共に入ってくる。
 軽く目を開け、部屋に入ってきた人形を見ていると、人形達は『奴隷の首輪』を首に嵌めた三人を台車に乗せ、そのまま部屋から去っていってしまった。

「…………」

 これも、もう見慣れた光景だ。
 見慣れた光景ではあるが……。

 俺は再び目を閉じると深呼吸をする。

 今のは夢に違いない。今のは夢に違いない。今のは夢に違いない。今のは夢に違いない。

『奴隷の首輪』を首に嵌めた三人の評議員なんて最初からここにいなかった。
 きっと俺は、椅子にもたれ掛かっている内に熟睡してしまったんだ。
 そうだ。そうに決まっている。
 考えても見ろ悠斗、よく考えて見ろ悠斗。
 普通あり得るだろうか、こんな状況?
 普通に生活を送っていたら絶対あり得ないだろ、こんな状況。

 現実を直視するな。直視したら現実を見るしかなくなるぞ。そうだ。ここは魔法の使えるファンタジーの世界。
 言わばネズミのいないネズミーランドの様なものだ。
 そう夢の世界だ。さっきのは悪い夢だったんだ。忘れよう。

「どうかされましたか、悠斗様? 気分が優れない様ですが……」

 俺が必死に現実逃避をしていると、鎮守神が現実に引き戻そうと話しかけてくる。

 心配そうな表情を浮かべる鎮守神を尻目に、もう一度深呼吸をすると目を開き鎮守神に向き合った。

「うん。大丈夫。ちょっと考え事をしていただけだよ」
「そうですか? 体調が優れない様であれば、ゆっくり休んで頂いていても構わないのですが……」
「いや、全然平気だよ。そういえばトゥルクさんの件はどうなったの?」

 鎮守神は、人災が起こる事を承知の上で足場材を脆い足場材に入れ替えていたトゥルクさんの事を公表すると言っていた。
 あれから数日経つし、なにかしらアクションがあってもいい頃だ。

「トゥルクの件ですか……勿論、首尾は上々です。ユートピア商会を陥れる為に行動していたトゥルク傘下の商会の者、そして、偽足場を交換して回っていた業者達については、皆仲良く人形になって頂きました」
「えっ、人形にっ!?」
「はい。それだけではございません」

 そういうと鎮守神は収納指輪から大量の白金貨を取り出し、床に積み上げていく。

「えっ? これは??」

 何故、白金貨を積み上げているのか分からず、呆然とした表情を浮かべていると、白金貨を積み終えた鎮守神が口を開いた。

「はい。こちらはトゥルクの経営するカジノで我々が稼いだ白金貨です。ざっと白金貨六百万枚はあります」
「ええっ……」

 俺がカジノで白金貨百万枚を稼いだ時、トゥルクさん随分と取り乱していた様な……。
 たった数日の間にこれだけの白金貨を取られてしまって、カジノ経営は大丈夫なのだろうか?

 想定より十数倍大変な目に遭っている。
 俺が逆の立場なら即倒してしまうかもしれない。

「勿論、この白金貨も当然悠斗様の物です。どうぞ、商会経営にお役立て下さい」
「う、うん……あ、ありがとう……」

 俺は積み上げられた白金貨の前に立つと、白金貨を収納指輪に収めていく。
 そして、目を閉じ深く息を吸い込むと、ため息と共に深く息を吐き出した。
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