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第九章 商人連合国アキンド編

第347話 ロキと紙祖神のカジノ⑦

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「うんうん♪ よ~くわかったよ。君には妄想癖があるんだね♪」

 そう言い放つと、『奴隷の首輪』を首に嵌めたライシオは呆然とした表情を浮かべた。

「も、妄想癖っ? 今のは幻聴かな? まさか私に向かって妄想癖がどうとか言っている訳ではないよな?」

『妄想癖』そう言ったにも関わらず、幻聴が聞こえると曰うとは、どうやらこの男、ポーカーで全てを失った影響で脳までイカれてしまったらしい。

 きっと自分にとって耳障りのいい言葉だけを聞き、都合の悪い話には耳を塞いできたに違いない。
 自分にとって相容れない言葉が聞こえた時、聞こえていたにも関わらず、敢えてそれを聞き直し、自発的に訂正を促すか、恫喝して訂正させる。
 権力を持っていると勘違いした人間にありがちな行動だ。

「あれ? 今言った言葉が幻聴に聞こえたの? 君の頭、大丈夫? 教会に万能薬を貰いにいった方がいいんじゃない?」
「なっ! き、君は私を愚弄するかっ!」

 そう言うと、男は怒りを露わにし掴みかかろうとしてきた。
 しかし、この男、自分の首に何が嵌まっているのか忘れているらしい。

「ぐっ! ああぁぁぁぁっ……」

 ボクに手を挙げようとした瞬間『奴隷の首輪』がそれを感知し、ライシオの首を絞め上げていく。
 ライシオはそれを止めようと、懸命に『奴隷の首輪』に手をかけるが、当然それは止まらない。

 首が絞まる苦しみに耐えながらカジノの床に這いつくばるライシオを見下ろすと、ボクはライシオに笑顔を向けた。

「いやぁ、苦しそうだねぇ♪ 『奴隷の首輪』が首に嵌っている事を忘れていたのかな? 何とも愚かで滑稽な姿だね♪ まあ、そんな事はどうでもいいか。君、色々と思い違いをしているよ。ボク達は鎮守神からターゲットに対する情報を受け取っている。その情報によれば君が評議員でいられるのも、商会経営に携われるのも全部、君の両親のおかげみたいじゃない」

 そう言うと『奴隷の首輪』の絞め付けが無くなったのか、ゲホゲホと咳をしながらライシオが反論してくる。

「ち、鎮守神? 何を言っているんだ君は……それに私は自分自身の力でこの地位についた。決して父親の力あっての事ではないっ!」
「商会経営が危うくなれば、両親から金を工面し、普段は毎日の様にカジノに遊びに来ているのに?」
「…………」

 ボクがそう言うと、ライシオは口を閉ざした。
 どうやら図星だったらしい。少し位反論して欲しかったが、何も言う事はないようだ。

「君の両親も大変だよね。成人したのに未だ手のかかる大きな子供を抱えて……白金貨五十万枚に目が眩んだ揚句、自分の運なんて不確かなものを過信し、自分の経営する商会を賭けの対象に巻き込むなんて馬鹿みたい♪ まあボクがそう要求したんだけど、損切りって言葉を知らないの? ボクに言わせれば、そんな君は経営者失格。不適格だよ。今まで上手くいっていた事がこれからも続くとでも思っていたの? 不味くなったらまた両親に泣きつくつもりだったのかな? そういえば君は言っていたね。

『私が君の奴隷となり評議員から、商会経営から手を引けば大変な事になるんだぞ? 君はそれでも良いと言うのかい? 君が私を奴隷にする事で数千、数万人もの人の生活が脅かされる。私を奴隷にするという事はそういう事だ』

 ってさ、両親の力や商会で君を支えてくれる従業員達を自分の力と思い込むのは勝手だよ? でもね、君は君の両親が創り上げた商会の従業員から疎まれている事に気付いた方がいい。もしかして『私が従業員に給料を払ってやっているから生活ができるんだ』とかそんな不遜な事思ってた? 思い上がりも甚だしいね♪

 君の生活や財産、評議員といった立場は両親の力と、商会で働く従業員達の『こんな奴でも経営者だから仕方がない』という諦めの気持ちと、無関心によって支えられてきたのさ。

 そりゃあ、誰もが嫌だよね♪
 商会を食い物にする害虫のために働くなんて。

 今更君が奴隷となりボク達の管理下に入った所で何も変わらない……いや、従業員達の働いていた成果を掠めとっていた害虫が報酬を受け取らなくなる分、商会経営が上向くかもね♪」

 ボクがそう言うと、ライシオは顔を真っ赤にさせ、再度、ボクに掴みかかろうとしてくる。

「き、貴様ぁぁぁぁ! 言わせておけば勝手な事ばかりっ! ふざけるんじゃあないっ! ぐっ! 首がっ! ああぁぁぁぁ……」

 どうやら『奴隷の首輪』を首に嵌めている事を忘れているらしい。そんな大事な事を忘れるだなんて、もしかしたら、脳に重篤な腫瘍があるのかもしれない。

「でも安心していいよ。評議員という立場にいる事だけは評価してあげる。これからは、鎮守神監修の元、悠斗様の為に操り人形として一生働くんだよ?
 大丈夫、もし君が評議員という立場以外使えない人間だとしても人形になればそんな事は関係ないからさ」
「ち、ちょっと待てっ! 私に何をするつもりだっ! だ、誰か、誰かこの餓鬼の暴挙を止めろぉぉぉぉ!」

 ライシオの言葉に影から見守っていた護衛や、付き添いの男達が動こうとするも、どこからともなく現れた人形達にナイフを突きつけられ動く事ができずにいた。

「誰も君を助けに来ないみたい。とても頼もしい部下を持ったものだねぇ♪ それじゃあ、またね♪」

 そう言うと『奴隷の首輪』に絞められ苦しむライシオを気絶させ、首根っこを掴みながら引き摺る様にカジノをまわる。
 イカサマを働いていたディーラーとライシオの仲間達は……ああ、他の客に気付かれない様、人形達が確保した様だ。人形達は優秀だね。鎮守神にいいお土産ができた。

「そういえば、紙祖神どうしたのかなぁ? さっきから姿が見えないみたいだけど……」

 キョロキョロしながらカジノを回っていると、一際、人の集まっているテーブルがあった。
 ライシオを引き摺りながら、そのテーブルに向かうと、そこには白金貨十数万枚分にもなりそうなチップの山が築かれている。
 そのテーブルには青褪めた表情を浮かべるディーラーと紙祖神の姿があった。

「紙祖神、なんだか凄い事になってるね♪ このチップどうしたの?」

 ボクが声をかけると、紙祖神がこちらに向かって振り返る。

「いえ、ロキ様が忙しそうでしたので、ルーレットとブラックジャックというゲームで遊んでいたらこんな事に……」
「へえ、紙祖神も鬼畜だね♪ こんなにチップを稼ぐなんて、見てみなよ。ディーラーが泣きながらルーレット回しているじゃない♪」

 ルーレットを回しているディーラーに視線を向けると、ディーラーが泣きながらルーレットを回していた。これだけの負債を叩き出したのだ。この人の未来はあまり明るくないかも知れない。

「それじゃあ、チップ全てを換金して帰ろう♪」
「そうですね、目的は達しましたし、帰りましょう」

 そういうと、ボク達はチップ全てを換金すると、気絶するライシオを引き摺りながら王都に戻る事にした。
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