上 下
269 / 486
第九章 商人連合国アキンド編

第319話 ヴォーアル迷宮掌握

しおりを挟む
 とはいえ、落ち込んでいても仕方がない。

 レベル100迄あと4レベル、人間を辞める事になる迄、あと5レベルか……。

 限界突破というレベル上限を超えるユニークスキルを手にしてしまった事で、人間を辞めさせられるかもしれない、とんでもない程のピンチを迎えてしまったが、これはもうどうしようもない事だ。

「さあ、悠斗様♪ 限界突破のユニークスキルも手に入れたし、早速、迷宮核に魔力を流し込みヴォーアル迷宮を手中に収めようよ~♪」
「そうそう。それに気落ちする事もない。限界突破のユニークスキルなんて中々、入手する事ができる様なものではないんだぞ」
「そ、そうだね……まあ、取り敢えず、迷宮核に魔力を注いでヴォーアル迷宮を手中に収めようか。それじゃあ、ロキさんとカマエルさん。大丈夫だとは思うけど、見張りよろしくね」
「任せておいて♪」
「ああ、任せておけ!」

 さあ迷宮核に魔力を注ごう。

 俺は迷宮核に手を置くと、魔力を流し込んでいく。
 すると、迷宮核が白く輝き出した。

「こ、これは……」
「大丈夫、大丈夫だよ~♪ その光が収まった時がこの迷宮を支配した証となるのさ♪」
「そうなんだ?」

 ロキさんは一度迷宮核に魔力を注いだ事があるのだろうか?
 なんでそんな事を知っているのだろう??

 まあいいか……。

 迷宮核に数十分間、魔力を流し続けると、頭がふわふわした感覚に襲われる。
 これは、王都を迷宮の支配下に置いた時も起きた現象だ。

 俺は床に置いた万能薬を片手で取ると、迷宮核に魔力を流し込みながら、万能薬を一気飲みした。
 すると、ふわふわとした感覚が薄れていき、意識がはっきりとしてくる。
 やはり万能薬は凄い。これなら、思った以上に早くヴォーアル迷宮を支配下に置く事ができそうだ。

 それから数時間後……。

「ゆ、悠斗様、凄い汗だが大丈夫か?」
「本当だね。悠斗様、少し休んだ方がいいよ?」
「もう少し、あともう少しで終わりそうだから、もう少しだけ頑張ってみるよ……」

 あれから何時間経ったか分からない。
 しかし、迷宮核の放つ光が段々と落ち着いてきたのだけは分かる。
 もう少し、もう少しの筈だ。

「あっ……ヤバいっ……」

 段々と意識が薄れてきた。

「だ、大丈夫! 悠斗様っ! 悠斗様っ!」
「悠斗様、迷宮核から手を放すんだっ!」

 ロキさんとカマエルさんが心配そうな表情を浮かべながら声をかけてくる。

「大丈夫……まだ大丈夫だから……あっ……」

 薄れていく意識の中で俺が最後に見たのは、迷宮核の光が収まり白色に染まった迷宮核。
 迷宮核の光が収まると共に、俺は意識を失う様に眠りについた。

「……うと様……斗様……悠斗様」

 誰かが俺を呼ぶ声に瞼を開けると、そこには心配そうな表情を浮かべている屋敷神の姿があった。

「悠斗様……お目覚めになられた様ですね。全く無茶をして……」

 えっ? なんで屋敷神がここに?
 朦朧とした意識のまま、屋敷神に問いかける。

「迷宮核は……ヴォーアル迷宮の迷宮核はどうなったの?」
「ご安心下さい。ヴォーアル迷宮は悠斗様の支配下に置かれました。悠斗様は魔力を使い過ぎて倒れたのです。今はゆっくりとお休み下さい」
「う、うん……分かった」

 そう言うと、俺はそのままベッドで横になる。
 すると、突然、部屋の扉があきロキさんとカマエルさんが入ってきた。

「悠斗様っ!? 意識を取り戻したんだね!」
「全く心配をかけて、しかし無事で良かった……」

 ロキさんとカマエルさんが開けた扉からフギンとムニンが入ってきて俺の肩に留まる。

「ロキさん、カマエルさん……それにフギン、ムニンまで……」

 フギンとムニンが「カアー」と鳴き声をあげると俺の服の袖に潜り込んできた。

「ふふふっ、くすぐったいよ。フギン、ムニン……」

 俺は服の袖の中に潜り込もうとするフギンとムニンの頭を撫でると、ロキさんのカマエルさんに視線を向けた。

「ロキさんもカマエルさんも心配かけてごめんね。そういえば、ロキさん達が俺をここまで運んでくれたの?」

 俺がそう呟くと、ロキさんとカマエルさんは苦笑いを浮かべた。

「悠斗様には怒らないで聞いてほしいんだ。普通の人であれば喜ぶような事ではあるんだけど、悠斗様が喜ぶとは限らないからね……」
「そ、そうそう。こればかりは仕方がなかったんだ。まずは深呼吸をして、心を落ち着かせてから話を聞いてほしい」

 えっ? 一体何だろう?
 なんだか凄く嫌な予感がする。
 俺は取り敢えず、カマエルさんに言われた通り大きく深呼吸をすると、カマエルさんに話かける。

「それで、一体何があったの?」
「実はあれから……」

 そこからの話は、かなり頭の痛くなる様な内容だった。
 俺が倒れた事により影転移で帰る予定だったロキさんとカマエルさんはかなり焦ったらしい。

「ど、どうする? どうすればいいんだこれ?」
「流石に悠斗様をこのままにしておく訳にはいかないしね……よし、それじゃあ、悠斗様を連れて外に戻ろうか♪」
「ど、どうやってっ!?」
「嫌だなぁ~決まってるじゃん♪ 悠斗様の影転移が使えない以上、歩いて戻るしかないよね♪」
「ゆ、悠斗様が起きるまでここで待つというのは?」
「悠斗様がどうなってもいいの? 万能薬も飲み過ぎだし、これ以上飲んだら死んじゃうかもしれないんだよ?」
「ううっ!?」
「じゃあ、決定だね♪ 早速、悠斗様を連れて迷宮の外に出ようか♪」

 その話を聞いた直後、レベルを確認してみると、俺のレベルは最後に確認したレベル96から2レベル上がった、レベル98レベルとなっていた。

 ステータスを見た俺は、人外への道を驀進しているこの状況に頭を抱えるのであった。

------------------------------------------------------------------
この度「転異世界のアウトサイダー」の書籍化が決定しました。
ここまで辿り着けたのも、皆様の応援のおかげです。
読んで下さっている皆様、コメントを下さっている皆様、誤字脱字指摘を下さる皆様、本当にありがとうございます。

刊行は2021年4月中旬を予定しています。
書影及びイラストレーター様の情報はまだ公開する事はできませんが、本作に勿体ない程、美麗なイラストを描いて頂きました。
宜しければ気に留めてみてください。

アルファポリス様で作品を楽しんで頂けている読者様に感謝を。そして、これからもよろしくお願いします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。