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第九章 商人連合国アキンド編

第309話 ヴォーアル迷宮攻略④

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「それじゃあ、第67階層に行ってみよ~♪」

 目には見えず、実はレイスだらけだった第66階層を抜け、次の階層に繋がる階段を見つけた俺達は早速、第67階層へと続く階段をおりていく。
 階段を降り前を向いて見ると、そこは暗い暗い建物の様な場所に繋がっていた。
 まるで深夜の学校の様だ。

「真っ暗だね~♪
「悠斗様の魔法がなければ、ここから先に進むのが難しかったかも知れないな」
「えっ、そう?」

 意外だ。ロキさんとカマエルさんにも難しい事があるなんて……。

「そうだぞ。聖なる光を使う事のできない私達では、断罪による光で辺りを照らしながら攻略する他ないからな」

 いや、別にそれでもいいのではないだろうか?
 魔石以外に旨みがないアンデッドモンスター相手なら寧ろ効率的な攻略方法に思える。

「そうそう♪ それにその方法じゃ悠斗様の怖がりは治らないからね」

 そんな事を言って、俺が心的外傷後ストレス障害になったらどうするというんだ。
 全くロキさんもカマエルさんも、こんなに長い事一緒にいるのに俺の事を何一つ理解していない。

 俺は高校生になったばかりの幼気な少年だというのに……。
 それにロキさんやカマエルさんと一体いくつ歳が離れていると思っているんだ。

「そうだね……それじゃあ進もうか……」

 俺は力なくそう言うと、真っ直ぐ通路を進んでいく。
 〔影探知〕で探って見るも、通路から見える部屋の中は行き止まり、となれば、真っ直ぐ通路を進んでいく他ない。

 すると、通路の真ん中に何か小さな物体が立っているのを探知する。

「待って、何かいるみたい」

 俺は聖属性魔法〔聖なる光〕を前に放ち、目の前に立ち塞がる小さな物体を照らしていく。
 するとそこには、一体の人形が置かれていた。

 その人形は青いオーラの様なものを身に纏わせると、ゆっくり浮かび上がり目を赤く光らせる。
 そして、俺達に顔を向けると、カタカタ音を立てながら口元を歪めた。

 正直な所、ロキさんとカマエルさんが側に居らず、ユートピア商会で働く人形を見ていなければ気絶していたかもしれない。

 身の危険を感じた俺は影魔法〔影纏〕を全身に纏う。
 すると、その人形が俺に飛びかかってきた。
 咄嗟に〔影刃〕で人形を斬り伏せようとするも、交わされてしまい、飛び付かれてしまう。

 飛び付いてきた人形に視線を向けると、目を赤く光らせ、カタカタと笑っている。

 正直、滅茶苦茶怖い。
 あまりの怖さに声を出せずにいると、人形はどこからともなくナイフを取り出し、俺に突き立ててくる。

 物理攻撃を無効化する影纏を纏っていなければ危ない所だった。

「「悠斗様っ!」」

 ギリギリまで事の推移を見守っていたロキさんと、カマエルさんが、大きな声を上げる。

 しかし、今の俺に余裕はない。
 軽いパニックを起こしながらも、強引に人形を引き剥がし、〔影刃〕で斬り付ける。

 すると、漸くして人形は動かなくなった。

 胸のドキドキが収まらない。
 周りの声は小さく、心臓の音は大きく聞こえる。
 少しの間、目を閉じて胸に手を当てていると気分が落ち着いてきた。

 冷や汗が凄い事になっている。
 人形に飛び付かれナイフを突き立てられた辺りで、冷や汗で服はびしょ濡れだ。

「……うと様! 悠斗……様! 悠斗様!!」

 俺を呼ぶ声に目を開くと、そこには慌てた様子のロキさんとカマエルさんの姿があった。

 なんだろうと思いながら、ロキさんの指差す方向に視線を向けると、無数の人形が窓に顔を張り付けこちらを覗いている姿と、無数の人形が通路の奥から迫ってくる姿を捉える。

 無数の人形がこちらに向かって迫りくる中、俺はゆっくり目を閉じると、そのまま気を失った。

 ◇◆◇

「ゆ、悠斗様!」
「悠斗様~! だ、大丈夫??」

 拙い。少しやり過ぎたかもしれない。
 悠斗様の今後を思い、墓地フィールドを克服させようとしたが完全に裏目に出てしまった。
 ま、まあ、多少……いや、ほんの少しだけ謹慎の意趣返しの意味もあったが……。
 まさか気絶するとは……。悠斗様の言っていた心的外傷後ストレス障害とやらにならぬといいが……。
 悠斗様の事はロキに任せるとして、まずは人形達を倒さなければならないか。

「ロキっ! 悠斗様の事は任せた!」
「うん♪ 任せておいて!」
「よしっ! それでは〔断罪〕」

 私はそう呟くと、断罪の光で人形達を消していく。

 そして、悠斗様が影刃で切り裂いた人形を手に取ると、苦笑いを浮かべた。
 これはアンデッドモンスターではない。

 〔天秤〕で人形の情報を読み取ると、どうやらこの人形、スケアードールという名の人形型モンスターの様だ。アンデッドモンスターに分類されるが、人形の形をしただけのモンスターの為、聖属性魔法〔聖なる光〕は効かない。

「これは、仕方がないな……。悠斗様には悪い事してしまった。ロキ、悠斗様の様子はどうだ?」
「うん。気絶しているだけみたい。安静にしていれば、すぐに目覚めると思うよ」
「そうか……」

 このまま墓地フィールドにいて、また悠斗様に気絶されては堪らない。

「それでは、悠斗様が気絶している隙に、第70階層迄進むぞ」
「うん♪ 分かった~♪」

 こうして私達は、悠斗様が気絶している間に第70階層のボス部屋まで向かう事に決めた。
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