上 下
255 / 486
第九章 商人連合国アキンド編

第305話 働く人形

しおりを挟む
「迷宮核の研究がひと段落つきましたか……それは喜ばしい事です」
「ええ、それにしても、迷宮核とは何て素晴らしいものなのでしょうか!? ああ、できる事なら永遠に私の物にしたい位ですわ」
「まあ、迷宮核を差し上げる事はできかねますが……それで、迷宮核について何が分かったのですか?」

 私がそうグレナ・ディーン学園長に聞くと、学園長は迷宮核を撫でながら呟いた。

「はい。迷宮核を任意の場所に置き魔力を込める事でその場所を迷宮にする事が可能な事は屋敷神様も知っておいででしょうか?」
「はい。存じております」

 グレナ・ディーン学園長は満足そうに頷くと話を続けた。

「それでしたら話は早い。検証を重ねた結果、迷宮核には、その迷宮核に込められている魔力以上の魔力を注ぐ事で、迷宮の支配権を乗っ取る事ができるという事が分かりました」
「ほう。それは素晴らしい研究成果ですね」
  
 もし迷宮核にその様な機能があるのであれば、迷宮核を取らずにして、迷宮を支配下に置く事ができる。しかし、その様な実験いつの間に……。

「学園長一人でその実験を行ったのですか?」
「も、勿論です! お預かりした迷宮核に他の者の魔力を込める為、生徒に目隠しをして迷宮内に誘き寄せ迷宮核に魔力を注いで貰うだなんて事、一切しておりません」
「…………」

 これは、自白でしょうか?
 全くこれだから人間というのは……。

 しかし、この研究成果は悠斗様の為にも、ユートピア商会を大きくする事にも役立ちそうです。
 それに丁度、国王陛下からヴォーアル迷宮の攻略許可を貰ったばかり、これは王都を完全に手中に収めるチャンスですね。

「分かりました。ご報告頂きありがとうございます。グレナ・ディーン学園長も根を詰め過ぎない様に、研究は程々にお願いします」
「は、はい!」
「ああ、あと今後は部外者を迷宮内に入れない様お願い致します」
「は、はい……も、勿論です……」

 私がそう言うと、グレナ・ディーン学園長は視線を逸らした。

 この人は本当に分かっているのでしょうか?
 全くもって心配です。
 しかし、まあいいでしょう……。

 私はグレナ・ディーン学園長の研究報告を受けると、邸宅へと戻る事にした。

 ◇◆◇

 翌朝、目を覚ました俺は窓の外に視線を向けると、大きな建物が建っている事に気付く。

「ショッピングモールだ……ショッピングモールが建ってる……」

 着替えを済ませ、急いで外に向かおうとすると、屋敷神が声をかけてきた。

「悠斗様、おはようございます」
「うん。おはよう! 屋敷神見てよ! あれが俺の元いた世界にある大規模な商業施設、ショッピングモールだよ!」

 俺がテンションを上げながらそう言うと、屋敷神が笑顔を浮かべる。

「そうでしたか。しかし、悠斗様。まずは落ち着いて、朝食でもいかがですかな?」

 屋敷神がそう言うと、タイミング良くお腹が鳴き声をあげる。
 言われてみると、なんだかお腹が空いてきた。

「そうだね。まずは朝食を食べてから向かおうかな」
「はい。既に朝食の準備は整っております。ダイニングにお越しください」
「うん。分かった」

 俺はそう返事をすると、ダイニングへ向かう。
 するとテーブルには屋敷神お手製の朝食が用意されていた。

「それじゃあ、頂きます」

 手を合わせながら、そう呟くと、フォークを片手にサラダをつつき口に入れていく。

 相変わらず、屋敷神の料理は美味しい。
 朝食を食べ終えたタイミングで屋敷神が報告をしてくる。

「悠斗様、グレナ・ディーン学園長より迷宮核について報告がございます」
「うん? 迷宮核について?」
「はい。迷宮核を研究した結果、迷宮核には、迷宮核に蓄積された魔力以上の魔力を注ぐ事で、その迷宮そのものの支配権を獲得する事ができるとの報告が上がってきました」
「えっ? そうなの!?」

 もしその話通りだとすれば、ヴォーアル迷宮のラストフロアに赴き、そこにある迷宮核に魔力を注げばヴォーアル迷宮の支配権を楽に手にする事ができるという事になる。
 それに迷宮内にある迷宮核に魔力を注ぎ込むなんて考えもしなかった。

「それじゃあ、一度、ショッピングモールを視察してからカマエルさん達と共にヴォーアル迷宮の攻略に行って来ようかな?」
「それはいいですね。カマエル様もお喜びになられます」

 俺は屋敷神の淹れてくれたハーブティーを口にすると、一息つく。

「カマエルさん達に迷宮攻略を手伝って貰うのは後にして、まずはショッピングモールの視察に向かおうか」
「はい、お供致します」

 昨日はショッピングモールを作る為、迷宮核に魔力を注ぎ込み過ぎてしまい体調を崩してしまった。
 イメージ通りに出来ているか不安があるけど、視察するのが楽しみだ。

 俺はティーカップをテーブルに置き立ち上がると、ショッピングモールへ向かう事にした。


 ショッピングモールに向かうと、モール内が何やらおかしい。
 普段、迷宮内にいる筈の人形達がモール内に機材を運び入れている。

「屋敷神……これは?」
「はい、僭越ながら悠斗様がお休みの間に、モール内の整備をさせて頂いております。しかし……些か作業が滞っているみたいですね。悠斗様が目覚める前に作業を終わらせるよう指示をしたのですが、申し訳ございません。人形達には作業が終わり次第、罰を……」

 屋敷神が冷めた視線を人形達に向けている。

「い、いや、そんな事しなくて大丈夫だから、モール内を人形達が走り回っている事に驚いただけだから」
「そうですか?」

 建てたばかりの建物の視察をしようと思ったら、既に機材の搬入作業がほぼ終わっていた。
 屋敷神が指示して人形達を動かしているんだろうけど、俺が目覚める前に作業を終わらせるなんて、なんて無茶な命令を……。
 流石に人形達が可哀想過ぎる。
 一応、フォローしておこう。

「広いショッピングモール内に機材を搬入してくれているんだから仕方ないよ。人形達にお礼を言っておいてくれないかな?」
「畏まりました。悠斗様からお礼の言葉を賜った事で、人形達も更なるやる気を見せてくれる事でしょう。この作業が終わり次第、早速、迷宮内作業に走らせます」

 あ、あれ?
 思っていた展開とは違う。
 人形達には逆に申し訳ない結果となってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

外れスキル『レベル分配』が覚醒したら無限にレベルが上がるようになったんだが。〜俺を追放してからレベルが上がらなくなったって?知らん〜

純真
ファンタジー
「普通にレベル上げした方が早いじゃない。なんの意味があるのよ」 E級冒険者ヒスイのスキルは、パーティ間でレベルを移動させる『レベル分配』だ。 毎日必死に最弱モンスター【スライム】を倒し続け、自分のレベルをパーティメンバーに分け与えていた。 そんなある日、ヒスイはパーティメンバーに「役立たず」「足でまとい」と罵られ、パーティを追放されてしまう。 しかし、その晩にスキルが覚醒。新たに手に入れたそのスキルは、『元パーティメンバーのレベルが一生上がらなくなる』かわりに『ヒスイは息をするだけでレベルが上がり続ける』というものだった。 そのレベルを新しいパーティメンバーに分け与え、最強のパーティを作ることにしたヒスイ。 『剣聖』や『白夜』と呼ばれるS級冒険者と共に、ヒスイの名は世界中に轟いていく――。 「戯言を。貴様らがいくら成長したところで、私に! ましてや! 魔王様に届くはずがない! 生まれながらの劣等種! それが貴様ら人間だ!」 「――本当にそうか、確かめてやるよ。この俺出来たてホヤホヤの成長をもってな」 これは、『弱き者』が『強き者』になる――ついでに、可愛い女の子と旅をする物語。 ※この作品は『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。