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第九章 商人連合国アキンド編

第302話 ミクロの愚痴

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 まあミクロさんの言いたい事はわかった。
 言われてみれば、確かに影響力があるのかもしれない。
 しかし、考えても見てほしい。
 例えば、目の前に足跡一つない真っ白な雪面が目の前に広がっていたとして、そこに自分の足跡を付けたいと思わない人がいるだろうか?

 答えは否。否である。

 影響力のあるなしは置いておいて、自分の自由に作り替える事のできる足跡一つない雪面が目の前に広がっているのだ。
 自由にしていいのであれば、自分の思い通りにしたくなるのが人の性だと俺は思う。

「まあ、その話は置いておいて、この大通り一帯の土地を全て購入します。その場合、いくらかかるか試算して頂けますか?」
「その話は置いておいてっ!?」

 俺の一言にミクロさんは驚愕の表情を浮かべる。

 いや、だって早く土地買いたいし、なんでこんな訊問みたいな事を受けなければならないのだろうか?

「あ、あなたという人は……。最後にもう一言だけ言わせて下さい」
「えっ!?」

 この話は、いつまで続くのだろうか。
 俺はただガラガラになった王都の土地を買いに来ただけなのに……。
 本当に勘弁してほしい。

「悠斗様は、良くも悪くも数々の行いをこの王都で行って来ました」
「ええ、はい。そうですね……」

 ミクロさんは何が言いたいんだろう?

「悠斗様の行いを時系列に並べると、まず商業ギルドに喧嘩を売った事から始まり、ユートピア商会を立ち上げ、スラム出身を従業員として採用……」

 まあ、その頃は、ケイやフェイ、レインが魔法学園に入学してしまい寂しい時期だった。
 ミクロさんは商業ギルドに喧嘩を売ったというが、俺にそんな事をしたつもりはない。
 商業ギルドに登録しているからこそ、商売できるみたいな言い方をされたから、本当にそうか検証してみようと思っただけだ。
 それに、スラム出身の従業員達もいい人達ばかり、商会運営に最適なスキル〔鑑定〕スキルも持っていたし、やる気も十分だったから採用しただけのこと。
 むしろ、スラム出身というだけで採用しない方がどうかしている。
 彼等はスラムに住みたくて住んでいる訳ではなく、スラムに生まれたくて生まれた訳じゃないんだから……。
 能力があり、バイタリティ溢れる人達を雇わないという選択肢はそもそも俺にない。

「……月給として白金貨三枚を支給。従業員の待遇として破格。それだけではありません」

 まあ白金貨三枚が月給として妥当かは分からないけど、彼等が働いてくれているお蔭でユートピア商会は回っている。彼等の給料は、彼等が働いてくれる事で上げる利益の数パーセント以下だし、むしろ、白金貨三枚では少ない位だと思っている程だ。

 というかまだ話は終らないのか……。

「何を目的としているかは分かりませんが、未成年者を除く従業員全員に冒険者ギルドに加盟させた揚句、その従業員達のランクはほぼAランク!」
「まあ、そうですね?」

 まあ、当時はミクロさんが言っていた通り、商業ギルドと対立していたし、俺一人で従業員達を守れるとは到底思っていなかった。それに、俺の勝手で彼等の事を採用したのだ。
 彼等に危害が及ばない様にするのは雇主として当然の事だと思うし、万が一、ユートピア商会が潰れてしまった場合でも、困らない様、策を練るのは当然の事だ。
 勿論、あの研修は従業員達にとって過酷なものだったかもしれない。
 でも、それを過酷なものと思わず、着いて来てくれた従業員達には感謝の念しかない。

「まあ、そうですね? ではありません。その後、ユートピア商会はその当時、フェロー王国担当だった評議員リマ様に再起不能な金銭的なダメージを与え、奴隷に落としてしまいました……」
「まあ、そうですが……」

 まあ、その事については不幸な行き違いがあったと思っている。
 その、リマさん? だったかな?
 商業ギルドに加盟している同業の商会を守りたいというリマさんの気持ちを推し量った上で、ユートピア商会で売る商品の価格を十倍にし、彼等に支援金を受け取って貰える様に努力したのだ。
 その事で恨みを買っていたなんて、あの時初めて知った。

「まだまだあります!」
「まだあるんですか!? もういいでしょう?」
「いえ、よくありません! その後もユートピア商会では、教会に喧嘩を売る様に『聖属性魔法』を付与した魔道具を売り捌くし、揚句の果てには、万能薬まで……一体私がどれだけ苦労をしたと思っているんですか!?」

 別に苦労を掛けたつもりはなかったけど、苦労を掛けていたのだろうか?

「揚句の果てには、仮でフェロー王国の担当となったマスカット様に無茶ぶりをされ、漸く落ち着きを見せたかと思えば、トースハウン前国王の崩御……ユートピア商会は、フェロー王国から撤退してしまうし、撤退したかと思えば、エストゥロイ領で新たな事業を始めるし……」
「そ、それは、ユートピア商会の土地をノルマン陛下が接収したからであって……」

 俺に問題はない筈だ。

「ユートピア商会の傘下にあった商会は軒並み撤退するわ、その煽りを受けて他の商会も王都から撤退していくわで大変だったのです……」

 なんだか途中から、ミクロさんの愚痴の様になってきた。

「あ、あの……もうその位で……」

 俺がそう言うも、ミクロさんの話は終らない。

「そして、この王都の現状です! 悠斗様は一体この地で土地を買い占め何をするつもりなのですか! 
 大通り一帯の土地を買い占め、お店を開いたとしてどうするつもりです! 何が起こるか本当に分かっているのですか!?」
「い、いや、そんな事を言われても……」
「何が起こるか分からないのであれば、私が教えて差し上げましょう! 悠斗様が大通り一帯の土地を買い占めお店を開いたとします。」
「は、はあ。まあそうですね?」
「大通り一帯ともなれば広大な土地です。建てる店に従業員が必要となる事は必須。それこそ、毎日毎日、ユートピア商会の目の前で屯している人々を新たな従業員として雇い入れる事も考えられます」

 ま、まあ、その選択肢もある訳じゃないけど、その辺は屋敷神に任せてあるし……。

「するとどうなると思います? 大通りは王都の顔です。その辺り一帯をユートピア商会が牛耳る事になるのですよ? この領から出て行った商人達の入る隙はそれこそなくなってしまいます」
「い、いや、それは流石に言い過ぎじゃ……。大通り以外にも土地は余っている訳ですし、そこで暮らす人々もいるんですよ? 大丈夫ですって……いざとなればユートピア商会が土地を……」
「買い取りますと言うんでしょう?」
「ま、まあそうですけど……」

 既に王都全域は迷宮の支配下に置かれている。
 正直な所、王都の土地はできるだけ買取っておきたい。

「それこそ、王都は悠斗様の支配下に置かれてしまいますよ! 悠斗様がこの王都から撤退したらどうなると思っているんですか!? 悠斗様が亡くなったら? 悠斗様の運営するユートピア商会で何か問題が起きたら? それこそ国ごとお終いですよー!」
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