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第八章 フェロー王国動乱編

第293話 領主会議(ノルマン視点)②

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「――だからもう一度、私にチャンスをくれないだろうか」

 私がそう言うも、領主達からの返事はない。

 折角、私が手の内を晒し王都再建の道筋がついたと話してやっているのに……。
 そもそも、決断力の無いシェトランドに国王が務まる訳がない。
 大方、領主達は国王である私を罷免する事しか頭になかったのだろう。

 大体、王都がこんなにも大変な状況にあるというのに、領主会議等という仰々しい真似をして何がしたいんだこいつ等は!
 結果を見て批判する事なんて誰にでもできる。
 王都がこんな状況にある中、領主共は何をしていた?
 普通、物資を届けたり、資金提供を申し出たり色々あるだろ!

 自分達の治める領地で問題が発生すれば、すぐに泣きついてくる癖に王都の事は知らん振り……。
 私に言わせれば、貴公達の方が領主として不適格だ。

「私が問いかけているというのに返事もなしか……。子供でもイエス、ノー位答える事ができるというのに」

 私がそう呟くと、宰相が窘めてきた。

「陛下。この場は審議の場です。その様な発言は慎むようお願い申し上げます」
「ああ、すまなかったな」

 それならば、私にも考えがある。

「それで、クラクス。貴公は私の事を責めるが、貴公自身は領民の為、十全に物事を成し遂げてきたと言えるのか?」

 私の発言に領主達がザワつく。
 貴公達は、私がただ数日間王城に籠っているだけだと思っていたのか。

「陛下、それはどういう事でしょうか?」
「うん? 今の言い方では、伝わらなかったのか? 貴公達は自分の事を棚に上げて私の事を批判し国王の座から降ろそうとしているが、貴公達はどうなのだと問いかけているのだよ」
「ですから、それはどういう事でしょうか?」

 本当に分からないのか?
 救いようもないな……。

「クラクス、貴公は領主になって初めての年、財政状態が厳しい状態にも係らず、貴公の一存で灌漑事業に手を付け大きな失敗をしたな?」

 私がそう問いかけると、クラクスは少しだけ顔色を変える。

「あ、あの時は仕方がなかったのです。私が領主に就任して初めての年、財政状態は厳しい状況にはありましたが、私の領地には農地が多く、農地に水を安定供給する為には灌漑事業が必要でした。確かに灌漑事業には多額の費用が掛かり、前国王陛下には迷惑をお掛けしましたが……」
「そうだろう。灌漑事業は農地に水を安定供給する為に必要な事だ。しかし、貴公が灌漑事業に手を付けた年、王都の財政もギリギリだった。その事を、貴公は知っていたか? 貴公はその事を知ろうとしたか⁇」
「い、いえ、それは……」

 ふん。何も言えまい。
 実際にあった事だからな……。

「そんな時でも前国王は、財政難にあった貴公の領地に資金の貸付を行った。しかし、貴公らの様にそれを責める事は一度も無かった筈だ。それに比べて貴公達はどうだ?」
「…………」

 するとクラクスは黙り込んでしまう。

「私はどうだと聞いているんだ。前国王は、たった一度の失敗で断じた事はないぞ? 貴公達と違ってな……」
「で、ですが、あれとこれでは……」

 私がクラクスの言葉を遮って呟いた

「クラクスよ。私には分かっている。貴公は、自領の農民の為を思い灌漑事業に手を付けたのだろう?」
「へ、陛下の仰る通り、財政難にあった時に灌漑事業に手を付けたのは、農民の事を……領地の事を考えての事です」
「そうだよな。農作物の生育には水が不可欠、水路を引く事は重要な事だ。それに農作物の生育には時間が掛かる。成果が出るのはこれからだと言いたいのだろう? その気持ちは凄くよく分かる」
「陛下は何を仰りたいのですか?」
「いや何、灌漑事業には莫大な金が掛かる。短期的に見れば失敗した様に見える事も領地の将来を考えれば必要な事だったと後から見ればわかる事だ。私もつい最近、同じ様な失敗をしたからな……。領地経営に失敗は付き物。しかし、失敗したなら挽回すればいい。ティンドホルマー魔法学園の移転についても同じ事だ」

 私は背後に控えている内務大臣、スカーリに視線を向ける。

「私達の認識不足によりティンドホルマー魔法学園から他領への移転話を持ち出される等、一時的に厳しい状況に置かれた。しかし、それも既に話は付いている。なあ、そうだろう内務大臣?」
「そ、それは……。何と言いますか……。はい……」

 私はスカーリへと話を振った。
 しかし、スカーリの歯切れが悪い。一体どうしたというのだ?

 するとクラクスが声を上げた。

「話が付いているとは、どういう事でしょうか?」
「内務大臣がティンドホルマー魔法学園の学園長と話を付け移転話は無くなったと、そう言っているのだよ」
「なる程……内務大臣が話を付けたお陰で移転話が無くなったと、陛下はそう仰るのですね?」
「ああ、内務大臣はよくやってくれたよ」
「そうですか……。それでは、その話が本当なのかどうかティンドホルマー魔法学園の学園長に話を伺う事に致しましょう。丁度、学園長をお呼びしております」

 するとクラクスは、背後に控えている護衛に視線を向ける。護衛はクラクスからの視線を受け、学園長を呼びに行った。

 うん?
 何を考えているのだ?
 今のクラクスの言い方、まるで移転話が無くなっていない様ではないか。

 まあいい。
 ティンドホルマー魔法学園の学園長が証人となってくれるのであればこちらとしても好都合。
なにせ私の正しさが立証されるのだからな。

 暫くすると、護衛と共に学園長が王の間に入ってくる。

「グレナ・ディーン学園長を呼んで参りました」
「ご苦労。グレナ・ディーン学園長、本日はお忙しい中、足を運んで頂きありがとうございます」

 クラクスは一礼すると、学園長に問いかける。

「それではグレナ・ディーン学園長、ティンドホルマー魔法学園の王都移転について話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「はい。陛下の仰る通りティンドホルマー魔法学園の移転は撤回致しました」

 そうだろう。そうだろう。当然の事だ。
 私が満足そうな表情を浮かべていると、次いで問いかける。

「それは、そちらにいる内務大臣からの要請を受け、撤回したという事ですか?」



 んっ?
 なんだ?
 聞き間違いか⁇

 今、学園長は『いいえ』と言った様な……。
 スカーリに視線を向けると、学園長の言葉に激しく狼狽するスカーリの姿が目に映る。

 ま、まさか……。

「それでは、どなたからの要請により、移転を撤回したのでしょうか?」
「それは、王弟殿下の遣わした商人連合国アキンドの評議員、マスカット様の要請により撤回致しました」
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