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第八章 フェロー王国動乱編

第290話 王都④

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 ルチア様が護衛に魔道具を渡していくの見届けると、改めて、手に持った魔道具を見つめる。

 〔瞬間移動〕という魔法を魔石に付与したこの魔道具……この魔道具があれば物流が変わる。
 この〔瞬間移動〕という魔法、確か聖モンテ教会の新教皇ソテル様が使うオリジナルスキルの筈。そのオリジナルスキルを魔石に付与するとは……流石は聖モンテ教会の教皇という所か。
 しかし、相手は世界最大宗教の聖モンテ教の教皇。
 流石に、この魔道具の交渉をするのは難しいか……。

「いかが致しましたか、領主様?」

 私が考え込んでいると、ルチア様が声をかけてきた。

「いえ、少し考え事をしておりました」
「そうですか……? それでは準備が整いましたので皆様、魔道具に魔力を注いで下さい」
「ま、魔道具に魔力をですか?」
「はい。この魔道具に魔力を流す事により〔瞬間移動〕の魔法が発動し、王都の教区教会に転移する事ができます。既に領主様には、この魔道具の体験をして頂いた筈……。何か問題がございましたでしょうか?」
「い、いえ、問題ございません。君達も準備はいいな?」

 私は苦し紛れに護衛の冒険者に声をかける。

「「はい」」
「よし。行くぞ!」

 そして〔瞬間移動〕を付与した魔石に魔力を注ぐと、一瞬視界が暗転し、気付けば教会の中に転移していた。

「「こ、これは……」」と護衛の冒険者達も驚いている。

「騒ぐな。これはこういう魔道具だ」

 私がそう言い放つと、少し遅れてルチア様が転移してきた。

「お待たせ致しました。それでは一度、そちらを回収させて頂きます」
「あ、ああ」

 私達はルチア様に魔道具を手渡した。
 ルチア様をそれを収納指輪にしまっていく。

「さあ皆様がお待ちです。こちらへどうぞ」

 ルチア様に着いていくと、礼拝堂に王弟殿下と領主達、ティンドホルマー魔法学園の学園長が集まっていた。

「おお、久しぶりだなぁ、ロイ!」
「全く待ちくたびれたぞ」
「さて、これで全員集まりました。すぐに王城へと向かいましょう」

 王弟殿下がそう言うと、領主全員が頭を垂れた。
 私自身もすぐに頭を垂れる。
 しかし、王弟殿下は手でそれを制し、それを止めた。

「皆様、頭を上げて下さい。私はまだ国王になった訳ではありません。それに私自身、皆様のお力をお借りして国王になる身です。兄上の暴走を止め、国民達が元の生活を取り戻せるようお力添えをお願い致します」
「畏まりました。すべては王弟殿下の御心のままに……」
「ああ、ありがとう」

 領主達の言葉を代弁し、ボルウォイ領の領主が傅く。

「さあ、王城へと向かいましょう」

 王弟殿下の言葉に従い、教区教会を出るとそこには、変わり果てた王都の姿が広がっていた。

「こ、これはっ……」
「まさかこれ程とは……」

 王都の街並みを見渡してみると、空き地が目立ち人の往来がまるでない。活気を無くしてしまった王都の姿がそこにはあった。

「フェリー運航停止の影響……だけではないのでしょうね」

 土地接収以降、王都から他領に拠点を移す商人達が後を絶たない。
 間違いなくその影響が出ている。

「ここにいても話は始まりません。王城へと向かいましょう」
「そうですな。ルチア様、馬車はどちらに?」

 領主の一人がルチアにそう問いかける。

「領主様方の乗る馬車ですか? ありませんよ?」

「な、なんだと! 我らに王城まで歩いて行けと言うのかっ!」

 領主の一人がルチア様に怒鳴り声を上げる。
 しかし、ルチア様は飄々とした表情でそれを受け流した。

「はい。私達の役目はあなた方を王都まで送り届ける事です。ここから先はあなた方の問題。教会側が関知する所ではありません」
「っ! な、なんだとっ!」

 私はルチア様と怒りの声を上げる領主の間に割って入ると、領主がルチア様に詰め寄る前に腕を広げそれを制した。

「まあ、待って下さい。聖モンテ教会の司教様は、私達の部下ではありません。王都に送って頂けただけでも有り難い話です。それをあなたは無下にするというのですか?」

 私の言葉に領主の一人が「ううっ⁉」と声を上げ黙り込む。

 当然だ。聖モンテ教会に属する者への指揮権は教皇にある。
 そもそも、フェリーの運航を停止され、領主会議の開催を危ぶまれていた時、手を差し伸べて下さったのは聖モンテ教会の教皇ソテル様だ。

 それに王都がこの有り様では、どの道馬車を用意する事もできなかっただろう。
 それに王城まで歩いて行く事は、今の王都の現状を正しく認識する上で重要な事。
 領主と王弟殿下が一堂に会する中、歩いて移動する事に護衛上の不安はあるが仕方がない。

「ルチア様、王都までの送迎ありがとうございました」
「いえ、お帰りの際はまた教区教会にお越し下さい」

 私はルチア様にお礼を言うと、首に下げていたペンダントを外し、王弟殿下に渡す。

「陛下、万が一に備え、このペンダントをお持ち下さい」
「これは?」
「これはSランク冒険者が影精霊を宿らせたペンダントです。身に付けていれば、影精霊が王弟殿下を守ってくれます」

 王城まで歩いて行く事になった以上仕方がない。

「そうですか、ありがとうございます」

 王弟殿下はペンダントを受け取ると首にかけ、私達に顔を向けた。
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