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第八章 フェロー王国動乱編

第281話 その頃のノルマン陛下は……

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「くっ……。やはり、食糧品の価格が高騰し出したか……」

 大臣達を領主の下に向かわせた私は、王の間で一人、書類と格闘していた。
 書類の中でも問題なのが食糧品の価格高騰。
 フェリーの運航を停止したその翌日には、食糧品の価格が倍近く迄高騰していた。

 それにしても困った。

「まさかここまで食糧品が高騰するとは……」

 財政も苦しければ、食料品の高騰も苦しい……。
 食糧品もそれを売る商人まで不足している。
 おのれウエハス……。
 折角私が眼をかけてやったというのに、嘘で私を騙しおって……。
 商人達も商人達だ!
 ユートピア商会が王都からいなくなったというのに、何故この機会に販路を拡大させようとは思わないのか全く理解できない。

 私は国の事を思って行動しているだけだというのに、何故、意に反した結果に終わるのだ!
 何もかもが上手く行かずイライラする。

「へ、陛下っ! 大変です。大変です!」

 そんな事を考えていると、ノックもなしに扉が開かれ、血相を変えた文官が王の間に入ってきた。

「ええい! 次から次になんだっ!」

 いい加減にしろっ!
 私も王都の経済も財政も何もかもが限界なんだよ!

「国民が、国民達が……」
「国民がどうしたというんだっ! ハッキリ言えっ!」
「フェリーの運航を止めた事で、国民達が暴動を起こしましたっ! 今、この王城に向かって来ております!」
「な、なんだとっ⁉」

 国民達が暴動だとっ⁉
 な、何故だ。まさか食糧品の価格が高騰した事に怒ったのか?
 それとも誰かが国民達を扇動した?

 くっ、こんな時に大臣達は何をやっているのだっ!
 まあいい。

「兵士を出せっ! 暴動を! 国民達を止めるんだっ!」

 兵士が国民達を止めれば問題はない。
 今は領主達の説得に忙しい。それにフェリーの運航は二週間で終わらせる予定だ。
 こんな大事な局面で国民達の相手などしていられるものかっ!

「だ、駄目ですっ!」
「はぁ? 何が駄目なんだっ⁉」

 次から次へと意味の分からない事を……。いい加減にしろっ!
 こっちは忙しいんだよっ!

 内務大臣スカーリを除く大臣達は領主の説得に向かっている最中、今、政務を行っているのは私なんだぞっ⁉

「お、恐れながら申し上げます。その暴動には、兵士達も参加しておりまして……」
「は、はぁ? 何を言っているっ⁉」

 全く何を馬鹿な事を言っているんだ。
 そんな筈がないだろ……というよりそんな事許される訳がないだろ!
 お前達は国に……私に雇われているんだぞ⁉

 私の味方をするならまだしも、何故、国民共と一緒に暴動に参加している!
 兵士は国側の人間だろうがっ!

「へ、陛下……。いかが致しましょうか?」

 そ、そんな事っ……。

「そんな事、こっちが聞きたいわぁぁぁぁ!」

 王の間から外を覗いてみると、国民達が王城に向かっている姿が映る。

 ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなっ!

 私が一体何をしたというのだ!
 私もお前達と同じ苦しみを分かち合うと決めたばかりなのだぞっ!
 ちょっと位食糧品の価格が高騰したからといってなんだ。

 その位の事で暴動なんぞ起こしおってからに……。
 国の事を思えば今は耐え忍ぶ時だろうがっ!

「ぐっ……」

 いや……しかし今はそんな事を言っている場合ではない。
 怨みがましくも窓から国民達に視線を向けてはいるが、そんな事で国民が止まるはずもないからだ。

「おい、お前っ! 兵士の全てが暴動に参加している訳ではないだろ! 今、残っている兵士全員で門を閉めよ!」
「は、はいっ!」
「ああ、あと国民に配る予定であった食糧品の配給は中止だ! 国の事を思い耐え忍ぶ覚悟のない者など国民ではないわっ!」
「わ、分かりました!」

 俺に怒鳴られた文官は泣きそうな表情を浮かべながら駆け出した。

 どいつもこいつも馬鹿ばかり……。
 肝心な時に役に立たない。

「スカーリ! 内務大臣スカーリはいるか‼︎」

 扉の空いた王の間でそう叫ぶと、内務大臣のスカーリが顔を出す。

「へ、陛下、お呼びでしょうか……?」
「ああ、お前は今、門に向けて駆けて行った文官を追い、国民共がこの王城に入らぬ様、指揮を取れ!」
「わ、わかりましたっ!」

 スカーリが文官を追いかけていく姿を見届けると、怒りの余りテーブルに置いてあるグラスを床に投げつける。

「クソが、クソが、クソが、クソが、クソがぁぁぁぁ!」

 物に当たり散らした私は息を吐くと、憤怒の視線を国民に向ける。

「まあいい。領主会議前に大臣達が領主の過半数を味方につければ私の勝ちだ……。その時は覚えていろよ……」

 私はそのまま食糧庫に向かうと、食糧庫に鍵を掛ける。兵士が私を裏切った以上、いつ次なる裏切りが起こるか分からん。

 食糧は私に忠実な国民にのみ与えるとしよう。
 あとは武器庫もだな……。

 私は武器庫に向かいながら呟く。

「国民共も馬鹿な奴らだ。事前に(とは言っても一日前だが……)フェリーの運航を止める事も、国が責任を持って食糧品の配給をする事も伝えただろうがっ!」

 この時のノルマンは知らない。
 国民への周知を任せた内務大臣スカーリがそれを怠っていた事を……。
 この時のノルマンは気付かない。
 既に国民の心がノルマンから離れている事を……。
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