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第八章 フェロー王国動乱編

第276話 領主様との話し合い②

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「ラ、ラフィ? 父様はラフィの事を信じているよ。どんなお人形さんが良いのかな? 今度、父様とお買い物に行こうか?」

 ラフィを抱き寄せ、頭を撫でながらそう言うと、ラフィは少しだけ表情を和らげた。

 確かに……。よく考えてみればラフィは嘘をつく様な子ではない。
 ラフィがそう言うのならそうなのだろう。

 まあ、何かの見間違いという可能性は高いと思うが……。

 すると、ラフィはパァーッと花を咲かせたかの様な笑顔を浮かべる。

「本当⁉︎ お父様!」
「ああ、本当だとも、父様がラフィに嘘をついた事があったかい?」

 私はラフィの頭を撫でながらそう言うと、ラフィが考え込む様にこう呟いた。

「そういえば、私と遊んでくれると言った翌日仕事が入ったとか、旅行に出かけようと提案しておきながら、その日大事な会議が入ったとかで約束を反故にされた事があった様な……」

 あまりに具体的かつ的確な呟きに、思わずラフィの頭を撫でる手がピタリと止まる。

 拙い。これは拙い雰囲気だ。
 私はラフィの言う人形に話を逸らす事にした。

「そ、そういえばラフィ。ラフィはどんなお人形さんが欲しいんだい?」

 ラフィの事だ。きっと可愛い女の子型の人形や、犬や猫の様な動物型の人形に違いない。
 私はそんな可愛い人形と戯れるラフィの姿を脳裏に浮かべる。

 うん。良い! 良い感じじゃないか!

 私がそんな事を考えていると、ラフィが私の机に置いてあるペンと紙を持つとスラスラと何かを描き始めた。

 これはお人形さんの絵を描いているのかな?

 ラフィが一心不乱にお人形さんの絵を描く姿を微笑ましく見ていると、ラフィが「できた!」と声を上げる。

「どれどれ?」

 私はラフィからお人形さんの描かれた絵を受け取ると、そのお人形さんの姿を見て絶句した。

「こ、これはっ……?」

 そこに描かれていたのは、目と口にメイクをした特徴的な人形の姿。

「最初は怖かったんだけど、私を助けてくれたその時から、首をコテンと傾ける姿や特徴的なメイクが可愛く思えてきてしまって……。お父様、私、この人形が欲しいですわ!」

「えっ、いや、しかし、これは……」

 これ以上ない衝撃に私は絶句する。

 いやいやいやいや、これはないだろぉぉぉぉ!

 可愛い人形と戯れるラフィの姿が崩れていく。

 愛娘が変な男に……いや、変な人形に引っかかってしまった。
 だが、私が驚いたのは娘が書いた人形の特徴だ。

 目と口にメイクをした特徴的な人間。
 これには心当たりがある。
 というより、これはどう見ても元Sランク冒険者ドレークそのもの……。
 随分とデフォルメされている様だが、間違いない。
 私は真剣な表情を浮かべると、机の上に置いてある手配書からドレークの手配書を手に持ちラフィに話しかける。

「ラフィ。この男に心当たりはあるか?」

 突然仕事モードに入った私に、ラフィはポカーンとした表情を浮かべている。
 しかし、私の質問には答えてくれた。

「い、いえ。そんな怖い方にお会いした事はありませんわ……。でも、メイクはあのお人形さんと一緒ですのね? 流行っているのでしょうか?」

 私は内心「そんな訳あるか!」と叫びたい衝動に駆られるも、愛娘の手前我慢する。

 しかし、そうなってくるとわからなくなってきた。
 こんな特徴的なメイクをするのはドレーク位……。しかし、ラフィはドレークに会っていないと言っている。

 私が深く考えていると、ラフィが服を引っ張ってきた。

「それで、お父様はこの人形さんを買ってくれますの? 買ってくれませんの⁇」

 私はラフィのその一言に表情を強張らせる。
 急に仕事モードに入ってしまったのが悪かったんだろうか、ラフィが涙目になりながら私に視線を向けてきている為だ。
 私はため息を吐くと、ラフィの頭を軽く撫でながら呟いた。

「今日、ユートピア商会の会頭との面会の予定がある。人形さんの件はその時依頼して見よう」

 私がそう口にすると、ラフィは笑顔を向けながら抱きついてくる。

「本当ですの⁉︎ お父様、大好き!」

 ああ、私は娘にこの一言を言って欲しいが為に頑張っているのかも知れない。

 感性は人それぞれ、この人形がいくらドレークに似ているかといってもまあ良いじゃないか。

 私の頭の中をラフィの言った「お父様、大好き!」の言葉が駆けまわる。
 心配そうな表情を浮かべるゴタを尻目に、私は愛娘から言われた甘美な言葉に浸るのであった。

 私が愛娘の一言に酔いしれていると、ギルドマスター室のドアを叩く音が聞こえてくる。

「ロイ様。悠斗様をお連れしました」
「ああ、入ってくれ」

 そう言うと、「失礼します」との言葉と共に、一人の子供がギルドマスター室に入ってきた。
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