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第八章 フェロー王国動乱編
第256話 ヨルズルの苦悩③
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「ふむ。ユートピア商会が王都に戻るのはわかった。しかし、それと魔法学園移転の話がどう結び着くというのだ?」
「ユートピア商会の会頭は、自分の子供を溺愛している様で、子供に会いたいが為に王都へ戻ってくるのです。元々、エストゥロイ領には、商会の従業員達と旅行で訪れている様ですし、万が一、魔法学園がここに移転してしまえば、彼が王都に戻る事は二度とないでしょう」
子供に会いたいが為に、土地を接収された領地でまた商いを始める?
意味が分からん。
とはいえ、その話が本当の事であれば、潰れかかった王都を助ける事にも繋がる。
「ユートピア商会が王都に戻るという話。本当なのだな?」
「はい。その通りでございます」
「……話はわかった。裏付け調査を行った後、検討しよう」
「ありがとうございます」
ヨルズルはロイに頭を下げる。
そして、「それでは、私はこれで失礼致します」と呟き部屋を出て行こうとすると、ロイに呼び止められた。
「まあ待てヨルズル。折角だ、一つ頼みたい事がある」
ヨルズルはピタリと足を止めると、ロイに視線を向ける。
何故かとても嫌な予感がする。正直すぐにでもここから出て行きたい。
しかし、呼び止められてしまった以上、仕方がない。
「頼みですか……。一体なんでしょう?」
「先日、近くの廃坑で大規模な崩落が発生した事は知っているな?」
「はい。勿論知っております」
何せ当事者の内の一人だからな……。知らない筈がない。
「先日、廃坑が崩れた原因を探る為、私の部下を向かわせた所、あの廃坑付近に盗賊団の隠れ家がある事が判明した。なんでもその隠れ家には、数年間に渡り貯め込んだ白金貨や商人から奪い去った金品が入った金庫があったそうだ。残念ながらその隠れ家は崩落の影響で陥没してしまったみたいだがな……」
な、何故それを知っている?
その事を知っているのは、私と取引のあった盗賊団だけの筈……。
それにこの話の流れ、何だかとても拙い気がする。
「ヨルズル。私は廃坑内に沈んだとされる金庫をどうにか引き上げたいと考えている。勿論、報酬は弾もう。廃坑調査で実績を上げている冒険者を一人紹介してくれないか?」
「廃坑内に沈んだとされる金庫の回収ですか……」
拙い拙い拙い拙い。
奴がエストゥロイ領に未練を残さぬ様に、自発的に出て行ってくれる様にと、態々、領主であるロイ様と話し合いの機会を設けた事が完全に裏目に出てしまった。
これではまるで、態々、自分の悪事を自白しに来た犯罪者の様ではないか。
今あの金庫を回収されては拙い。
何とかしなければ……。
懸命に思考を巡らせていると、ロイ様が話しかけてくる。
「なに、深く考える事はない。私がヨルズルにお願いしたいのは、Sランク冒険者でありユートピア商会の会頭、佐藤悠斗君との顔繋ぎだ。先日、廃坑調査を請け負った様だし、丁度良い。それともう一つ。ヨルズル、君にも廃坑の再調査に立ち会って貰いたい」
「わ、私が廃坑の再調査にですか……」
「ああ、少し気になる事があってな。ちょっと廃坑の再調査に付き合ってくれるだけでいい。簡単な事だろう?」
「は、はあ……」
私の戸惑い混じりの呟きを了解と取ったのかロイ様は満面の笑みを浮かべる。
「そうか! 廃坑の再調査に立ち合ってくれるか! それは良かった。では、佐藤悠斗君との顔繋ぎも頼んだぞ。日程はそうだな……。領主会議前には終わらせておきたいな」
もうこうなれば止める事はできない。
「わ、わかりました……」
私は力無く頷いた。
な、何でこんな事に……。
いや、先にこの情報を知る事が出来ただけ僥倖か?
いやいやいやいや、何を馬鹿な事を考えているんだ!
よく考えろ、思考を巡らせろ私!
ロイ様は私の別荘に金庫があった事を掴んでいる。そしてその情報源は金庫の事を知る一部の盗賊団以外にあり得ない。
そういえば、ロイ様は廃坑が崩れた原因を探る為、部下を向かわせたと言っていた。あの近くにはドレーク盗賊団の根城がある。つまり、ロイ様の部下は廃坑近くを根城にしていたドレーク盗賊団を捕らえ、金庫の情報を聞き出したと、そういう事か……。
通りで最近ドレーク君を見かけない訳だ。
既にロイ様の部下によって捕らえられているとすれば全ての事に説明が付く。だとすれば、ロイ様は私と盗賊団との繋がりにも気付いている筈だ。
今迄築いてきた地位が崩れていく様な錯覚を覚える。
こうなっては仕方がない……。
「それではロイ様。私はこれで失礼致します」
「ああ、またな。よろしく頼んだぞ」
「はい。お任せ下さい」
私はロイ様のとの面会を終わらせると、冒険者ギルドに戻る事にした。
そしてその夜、私は冒険者ギルドに預けていた白金貨を全て引き出し荷物を纏めると、全ての奴隷達を引き連れ、夜の内にエストゥロイ領から逃げ出した。
数日後、金に困った私は新興盗賊団を発足するも、ヨルズル盗賊団発足当日、近くを通りかかった馬車に襲いかかっている所をユートピア商会の従業員達により阻止され盗賊団の団長として囚われてしまう。
その一報はエストゥロイ領の領主ロイにも届いたが、「何故彼が盗賊に……」と首を傾げる事になる。
あの時、ロイはヨルズルが盗賊団と繋がっていた事に気付いていなかった。ただ元Aランク冒険者であるヨルズルの力を貸して貰おうと考えていただけだったが、その事をヨルズルは知らない。
「ユートピア商会の会頭は、自分の子供を溺愛している様で、子供に会いたいが為に王都へ戻ってくるのです。元々、エストゥロイ領には、商会の従業員達と旅行で訪れている様ですし、万が一、魔法学園がここに移転してしまえば、彼が王都に戻る事は二度とないでしょう」
子供に会いたいが為に、土地を接収された領地でまた商いを始める?
意味が分からん。
とはいえ、その話が本当の事であれば、潰れかかった王都を助ける事にも繋がる。
「ユートピア商会が王都に戻るという話。本当なのだな?」
「はい。その通りでございます」
「……話はわかった。裏付け調査を行った後、検討しよう」
「ありがとうございます」
ヨルズルはロイに頭を下げる。
そして、「それでは、私はこれで失礼致します」と呟き部屋を出て行こうとすると、ロイに呼び止められた。
「まあ待てヨルズル。折角だ、一つ頼みたい事がある」
ヨルズルはピタリと足を止めると、ロイに視線を向ける。
何故かとても嫌な予感がする。正直すぐにでもここから出て行きたい。
しかし、呼び止められてしまった以上、仕方がない。
「頼みですか……。一体なんでしょう?」
「先日、近くの廃坑で大規模な崩落が発生した事は知っているな?」
「はい。勿論知っております」
何せ当事者の内の一人だからな……。知らない筈がない。
「先日、廃坑が崩れた原因を探る為、私の部下を向かわせた所、あの廃坑付近に盗賊団の隠れ家がある事が判明した。なんでもその隠れ家には、数年間に渡り貯め込んだ白金貨や商人から奪い去った金品が入った金庫があったそうだ。残念ながらその隠れ家は崩落の影響で陥没してしまったみたいだがな……」
な、何故それを知っている?
その事を知っているのは、私と取引のあった盗賊団だけの筈……。
それにこの話の流れ、何だかとても拙い気がする。
「ヨルズル。私は廃坑内に沈んだとされる金庫をどうにか引き上げたいと考えている。勿論、報酬は弾もう。廃坑調査で実績を上げている冒険者を一人紹介してくれないか?」
「廃坑内に沈んだとされる金庫の回収ですか……」
拙い拙い拙い拙い。
奴がエストゥロイ領に未練を残さぬ様に、自発的に出て行ってくれる様にと、態々、領主であるロイ様と話し合いの機会を設けた事が完全に裏目に出てしまった。
これではまるで、態々、自分の悪事を自白しに来た犯罪者の様ではないか。
今あの金庫を回収されては拙い。
何とかしなければ……。
懸命に思考を巡らせていると、ロイ様が話しかけてくる。
「なに、深く考える事はない。私がヨルズルにお願いしたいのは、Sランク冒険者でありユートピア商会の会頭、佐藤悠斗君との顔繋ぎだ。先日、廃坑調査を請け負った様だし、丁度良い。それともう一つ。ヨルズル、君にも廃坑の再調査に立ち会って貰いたい」
「わ、私が廃坑の再調査にですか……」
「ああ、少し気になる事があってな。ちょっと廃坑の再調査に付き合ってくれるだけでいい。簡単な事だろう?」
「は、はあ……」
私の戸惑い混じりの呟きを了解と取ったのかロイ様は満面の笑みを浮かべる。
「そうか! 廃坑の再調査に立ち合ってくれるか! それは良かった。では、佐藤悠斗君との顔繋ぎも頼んだぞ。日程はそうだな……。領主会議前には終わらせておきたいな」
もうこうなれば止める事はできない。
「わ、わかりました……」
私は力無く頷いた。
な、何でこんな事に……。
いや、先にこの情報を知る事が出来ただけ僥倖か?
いやいやいやいや、何を馬鹿な事を考えているんだ!
よく考えろ、思考を巡らせろ私!
ロイ様は私の別荘に金庫があった事を掴んでいる。そしてその情報源は金庫の事を知る一部の盗賊団以外にあり得ない。
そういえば、ロイ様は廃坑が崩れた原因を探る為、部下を向かわせたと言っていた。あの近くにはドレーク盗賊団の根城がある。つまり、ロイ様の部下は廃坑近くを根城にしていたドレーク盗賊団を捕らえ、金庫の情報を聞き出したと、そういう事か……。
通りで最近ドレーク君を見かけない訳だ。
既にロイ様の部下によって捕らえられているとすれば全ての事に説明が付く。だとすれば、ロイ様は私と盗賊団との繋がりにも気付いている筈だ。
今迄築いてきた地位が崩れていく様な錯覚を覚える。
こうなっては仕方がない……。
「それではロイ様。私はこれで失礼致します」
「ああ、またな。よろしく頼んだぞ」
「はい。お任せ下さい」
私はロイ様のとの面会を終わらせると、冒険者ギルドに戻る事にした。
そしてその夜、私は冒険者ギルドに預けていた白金貨を全て引き出し荷物を纏めると、全ての奴隷達を引き連れ、夜の内にエストゥロイ領から逃げ出した。
数日後、金に困った私は新興盗賊団を発足するも、ヨルズル盗賊団発足当日、近くを通りかかった馬車に襲いかかっている所をユートピア商会の従業員達により阻止され盗賊団の団長として囚われてしまう。
その一報はエストゥロイ領の領主ロイにも届いたが、「何故彼が盗賊に……」と首を傾げる事になる。
あの時、ロイはヨルズルが盗賊団と繋がっていた事に気付いていなかった。ただ元Aランク冒険者であるヨルズルの力を貸して貰おうと考えていただけだったが、その事をヨルズルは知らない。
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