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第八章 フェロー王国動乱編

第222話 説得に失敗する内務大臣

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「スカーリ様。ティンドホルマー魔法学園に到着致しました」

「うむ。ご苦労」

 内務大臣はティンドホルマー魔法学園前に馬車を付けると、馬車から降り門の前へと足を運ぶ。

 すると門番が内務大臣一行に立ち塞がった。

「内務大臣のスカーリだ。理事会または学園長と話がしたい。さっさと呼んでまいれ」

「恐れ入りますが、お約束は頂いておりますでしょうか? 現在、理事は会議中。学園長は授業中となります。約束を頂いていない場合、申し訳ございませんが、会議又は授業が終るまでお待ち頂く事になります」

 内務大臣である自分が態々、学園まで足を運んでやったというのにこの対応。

「貴様……。私が誰か分かっていての発言か?」

「はい。内務大臣のスカーリ様です」

 理事や学園長ならず門番にまで軽く見られている事に憤りを覚える。
 しかし門番の態度に変化はない。

 これは重症だな……。
 内務大臣は呆れて物も言えない様な表情を浮かべる。

 内務大臣が態々、こんな所まで足を運ぶのだ。
 学園にとって重要な話を持ってきたと何故わからない?
 門番の個人的な見解で、会議や授業が終わるまで待てとは……。この門番は常識というものを知らないらしい。

 門番を睨み付けていると、目の端にグレナ・ディーン学園長の姿を捉える。

「なんだ。すぐそこに学園長がいるではないか」

 遠目で表情を窺う限り非常に機嫌が良さそうだ。
 ニコニコとした表情で何かをしている。

 うん?
 いま何か光らなかったか?
 ズカン! という音も聞こえる。

 しかし、そんな轟音鳴り響く中にいても学園長は楽しげな表情を浮かべている。
 王城で会った時とは全然違う。

 話し合いをするなら今がチャンスなのではないかという気持ちが高まっていく。

 すると何を思ったのか門番が立ち塞がってきた。

「いま学園長は授業中です。あと半刻ほどお待ち下さい」

 そして先程と全く変わらない発言を繰り返す。
 内務大臣は余りの話の通じなさ加減に怒りを覚えると、門番に向かって怒鳴りつけた。

「ふざけるなっ! 私を誰だと思っている。私はこの国の内務大臣スカーリ様だぞ! 理事と学園長に用があると言っている! さっさと呼んでまいれっ!」

 しかし、いくら怒鳴り声を上げても暖簾に腕押し。
 門番は全く動じた様子がない。

「大変申し訳ございませんが、お断りさせて頂きます。理事と学園長から内務大臣がこちらにいらしても中には通さない様仰せつかっておりますし、約束が無いと言うのであれば尚更です」

 それどころか平然とした表情でとんでもない事を呟いた。

「なぁっ! なにっ! 理事と学園長がそんな馬鹿な事を言う筈が……」

 内務大臣は以前、王城であった事を思い返す。
 もしかしてあれは、学園長の虫の居所が悪かっただけではなかったのか……。

 ティンドホルマー第二魔法学園の創設は、魔法学園側にとってもメリットがある事。
 そう信じて疑わなかったからこそ、魔法学園との関係改善を申し出たのにこれでは話が違う。

 だとしたら拙い。非常に拙い状況だ。
 こんな事になる位ならユートピア商会の土地を接収する為の理由付けとして、ティンドホルマー第二魔法学園の創設など言わなければよかった。

 そういえば、グレナ・ディーン学園長には以前『貴様ッ! この私が上申し、陛下が決定した事に異を唱えるのか! ティンドホルマー魔法学園の学園長とはいえタダではすまんぞ!』とそんな事を言ってしまった気がする。

 ま、まずいッ……!

「な、何とかしなければ……何とかしなければ私の責任になってしまう」

 大量の汗を流し、ふらつきながら呟くと門番が声を上げた。

「それ以上近寄らないで頂けますか? これ以上はいかに内務大臣とはいえ武力行使させて頂きます」

 しかし、内務大臣は止まらない。
 内務大臣の頭は保身の事で一杯だ。今どのような行動に移っているか、自分ですら把握していない。

「スカーリ様!」

 自身を呼ぶ声に正気を取り戻した内務大臣が顔を上げると、騎士が門番を取り押えていた。

「スカーリ様。ご無事ですかっ!」

 どうやら、門番により武力行使されそうになっていた所を騎士が助けてくれたらしい。

「……ああ、問題ない」

 そう呟き前に視線を向けると、そこには開かれた校門の姿が目に映る。
 厄介な門番は騎士が取り押えたまま……。

 これは……もしやチャンスなのではないか?

 騎士に取り押さえられたままの門番を二度見すると、騎士に「よくやった!」と大声で呟く。
 そこからの行動は速かった。

 門番のいない校門を通り抜けると、グラウンドで授業中のグレナ・ディーン学園長の元へと走り出す。
 あれだけ機嫌が良さそうなのだ。今ならきっとティンドホルマー第二魔法学園創設の話も快く受けてくれるに違いない。

「グレナ・ディーン学園長。今日は大切な話が……グギャッツ!」

 グラウンドに入った所でそう叫ぶと、とんでもない威力の魔法が内務大臣に命中する。
 実際には、的当ての授業中に的に向かって生徒が魔法を発動しただけだが、内務大臣はそうは思わなかった。

「ぐ、ぐぐぐっ。一体何が……。攻撃、そうか私は攻撃されたのか……」

 内務大臣は怒りの形相で起き上がると、自身に対して魔法を当ててきた生徒を睨みつけ恫喝する。

「き、貴様かっ! いきなり私を攻撃するなぞどういうつもりだ! 内務大臣に対する攻撃、これは重罪だぞ! わかっているのかっ!」

「あなたこそ、今のご自身の立場を分かっているのですか?」

「なんだ貴様はっ! あっ……」

 後ろから声を掛けられた内務大臣は怒りの形相で怒鳴りつける。
 すると、そこには怒りを通り越して笑顔となってしまった学園長の姿があった。

「グ、グレナ・ディーン学園長……。違うのです。今この子供が私に攻撃を……」

 必死の弁解をしようにも言葉が出てこない。
 グレナ・ディーン学園長は笑顔の表情を貼り付けたまま、懐から書類を取り出すと内務大臣に向かって放り投げる。

「グ、グレナ・ディーン学園長……。これは……?」

「ティンドホルマー魔法学園のエストゥロイ領移転の方針稟議が通りました」

 学園長の言葉を聞いた内務大臣は、大量の汗を流しながら呟く。

「お、お待ち下さ……」

「今まで大変お世話になりました。国王陛下にはそのようにお伝え下さい。……さあ皆さん教室に戻りますよ」

 必要な事だけ言い放つと、学園長は内務大臣に背を向け、子供達と共に教室へと戻っていった。
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