上 下
119 / 486
第七章 教会編

第179話 異端審問官①

しおりを挟む
「あら、あらあら? いつの間に……あの子……ルチアを攫っていくなんて、いけません。いけませんね。」

 神託スキルを持つ修道士ルチアをこのままにしておく事は出来ない。
 この事は神託にもなかった出来事だ。

 まだ発現したばかりとはいえ、神より言葉を賜わる事のできる神託スキルは危険だ。
 大司教ソテルがこれまで入念に準備してきた事、そのすべてをひっくり返されかねない。

「追わなくてはなりませんね……。」

 ソテルは神託スキルにより、ルチアの居場所を特定する。

「フェロー王国の王都にある邸宅ですか……まさか本当にあの商会の関係者とは思いもしませんでした。それにしても、あの子……こんな所に何の用があって来たのでしょうか?」

 考えても、考えてもスヴロイ領近くにある森深くに入り込む理由が見つからない。

「……考えていても仕方がありませんね。あら、あらあら? 異端審問官……ようやくの到着ですか。ここは一旦、神託通り彼等にすべてを任せましょう。」

 そう呟くと、ソテルは笑みを浮かべながら空間属性魔法の瞬間移動テレポーテーションで王都にある教区教会へと移動する。

 ソテルがフェロー王国の王都にある教区教会へ瞬間移動テレポーテーションすると、そこには異端審問官が待っていた。

「……遅いぞ。ソテル。どこに行っていた。」

 大司教ソテルを待つ8人の異端審問官が、怒りの表情を向ける。

「これは、これは……ドミニカ様。遠い所からお越し頂きありがとうございます。ようこそ教区教会へ。神事に没頭するあまり遅れてしまいました。申し訳ございません。」

「ご託は良い。ソテル……異端者について詳しく話せ。神託でこれから我々が何をどう成すべきかについても教えろ。」

「わかりました。」

 ソテルはそう呟くと、神に祈りを捧げ神託スキルを発動させる。

「ああ、ああ……これは困りました。これを言ってしまっていいのでしょうか?」

 異端審問官長ドミニカは、ジロリとソテルを睨みつける。

「時間が惜しい。さっさと話せ。」

「ふふっ、それでは神より賜ったお言葉を伝えます。異端審問官壊滅だそうです。まるで商会に触れるなと言わんばかりの神託ですね。ああ、困りました。困りました。しかし……。」

「……これも神の与えたもうた試練なのだろう。神の与える試練に間違いはない。異端信仰者を正統側へ復帰させる事こそ我らが使命。これまでも我らは強大な力を持つ異端信仰者を正統側へと導いてきた。異端審問官として異端信仰者を放置することはできん。」

 異端審問官壊滅というこれほどまで直接的な神託を賜わったのは驚いた。
 しかし、不利な神託を賜わったのは、何もこれが初めての事ではない。
 何度となく不利な神託を賜わりそれを覆してきた。

「そうですか、そうですか。それでは神託で賜わった異端信仰者の情報をお渡しいたします。」

 ソテルは、空間から1枚の紙を取り出す。

「これは神託で賜わった異端信仰者の情報を記入したものです。ここに異端信仰者のすべてが書かれています。どうぞお受け取り下さい。」

「協力感謝する。では行くぞ。」

 ドミニカはソテルから紙を受け取ると、異端審問官を引き連れそのまま教区教会を出ていく。

「ふふっ、ルチアの事を除けば、すべては神託通り……しかし、異端審問官壊滅とは……商会とはそれほどの力を持っているものなのでしょうか? いけません、いけませんね。神託を疑ってはなりません。異端審問官を退ける程の力を持つ商会、そしてその商会主である佐藤悠斗にアラブ・マスカット……あの子を追い、ルチアを取り戻すのは彼らを壊滅させてからに致しましょう。」

 ソテルは教区教会を去って行く異端審問官たちに視線を向けると、微笑を浮かべ異端審問官たちの背中に向けて小さく呟く。

「さようなら、異端審問官長ドミニカ。あなたはこれまで聖モンテ教会の為、良く尽くしてくれました。後の事はすべて私に任せ、神の御許にお帰りなさい。」

 異端審問官壊滅、これほどまで直接的な表現の神託を私は聞いた事がない。
 おそらく、彼らは今回確実に滅ぶ事になる。

 ソテルは小さく祈りを捧げると、瞬間移動テレポーテーションでサンミニアート・アルモンテ聖国へと移動する。

 異端審問官壊滅と神託を賜わった以上、ソテルも行動に移らなければならない。

「ああ、ああ……なんと言う事でしょう。これが神の意思なのですね。」

 異端審問官長ドミニカとその他7人の異端審問官を倒したところで、異端審問官壊滅とはならない。
 神国で育てられている異端審問官候補生たちを根絶やしにしない限り、異端審問官が滅ぶ事はないのだ。

 しかし、異端審問官壊滅が神の意思であるならば、神託を賜わった聖モンテ教の大司教として、それを実行に移さない訳にはいかない。

「ああ、ああっ! 私は今歓びに震えています。今の私は、同じ聖モント教の門徒を神の御許に送りとどける正に天使。これが神の意志なのですね。おお神よ、いま御身に敬虔なる門徒をお送り致します。」

 ソテルは敬虔なる異端審問官を育てるドミニカ修道会を眼下に収めると口元を歪め狂気的に笑い出す。

「さあ神託を実行に移しましょう。」
しおりを挟む
感想 3,253

あなたにおすすめの小説

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。