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第七章 教会編
第171話 異端審問官
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【生活魔法】とは、聖モンテ教の教区教会に喜捨することで授けて貰うことのできる恩寵で、授けて貰うと着火、飲水、洗浄といった魔法を使えるようになる。
この魔法は、生活の様々な場面で使われ、蝋燭や松明に火を灯す【着火】、水を好きな時に出すことのできる【飲水】、身体の汚れや部屋の汚れを落とす【洗浄】は日々の生活に不可欠なものになっている。
それを司祭である私に奪ってこいと!?
確かにこの杖型の魔道具を使えば【生活魔法】を与えることも奪い去ることも容易い。
しかし【生活魔法】は、民にとって日々の生活を送るのに不可欠なものになっている。
例えば光源、フェロー王国の王都では蝋燭や松明に変る新しい光源が多く出回っている様だが、私の担当する教区教会は違う。今も蝋燭や松明を光源としている。
そんな中、【生活魔法】を失えばどうなるか……。
「も、もう嫌だっ……。」
聖モンテ教会の司祭マリオは、高らかに笑い声を上げる大司教ソテルの狂いっぷりに、思わず杖型の魔道具を手放すと、顔を引き攣らせ後退る。
「あら……あなたどこに行くのです? 信徒たちから【生活魔法】を奪い去るための魔道具を忘れていますよ?」
大司教ソテルはマリオが手放した杖型の魔道具をマリオの手に握らせると、耳元でそっと呟く。
「とても簡単なことでしょう? その杖を振い喜捨を断る異端者から【生活魔法】を奪い去るだけなのですから……。」
マリオは怯えた表情を浮かべながら杖を握りしめ、震えるように声を上げる。
「も、もう嫌だ。もう嫌だ……。」
「――いま、なんと言ったのですか? 私の聞き間違いかもしれませんので、もう一度、大きな声で話してください。」
大司教ソテルは冷たい視線をマリオに向ける。
「も、もう嫌なのです。私ではユートピア商会の商会主とは会うことが叶わず、商会内に入ることもできません。私の商会も、喜捨を求めたことで警戒させてしまいました。私では【生活魔法】を奪うため近づくこともできません……。」
「――あなた。自分が何を言っているのかわかっているのですか? これ以上私を失望させないでほしいのですが……。」
「で、ですが……。」
「仕方がありませんね。」
大司教ソテルは、マリオから杖型の魔道具を奪い去ると、手のひらをマリオに向ける。
「では、仕方がありません。あなたはもう要りません。」
大司教ソテルがそう呟くと、マリオの身体がボコボコと膨らみ、泡が弾けるかのようにパチンと割れると身体中から血が吹き出る。
「あ、ぎゃぁぁあっ! ソテル様、ソテル様ぁ!」
苦しむマリオを見下すと、大司教ソテルは杖型の魔道具を手に持ちマリオに振うと【生活魔法】を奪い去る。
「このように【生活魔法】を奪うのです。とても簡単でしょう? 他の教区から来たあなたであれば、私のイメージを落とすことなく自由に動かすことができると考えていたのですが残念です。こんなにも役に立たないとは思いもしませんでしたが仕方がありません……。あまり頼りたくはなかたのですが、異端審問官に処理を任せることに致しましょう。これ以上、私の教区教会を穢す訳にはまいりません。民衆は正しい教えなくしては異端に陥りやすい迷える子羊とはよく言ったものですね……嘆かわしいことです。」
大司教ソテルは血塗れになり苦しむマリオを一瞥すると、近くにいた修道士に声をかける。
「異端審問官に連絡を取りなさい。それと、そこで呻いているゴミを教会の外へ。神聖な教会内が血で穢れてしまいましたからね。掃除もしておきなさい。」
「「「畏まりました。」」」
大司教ソテルの言葉に、複数の修道士が動き出す。
「さて私は、私の行うべきことを致しましょう。」
そう呟くと、大司教ソテルは笑みを浮かべながら教会の外へと向かっていった。
――異端審問。それは聖モンテ教会が異端信仰者を正統側へ復帰させることを目的とした制度。
――異端審問官。それは魂の犯罪を裁く聖モンテ教会の裁判官。裁判でいうところの検察、裁判官の両方を勤める存在である。
聖モンテ教会の異端審問官長ドミニカの元に、一通の手紙が届く。
ドミニカが手紙を開くと、そこには異端者の名前と、罪状、異端者発生の場所が記されていた。
「異端者、ユートピア商会の会頭、佐藤悠斗……私のグループの会頭、アラブ・マスカット。罪状、聖属性魔法が付与された魔道具の販売及び万能薬のレシピの配布か……異端。確かに異端だ。」
ドミニカは手紙に記された内容を読み上げ呟くと、手紙を火の中に放り込む。
「異端者が発生した場所は、フェロー王国……。」
ドミニカは異世界審問官たちに視線を移し、声をかける。
「行くぞ……異端者が発生した場所はフェロー王国。執行準備を整えろ。」
「「「…………。」」」
ドミニカがそう言うと、異端審問官たちは声を出すこともなく、フェロー王国へと向かうための準備を進めていく。
そして準備が終わると、異端審問官長ドミニカの前に立ち並ぶ。
「準備ができたようだな。さあ、異端者の犯した魂の犯罪を裁きに行くぞ。」
そう言うと、異端審問官たちはフェロー王国へと向かって動き出した。
悠斗とマスカットの与り知らぬところで、両商会には危機が迫っていた。
この魔法は、生活の様々な場面で使われ、蝋燭や松明に火を灯す【着火】、水を好きな時に出すことのできる【飲水】、身体の汚れや部屋の汚れを落とす【洗浄】は日々の生活に不可欠なものになっている。
それを司祭である私に奪ってこいと!?
確かにこの杖型の魔道具を使えば【生活魔法】を与えることも奪い去ることも容易い。
しかし【生活魔法】は、民にとって日々の生活を送るのに不可欠なものになっている。
例えば光源、フェロー王国の王都では蝋燭や松明に変る新しい光源が多く出回っている様だが、私の担当する教区教会は違う。今も蝋燭や松明を光源としている。
そんな中、【生活魔法】を失えばどうなるか……。
「も、もう嫌だっ……。」
聖モンテ教会の司祭マリオは、高らかに笑い声を上げる大司教ソテルの狂いっぷりに、思わず杖型の魔道具を手放すと、顔を引き攣らせ後退る。
「あら……あなたどこに行くのです? 信徒たちから【生活魔法】を奪い去るための魔道具を忘れていますよ?」
大司教ソテルはマリオが手放した杖型の魔道具をマリオの手に握らせると、耳元でそっと呟く。
「とても簡単なことでしょう? その杖を振い喜捨を断る異端者から【生活魔法】を奪い去るだけなのですから……。」
マリオは怯えた表情を浮かべながら杖を握りしめ、震えるように声を上げる。
「も、もう嫌だ。もう嫌だ……。」
「――いま、なんと言ったのですか? 私の聞き間違いかもしれませんので、もう一度、大きな声で話してください。」
大司教ソテルは冷たい視線をマリオに向ける。
「も、もう嫌なのです。私ではユートピア商会の商会主とは会うことが叶わず、商会内に入ることもできません。私の商会も、喜捨を求めたことで警戒させてしまいました。私では【生活魔法】を奪うため近づくこともできません……。」
「――あなた。自分が何を言っているのかわかっているのですか? これ以上私を失望させないでほしいのですが……。」
「で、ですが……。」
「仕方がありませんね。」
大司教ソテルは、マリオから杖型の魔道具を奪い去ると、手のひらをマリオに向ける。
「では、仕方がありません。あなたはもう要りません。」
大司教ソテルがそう呟くと、マリオの身体がボコボコと膨らみ、泡が弾けるかのようにパチンと割れると身体中から血が吹き出る。
「あ、ぎゃぁぁあっ! ソテル様、ソテル様ぁ!」
苦しむマリオを見下すと、大司教ソテルは杖型の魔道具を手に持ちマリオに振うと【生活魔法】を奪い去る。
「このように【生活魔法】を奪うのです。とても簡単でしょう? 他の教区から来たあなたであれば、私のイメージを落とすことなく自由に動かすことができると考えていたのですが残念です。こんなにも役に立たないとは思いもしませんでしたが仕方がありません……。あまり頼りたくはなかたのですが、異端審問官に処理を任せることに致しましょう。これ以上、私の教区教会を穢す訳にはまいりません。民衆は正しい教えなくしては異端に陥りやすい迷える子羊とはよく言ったものですね……嘆かわしいことです。」
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そう言うと、異端審問官たちはフェロー王国へと向かって動き出した。
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