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第六章 商業ギルド対立編

第163話 マスカットとの話し合い

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「――マスカットさんは俺に何をしてほしいんですか?」

 そう問いかけると、神妙な顔をしたマスカットが口を開く。

「……私は商人連合国アキンド、商業ギルドのあり方を変えたいと思っている。悠斗よ、お前は今の商業ギルドのあり方について疑問に思ったことはないか? 商人ランクの高い者ほど加盟金の負担が軽くなる仕組み、ギルド脱退者に対する厳罰に閉鎖的・特権的な評議員の権力……。自由競争を徹底的に排除し、ギルドがモノの価格統制をとることで確かに商業ギルド構成員が共存共栄できるシステムが構築されている。しかし私は思うのだ……。統制された経済に発展はない。モノの売り買い、価格は自由であるべきだと。」

 マスカットの向けてくる真剣な視線に息をのむ。

「商人連合国アキンドは商業ギルドを各地に置くことで地方の商人たちをまとめ上げ、今では一国の流通をも自由に操ることさえできるほどの力を持っている。もちろん、アキンドが音頭をとることで製品の品質・規格・価格などをギルド内で統制することができ、品質の維持なども図られる。そのこと自体は悪いことではない。しかし、現状はどうだ? 新しい事業や商品が開発されても、保守派の評議員が商業ギルドを扇動し潰しにかかる。ギルドから離れても脱退者には厳罰に処す。これでは商業の発展に繋がらない。衰退するばかりだ……。私はこれを打開したい。それにはどうしたらいいと思う?」

 悠斗が黙っていると、マスカットは続けてこう話す。

「これを打開するためには、商人連合国アキンドの保守派の評議員……少なくとも半分以上の評議員をすげ替える必要がある。少なくとも私はそう思っている。」

「難しい話になってきましたが、マスカットさんは俺に保守派の評議員をすげ替えるための手伝いをしてほしい。そういうことですか? そのため、俺をギルドに繫ぎ留めるだけではなく、Sランクに昇格させたと……。」

 悠斗の問いにマスカットは首を振う。

「いや、今回の件は偶然が重なっただけだ。確かに私は悠斗をSランク商人に昇格させるつもりでいた。しかし、そんな策を練らずとも、評議員たちが勝手にお前をSランク商人に認定したのだ。」

「……それはどういうことで??」

 悠斗にはさっぱり評議員たちの気持ちが分からない。

「先ほど言っただろう? 商人連合国アキンドがお前のことを『一国の流通をも左右するほどの力を持つ商人』であると認めたと……。首輪を外した状態でいるよりかは、首輪を付けた状態でいた方が安心できる。奴等はそう考えたんだろう。甘い考えな事だ。自分の首を絞める行為だとも気付かずに……。まあ私にしてみれば僥倖を得たといっても過言ではない状況となったわけだがな。」

 確かに、Sランク商人にいきなり認定されてもピンとこないし、現状、首輪が付けられているかと言えばそうでもないような……。

「まあ、難しい話となってしまったが、簡単にいえばだ。半年後開かれる評議員選挙それに立候補してくれないだろうか? なに、悪いようには扱わない。いまアキンドに必要なのは新しい風なのだからな。」

 まさかの出馬要請である。
 異世界とはいえ高校1年生にして出馬を要請されることになろうとは思いもしなかった。

「色々お世話になっている手前申し訳ないのですが、正直、あまり気乗りしないといいますか……。」

 そもそも、俺に各国の商業ギルドをまとめる力があると本当に思っているのだろうか?
 いや、多分そんな事は思っていないだろう。

「……時に悠斗よ。お主の商会が従業員の福利厚生に力を入れていることを耳にしている。もう少ししたら慰安休暇というのを取るようだな……。」

「そうなんですよ。よく知っていますね? 最近、うちの従業員たちはよくやってくれていますから、シフトをずらして慰安休暇をとってもらおうと思っているんですよ。前に【私の宿屋】に泊めて頂いた時の話をしたら皆が泊まってみたいと言い出しまして、皆楽しみにしているんですよ。」

「ほう。それは良かった。私の経営する【私のグループ】はフェロー王国中に支店を持っている。もし協力してくれるのであれば従業員のために最高級の宿を無料で提供しようではないか。如何かな?」

 マスカットの言葉に悠斗は思わず、『グッ』と呟いてしまう。
 言い方は非常に悪いが、今の悠斗であれば金にものをいわせて【私の宿屋】の最高級部屋をとることは容易い。

 しかし、マスカットは全従業員分の宿(最高級)を無料で提供してくれると言っている。
 いや、無料と言っていて無償ではないのだけれども無料で提供してくれると言っている。

 確かに経営者であるマスカットさんに直接頼み込んで、最高級の宿を確保してもらうことほど確実な手段はない。しかし、その対価が評議員選挙では明らかに吊り合っていない。

 悠斗はお断りの言葉を口に出そうとする。
 しかしマスカットは諦めない。

「いや、従業員のため【私の宿屋】の最高級ランクの部屋を全員分用意することなど普通の人にはできないことだ。もしかしたら、宿なんてことがあるかもしれないな。悠斗が協力してくれるのであれば、全従業員が満足して慰安旅行を楽しめるよう【私のグループ】が全力を持って事にあたるのだが、どうしたものか……。せめて私の考えに賛同してもらえないか?」

 くっ! なんて卑怯な……大人はみんなそうだ。

 流石は百戦錬磨の商人。元の世界の高校1年生では話にならなかったようだ。無念である。評議員選挙に出るかどうかは別として、悠斗は従業員の笑顔のためマスカットの話を条件付きで聞きいれることにした。
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