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第六章 商業ギルド対立編

第162話 Sランク商人昇格!

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「ああ、いい忘れていたことがあった。悠斗よ、今日からお前はSランク商人だ。ミクロ、悠斗に新しいギルドカードを渡してくれ。」

「はい。」

 マスカットがそういうと、ミクロは引出からギルドカードを取り出し、悠斗へ手渡す。

「悠斗様、こちらが新しいSランク商人のギルドカードとなります。現時点を持って、悠斗様がお持ちのAランク商人のギルドカードを預らせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 悠斗は収納指輪からAランク商人のギルドカードを取り出すとミクロへと手渡す。

「確かに、預らせて頂きました。それでは、失礼致します。」

 悠斗から会員証を受け取ったミクロたちはギルドマスター室を出ていき、マスカットと二人だけの空間になる。

 ミクロたちが部屋を退出したことを確認すると、マスカットが話しかけてきた。

「Sランク商人は、評議員3名又は、3名以上のギルドマスターの承認を受けることで昇格することのできる商業ギルドの最高位だ。Sランク商人の特典として、年間の税率は3%、その他にも多くの特典がある。何か質問はあるか?」

 急な話の流れに身を任せてしまったけど、なんで急にSランクに昇格してくれたんだろ?
 まあ、税率は安くなるし、商売もしやすくなるからいいんだけど、なんか含みがあるような気がしてならない。

「それではひとつだけ……なんで急にSランクに昇格してくれたんですか?」

 Sランク商人になりたいと思ったわけでもなければ、そう行動したわけでもないし、リマとマスカット以外の評議員と会ったこともなければコネクションを持っている訳でもない。
 はっきり言って、マスカットさんが俺をSランク商人にするため動いた意味が分からない。まあ、貰えるものは貰っておくんだけど……。

「それはな……端的に言うと、悠斗、お前を商業ギルドに繋ぎ止めるためだ。そして商人連合国アキンドの評議員たちがお前のことを『一国の流通をも左右するほどの力を持つ商人』であると認めたことにもよる。例えば此度の件のように、悠斗のようなSランク相当の商人が商業ギルドを脱退した場合、それによって何が起こったと思う?」

 何が起こったか……何か起こったことがあっただろうか?

「リマさんの盛大な自爆とかですか?」

 マスカットは引き攣った顔を浮かべると、悠斗に視線を向けゆっくり口を開く。

「ま、まあ確かに、悠斗に手を出したことにより、一年で白金貨500,000枚(約500億円)を稼ぎだすSランク商人で評議員のリマが破滅し、商業ギルド……いや、商人連合国アキンドも白金貨12,000枚(約12億円)の被害を被ったことは確かだ、これもSランク相当の商人が商業ギルドを抜けたことで引き起こされたことのひとつといえる……。」

「えっ、他になにかありましたっけ?」

 一体俺が何を引き起こしたというのであろうか?
 全く記憶にない。

「まあ、引き起こした又は引き起こしそうになったことと言い換えてもいいかもしれん。」

 要領を得ない……物事は端的に言ってほしいものだ。
 勿体ぶって話すのは止めてほしい。

「…………。」

「わからぬか? 此度の件、リマの自爆とはいえ、大通りの商会はどうなった?」

 悠斗は本当に分からない様子でマスカットの質問に答える。

「支援金をたくさん貰って幸せになった……とかですか?」

 悠斗の回答にマスカットは心の中で頭を抱える。

「いや、違うわッ! ……い、いやすまん。つい怒鳴ってしまった。」

 マスカットは『コホン』と息をつくと、神妙な表情で悠斗に視線を向ける。

「大通りの商会はユートピア商会の傘下になった。土地や建物ごとな……。そんな状態でユートピア商会が一切の販売をしなくなったらどうなると思う。王都の流通は大通りの商会が担っていると言ってもいい。それだけで王都の流通が一時的に途絶える。それだけではない。リマに唆された財務大臣がユートピア商会を国有化しようとしていたな……もし私が仲裁に入らず、ユートピア商会が国有化された場合どうしていた?」

 いや、従業員に退職金を配った上で、普通に逃げ出していましたけれども……。

「悠斗……お前の表情を見ていればわかる。ユートピア商会ごと邸宅を畳んで従業員ごとこの国から逃げていただろう。邸宅に設置された迷宮核ごとな……。」

 め、迷宮核のことを知っている!?
 あっ、確か前にマデイラ大迷宮の攻略者であることを見抜かれていたっけ……。

「そうですね。そんな事をされたら、確かにこの国から逃げていたかもしれません。迷宮核ごと……ね。」

「クククッ、最後の言葉はカマをかけてみただけだが……他言はしないから安心してくれ。詰まることそういうことだ。ユートピア商会はフェロー王国に根を張り過ぎている。君がいなくなった後、フェロー王国は国難に見舞われるだろう。これは迷宮核を抜いたことによる影響だけにとどまらない。フェロー王国では普通に購入できていた紙、仮設足場、照明器具に冷蔵庫、これらすべての供給が止まるのだ。代替品があればいい。そう思うものもいるだろう。だが代替品で我慢できるか? そんなことは無理だ。一度その便利さを知ってしまった民衆はそれを忘れることができない。もしユートピア商会で売っていた物が壊れたらどうする? 壊れた物を修理、又は売ってくれる商会が国内に存在しない。既に街灯として行き渡っている照明器具に不具合があったらどうする? 国にそんなメンテナンスはできない。つまり八方塞がりなんだよ……。ハッキリ言って君を敵に回すのは恐ろしい。迷宮核が抜かれた迷宮がどうなるのかも知っている。だからこそSランク商人として抱え込むことにしたのだ。」

 なるほど、言われてみれば納得の理由だ。
 この国からユートピア商会が無くなり、他国へと逃げた場合、いまマスカットさんが言ったことが現実のものとなるだろう。
 もちろん、この国を去る際には、この土地がそのうち陥没することを伝えるつもりでいるし、場合によっては塞いであげてもいいけど、人のものを勝手な都合で盗ろうとする国にそんなことをしてあげる筋合いはないし……迷いどころだ。
 まあマスカットさんがこのままフェロー王国の管轄評議員になるというのであれば、迷宮を塞いでから出ていくことにはなったかもしれない。お世話になっているし……。

「私が評議員でいる間はいい、信義則に基づきある程度のことであれば何とかしよう。しかし今回のようにリマに唆されたフェロー王国の大臣がユートピア商会を国有化しようとすることなど前代未聞の出来事だ。こればかりは悠斗が商業ギルドに加盟していなかった場合、庇い立てすることができずユートピア商会は確実に国有化の方向に傾いていただろう。王都陥没のおまけつきでな……。」

 確かにそうかもしれない。いくらマスカットさんとはいえ、商業ギルドを脱退しているもののフォローを行うことは難しい。

 しかし、なぜそんなにも俺のために行動してくれるのだろうか?

「……確かにそうかもしれませんね。今回の件、本当にありがとうございました。それで――マスカットさんは俺に何をしてほしいんですか?」

 悠斗はそうマスカットに問いかけるのであった。
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