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第六章 商業ギルド対立編

第155話 商業ギルドの裏組織

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 フェロー王国にある評議員リマの保有する倉庫。
 そこにはガラの悪い男たちが60人集まっていた。

「久しぶりの獲物だなぁ!」
「今回のターゲットはどの商会だ?」
「リマさんの指令書によると、王都にあるユートピア商会、支援金対象の商会、佐藤悠斗邸宅の3つだ!」

「俺たちにとっちゃ楽勝だなぁ! 早いところ終わらせてリマさんにイイところに連れて行ってもらおうぜ。」
「俺は久しぶりにイイ酒が呑みてぇ!」

 ここに集まった60名はリマが統括するフェロー王国、商業ギルドの裏組織、荒事専門の部隊である。
 王都商業ギルドのギルドマスター、ミクロさえ知らない評議員リマ直属の組織であった。

 ミクロがいくら評議員のリマに、ギルド職員の待遇を改善する要望書を提出したり、直談判しても聞く耳を持ってくれなかった理由はここにある。

 商人連合国アキンドでは、商業ギルドを運営する費用を均等に割り振り、各国を担当する評議員にその使用用途を一任している。そのため、リマの担当する商業ギルド職員の待遇は、他の商業ギルドと比べあまりいい待遇とはいえない。
 とはいえ、普通にどこかの商会で働くよりかは良い条件となっているため人が集まってくる。その点をリマはしっかり見極めて商業ギルドの運営をしていたのだから流石といえる。

 もちろん、そんなリマにも誤算はあった。
 そう、荒事専門の部隊を維持するのは非常に金がかかるのだ。

 仕事終わりに必ず、宴会の領収証は切らされるし、月々の給与の他、成功報酬まで要求される。
 これでは、とてもじゃないが商業ギルド職員の待遇を改善することはできない。

 しかし、リマはこの裏組織の存続にこだった。
 商人たちは海千山千の事業家の集まりだ。そんな商人たちを纏め上げ秩序を保つのは並大抵の事ではない。そんな商人たちを纏め上げるのに必要なのが、荒事専門の裏組織の存在である。

 そしてこういった裏組織は、主に、商業ギルドを脱退していった商人たちに差し向けられる。

 商業ギルドは、商業ギルドに属する商人たちが手を取り合い協調性を持って運用している。それを乱すものは許さない。

 それが、商人連合国アキンドの評議員としてのリマの行動原理だ。
 その行動原理の元、リマは今に至るまで荒事専門の裏組織を纏め上げてきた。

 そして、その行動原理に従い、今、佐藤悠斗を中心とした商会、邸宅にその暴力装置が向かおうとしていた。

「よし、そろそろ行くかァ!」
「んじゃあ、いつも通り3班に分けて行動するぞ! A班はユートピア商会、B班は支援金対象の商会、そしてC班は佐藤悠斗邸宅を襲え、気に入った女子供がいたら攫ってきてもいいぞ!」

「いいねぇ! 最近、商人が商業ギルドを脱退することもなかったからな、久々にたぎるぜぇ!」
「騎士や兵士には気を付けろよ! 捕まったらリマさんに迷惑をかけちまうからよ!」
「わかってるって、そんなヘマしねーよ!」

「いや、お前騎士に捕まって、牢にぶち込まれたじゃねーかw」
「ああ? ケンカ売ってんのか!?」
「うるせぇぞ! 手前らッ! さっさと班に分かれろ!」

 こうして、商業ギルドの裏組織は武器を片手に動き出すのであった。


 ――ところ変わってユートピア商会。

 ユートピア商会では、閉店作業と明日の開店準備の真っ最中。
 時刻はもう午後6時をまわっていた。

 商会前でトリアがカイロとラオスの3人で掃き掃除をしていると、商会備え付けの街燈に光が灯る。

 トリアは街燈の灯りに視線を向けると、数週間前までの生活を思いかえす。

 つい数週間前までスラムで生活していたのが嘘のような毎日、正直もう駄目かと思うことも何度もあった。しかし、この商会に来てから生活は一変する。
 スラム出身だからと差別も区別もなく、まるで家族のように接してくれる悠斗様。そして同じくスラムで暮らしてきた仲間たちに優しい家族……。こんなにも楽しく穏やかな日常を送ることができているのは、悠斗様に巡り合わせてくれた神さまのおかげだ。

「こんな毎日が何時までも続きます様に……。」

 トリアは掃き掃除の手を止め、街燈の灯りに視線を向けながら祈りを捧げる。

「ん? なんか言ったか?」
「暗くなってきたよー。早く掃き掃除終わらせようよー。」
「……そうね。早く掃き掃除を終わらせて、ご飯にしましょうか。」

 トリアたちが商会前の掃き掃除に戻ると、ガラの悪い集団が街燈の灯りに照らされる。

「おっ! 第1店員はっけ~ん!」
「まずはこいつ等から分からせてやるとするか!」
「そうそう、商業ギルドを抜けた商会の末路ってやつをなぁ!」
「女と子供は攫って行こうぜッ! 良い値段で売れそうだ。」

 ラオスはトリアとカイロを背にして呟く。

「ここは俺が奴らを止める。トリア、カイロ、商会内に戻れ……。」

「い、一緒に逃げましょう。商会内にさえ入ってしまえば……。」
「お、俺も一緒に戦う!」

 そう言っている間にも、男たちはラオスたちとの距離を詰めてくる。
 ラオスはトリアとカイロの方に振り返ると背を押し出し、大きな声で叫ぶ。

「――ッ! いいから行けッ!!!」

 男たちを目の前に、後ろを振り向き、トリアとカイロの背を押したラオスに凶刃が迫る。

 ……ことはなかった。

 ラオスが恐る恐る振り向くと、黒い影が男たちの剣を受け止めている

 一方、ラオスに剣を振りかざしていた男たちも驚愕の表情を浮かべていた。

「……なっ! 何だコイツ!」
「聞いてねぇぞ! こんなの聞いてねぇ!!」
「おい、おい! ヤベーんじゃねぇか!?」

 ラオスに向けて振りかざした剣を受け止めたモノの正体、それは悠斗が従業員全員に着用を義務付けている腕輪に付与された【影精霊スピリット】である。

 ユートピア商会では、従業員の安全のため【影精霊スピリット】を付与した腕輪を全員に配布し着用を義務付けている。
 本来、ラオスほどの実力があれば、このガラの悪い集団位一人で簡単に追い払うことは可能だ。
 しかし、それはちゃんとした装備があればの話である。
 流石のラオスも箒一本で、20人ものガラの悪い集団を追い払うことはできずにいた。

 そのため、ラオスの危機に反応した【影精霊スピリット】が安全を守るため顕現したのである。

 それだけではない。

「ラオスさん、トリアさん、カイロくん。ご苦労様です。遅れてしまい申し訳ございません。掃き掃除はもう十分ですのでゆっくりとお休みください。ああ、先ほどのラオスさん格好良かったですよ。昇給対象として悠斗様に報告を上げておきます。」

 悠斗邸広場のボスモンスター、土地神ことトッチーのお出ましである。

「この屑共は私が責任をもって掃除しておきます。」
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