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第六章 商業ギルド対立編

第139話 ミクロの情報収集

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「まずは、ユートピア商会の設立おめでとうございます。ギルド員であれば、お祝いの花を贈らせて頂いたところですが、申し訳ございません。」

 どうやら、ユートピア商会の設立を祝うことができなくて申し訳なく思っている様だ。
 別にその位いいのに、律儀な人である。

「いえいえ、謝られることはありません。無事、商会をオープンさせることができましたし、オープン初日からたくさんの方にご来店頂きました。そのおかげで、初日から白金貨760枚もの売上を上げることができました。お客様には感謝の念に堪えません。」

「白金貨760枚ですかっ……。」

 ミクロさんの頬がひくついている。
 商業ギルドが上げている売上や利益から考えたら微々たるものだろうに。

「先ほど、スラム出身者を雇っているとお聞きいたしましたが、なぜ採用者の中にフェロー王国の市民がいないのでしょうか?」

「フェロー王国の方ですか? 採用試験をしたらスラム出身の方と、他国の方しか残らなかったんですよ。不思議なこともあるものです。ああ、でもフェロー王国の王国民の方も募集していますよ!」

 従業員にフェロー王国出身者がいないことがそんなにおかしいだろうか?
 いや、おかしいか。フェロー王国の王都で従業員を探しているのに、従業員として採用されたのが、フェロー王国以外の出身者だなんて、不思議なこともあるものだ。

 まあ、そのおかげで、スラム出身という優秀な人材を獲得することができたわけだけど、スラム出身というだけで、区別するなんて勿体ないな。文句も言わない。肉体労働も進んでやってくれる。研修でも進んで学びに行っている。こんなに優秀で使い勝手のいい人材が揃っているのになんでスラム出身者を採用しないんだろう? それこそ不思議である。

「そうですか……。ああ、ジュリアが売買契約書を持ってきたようですね。」

 ミクロがそう言うと、パタパタという音を立てて、ジュリアさんが売買契約書を持ってきてくれた。

「悠斗様、こちらが売買契約書となります。この項目にサインをお願いします。」

 悠斗はペンに魔力を込めながらサインをする。

 これは契約を結ぶ際に使われるペンで、魔力を込め使用することで魔力紋を契約書に刻むことができる優れものだ。

 契約書にサインをすると、収納指輪から白金貨を取り出し机に積んでいく。

「それでは契約書と白金貨の枚数を確認させて頂きます。」

 白金貨900枚ともなると、数えるのが大変そうだ。

「……はい。確認させて頂きました。それではこちらが契約書の控えとなります。」

「ありがとうございます。」

 ミクロさんから契約書の控えを受け取ると、そのまま収納指輪に収納していく。

「これでこの土地は悠斗様のものです。他に何か質問はございますか?」

「いえ、こちらからは特にありません。ご対応頂きありがとうございます。」

 これで隣の空き地が手に入った。
 邸宅に戻ったら、早速、迷宮核に魔力を流して、空き地まで迷宮化してしまおう。

 迷宮化さえしてしまえば、数分と掛らず建物を建てることができる。
 今なら大通りを歩いている人も少ないだろうし、帰り次第すぐにやってしまおう。

 そういうと、悠斗は迷宮核に魔力を流すため商業ギルドを後にする。


 悠斗が出ていった後の商業ギルドでは、ギルドマスター室でミクロが頭を抱え悩んでいた。
 悩みの原因は、当然、先ほど来店した元Aランク商人、佐藤悠斗についてである。

 結局、なんでギルドの工作員が採用されなかったのかは分からないままだった。
 探りを入れようと思っていたことをポンポン吐いてくれたのはありがたい。
 しかし、悠斗から吐き出された情報は、ミクロにとってあまりいい情報ではなかった。

 初め、ジュリアから悠斗が訪問しているという一報を聞いたときは、胸が高鳴ったものだ。
 きっと、オープン初日から人が商会を訪れず、泣きを入れに来たのだろうと……。

 それがどうだ? 月給白金貨3枚以上の高給で従業員を集め、1日にして白金貨760枚を稼ぎだすなんて想定外の結果を悠斗の口から聞くことになってしまった。
 揚句の果てには、悠斗邸隣にある空き地を売ってほしいと言ってきた。しかも、新たに50名もの追加募集をかけるらしい。

 商会オープン当日にも関わらずだ。
 さらに福利厚生といったギルドでも採用していないシステムを採用しているらしい。

 羨ましい……いや、なんでもない。

 それに、土地を売る際、『本来、商業ギルド会員であれば、白金貨750枚(約7,500万円)でお売りすることができるのですが……。』と皮肉を言ってみたが、見事にスルーされてしまった。

 しかも、即断である。値引き交渉すらしようとしない。
 これでは、取り付く島もない。

 これは、とんでもない相手を敵に回してしまったかもしれない。
 もちろん、先ほどの話が本当の話しであればという前提ではあるが、おそらく本当のことだろう。

 それに、先の会議で決めた対策が全く働いていない。

 悠斗様の商会の近くの大通りには、複数の武器防具屋や生鮮食品、肉や日用品を扱う商会が多く出店している。
 もちろん支援金のことは、商業ギルドを通じて、すべての商会に通達されたはずだが、一体どうなっているのだろうか?

 まだユートピア商会オープン初日。一週間ほど様子を見ることにしよう。

 ミクロはそう結論付けると、外に見える月に祈りを捧げる。
 これ以上、悠斗様が成功せず商業ギルドに戻ってくれますようにと……。


 ところ変わって悠斗邸では、ウッチーとトッチー監修の元、隣の土地の迷宮化作業を行っている。

 隣を隔てていた塀を、ウッチーとトッチーの【迷宮操作チェンジ】で取り崩し、新たに購入した土地の端から端まで塀を建てていく。
 後は、ウッチーが悠斗の頭に触れて【迷宮操作チェンジ】を発動させれば、あら不思議。

 従業員が50人入居可能なマンションと、倉庫の完成である。

「ウッチーにトッチー! ありがとう! これからまた従業員が50名ほど増えるけど、研修よろしくね! ああ、俺に出来ることがあったら言ってね!」

「「迷宮が発展することこそ、私たちの望みです。これからも、どうかこの迷宮の発展に尽力させて頂ければと思います。」」

 逆にお願いされてしまった。
 ちょっと奉仕精神が過剰じゃないだろうか。

「まあ、ウッチーとトッチー! 頼りにしてるよ。これからもよろしくね!」

 ウッチーとトッチーに自分の思いのたけを打ち明けた悠斗は自室に戻ってゆっくり睡眠をとるのであった。
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